異世界召喚されたけど定番のチートも逆ハーレムも番も溺愛もエロもありませんでした。 無ければ自分で作れば良いのでは? よし、私頑張ります!!

福富長寿

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119話 天秤は傾く

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「ハルミ……。今夜はゆっくりと過ごせるぞぉ。」

アーノルドはハルミをぎゅっと抱きしめて、頬ずりして来る。それにハルミはクスクスと笑いを零す。

「くすぐったいです♡もう、……でも嬉しいです。アーノルドさん、大好きです♡」

ちゅっと頬にキスをするとアーノルドは幸せそうに微笑む。その顔を見てハルミはシュエルに感謝した。

(………………シュエルさんのお陰で私。ちゃんとアーノルドさんの気持ちにも向き合えた。こんなに愛しそうな瞳と表情なのに。なんで気持ちを一瞬でも疑っちゃったんだろう。理由が有るから仕方なく私を選んだなんて、あり得ない。……この表情を見たら、簡単にわかる筈なのに)

アーノルドの瞳はハルミを愛していると告げている。その表情も、行動も、その全てがハルミへの愛情で溢れている。シュエルとお互いに本音で話をしてもう3日経つ。その間、アーノルドは相変わらず忙しくて朝と夜にチラリとしか会えなかった。その僅かな時間でも、アーノルドの気持ちは痛い程に伝わって来た。

(見えてなかった。ううん。ずっと見えてたのに、私が……ちゃんと見ようとしていなかった。)

卑屈な考えやネガティブな思考。それからベルの事。それらがハルミの目を節穴にしてしまっていたようだ。アーノルドは、これまでもハルミを可愛いと何度も伝えてくれていた。なのにハルミはそれも右から左で聞き流して、周囲のどうでも良いような人達の言葉ばかりを受け止めて傷ついていたのだ。

(……………馬鹿みたい。全然知らない人達よりアーノルドさんやシュエルさん。それにグレンさんや紅葉君を信じられないなんて。あんなの勝手に言わせとけば良かったのに、いちいち真に受けて……。馬鹿みたい)

悪意にばかり反応して、皆の好意を蔑ろにして来た自分に対して怒りが湧いた。だから、もう二度と過ちは犯さない。もう皆を疑わない。自分の気持ちにも正直に生きる。もう嘘は無しだ。それに皆を好きな事を恐れない。確かに何人も同時に好きになって、その全てに愛情を返したいと思う、その事には自分でも少し呆れるが、それでもアーノルドが一番だと今はハッキリと言える。

「アーノルドさん。愛してます♡」

「ハルミ……。ハルミ?どうしたぁ?今日はやけに可愛いなぁ。いつも可愛いが……。だが、今日は特別可愛いぞぉ」

アーノルドは頬を染めてそっとハルミの頬に手を添えた。瞳を閉じると唇にアーノルドの唇が触れて離れた。ゆっくり瞳を開けると幸せそうなアーノルドの顔が見える。

「…………嬉しいです。アーノルドさん。貴方もいつも素敵です。…………私、貴方を心から愛してます。一生側に居てくださいね。私の一番はアーノルドさんですからね」

ぎゅうっと抱きつくとアーノルドは宝物に触れるように優しく抱きしめてくれる。

「ハルミ。…………必ず君を幸せにする。必ずだ。」




▷▷▷▷▷▷




そっとベッドに押し倒されて、ハルミはアーノルドの胸元を押し返す。それにアーノルドはムッと眉間に皺を寄せた。

「ハルミ?ここまで来て今日もお預けかぁ?それは無いだろう?」

不服そうなアーノルドにハルミはクスクスと笑いを漏らした。

「少しだけ、お話しましょう?えっちはその後に、沢山したいです。でもその前に私、アーノルドさんにちゃんとお話したいです」

「話?」

告げるとアーノルドの瞳から光が消える。また何か悪い想像でもしているのか、顔も強張っている。

(もう、アーノルドさんってば。でも嬉しい……。それだけ私を愛してるんだよね?)

「アーノルドさん。違いますからね?悪いお話じゃないです。………少しは、その。もしかしたら嫌な事も言っちゃうかもですけど……。私の気持ちを、ちゃんとアーノルドさんに伝えたいんです」

「君の気持ち………?」

アーノルドの瞳に光は戻らない。

「…………はい。私、もう自分にも誰にも嘘をつきたくないんです。だから本音で話しますね?……私は、ずっと貴方の気持ちを疑っていました。こんな言い方本当はしたくないですけど、必要なので。もし嫌な気分にさせたならごめんなさい。」

前置きをしてもう一度口を開く。

「私、アーノルドさんが私を好きになった理由って、アーノルドさんが自分を欠陥品だと思ってて、だからマトモな人との結婚を諦めていて。だから私で妥協……したのかなって心の底ではそう思ってました。」

告げると光を失っていたアーノルドの瞳に怒りが灯った。

「っ………!!!!君は何を馬鹿な事を!!!!んぐっ!?」

声を荒げるアーノルドの口元に手を当てるとアーノルドはジロリと睨みつけてくる。それにハルミは苦笑した。

「ごめんなさい。アーノルドさん、私を軽蔑しましたか?………でも、私そう思ってました。だって私、自分に自信無いですし、この容姿もこの世界じゃ不細工な部類なんですよね?実際街でそう言う風に陰口言われました。だから余計に……。そう思いました。アーノルドさんは人形みたいに綺麗だから余計にそう思ってました。」

手を離すとアーノルドは更に不機嫌な顔だ。

「それは前にも言った筈だがぁ?君の容姿も拙者は好ましい。可愛いと何度も伝えている。なのにそんな風に思っていたのか?拙者に愛を囁きながら君は拙者の愛を疑っていたのか?……抱かれている間もか?」

かなり苛ついている様でアーノルドの瞳は瞳孔が龍化している。

「っ……。そう、ですね。……抱かれている時も……頭の片隅には有りました。」

ハルミがそう告げると、アーノルドはガシガシと頭を掻きむしった。

「…………っ。君の気持ちもわかる。拙者は出会ったばかりの頃に君の容姿を馬鹿にした。過去は変えられん。だが、それは過ちだったとも伝えただろう?………どうすれば伝わる?毎日これ程君に愛を伝えているのに……。これ以上どうしろと?君は拙者を一番だと言っていた。それなのに、まだそんな事を言うのか?ならその言葉も全てが嘘なのか?……やはり君はベルを……忘れられないんだろう?」

先程とは打って変わってアーノルドはしゅんと項垂れた。

「………………君は。……やはりベルを愛しているんだろう?………拙者では駄目なのか」

ポタリと雫が落ちる。

「アーノルドさん。ちゃんと最後まで聞いてください。……………思ってた。過去形です。私の目は節穴でした。今、貴方の気持ちを疑ってなんか居ません。アーノルドさんが私に向けてくれている愛情は全部ちゃんと伝わってます。痛い程に。それに、私の一番は貴方です。………………愛してます。言いましたよね?もう嘘はつかないって。………愛してます。愛してます。アーノルドさん。私が今日は特別可愛く見えたのなら、それは貴方を心から信じられたからです。貴方の気持ちも自分の気持ちも………。心から愛してます」

ハルミが、ぎゅうっと頭を抱きしめるとアーノルドはグッと歯を食いしばっている。

「ごめんなさい。アーノルドさん、怒ってますよね?私酷い事を言いましたもんね?……………嫌いになりましたか?」

「……………嫌いになんてなるものか。」

アーノルドも腕を回してハルミの胸に頭を埋めてぎゅうっと抱きついてくる。

「……………ハルミ。だが、やはり君は、ベルを忘れられないだろう?………もし明後日、君も一緒に連れて行くとそう言ったらどうする?会いたいだろう?……気持ちを伝えたいだろう?」

(っ…………。)

ほんの一瞬心は揺れた。だが、もうハルミは間違いを犯さない。

「行きませんよ。もうベルとは会いません。…………正直、まだ愛してます。でもアーノルドさんが一番大切なんです。私の旦那様はアーノルドさんですから。だから、時間は掛かりますけど忘れます、今後一切ベルとは、………会いません。」

ハルミがそう告げると、アーノルドの体はぶるぶると震えて更にきつく抱きしめられた。

「…………………ベルも君を愛していたとしたらどうだ?それでも行かないと言えるのかぁ?」

「アーノルドさん」

有り得ないたらればの話を持ち出してまで、ハルミが自分から離れるかも知れないと、こんなにも怯えるアーノルドが愛おしい。

「行かないです。だって、私の一番はアーノルドさんですから」

ハッキリとそう告げると、アーノルドの震えは止まった。

「………………そうか。」

「はい。だから安心してくださいアーノルドさん。愛しています」

耳元で、そっと囁くように告げるとアーノルドはふうと息を吐いた。

「…………………君を必ず幸せにする。」

アーノルドは震える声でそう呟いて、そしてその後は獣の様に激しくハルミを抱いた。




▷▷▷▷▷▷






激しく抱かれて眠ってしまったハルミをアーノルドは眺めていた。

(………………嘘をつかないか。拙者とは真逆だなぁ。……………これから拙者は、ずっと君にも、ベルにも自分自身にも嘘を吐き続ける。………命が尽きるまでの長い時を…………。君が先に逝ってしまったらその後は一人死ぬまで後悔し続けるのだろうなぁ。友を裏切り愛する女性を裏切った事を。それでも、君を、もう手放せない)

そっと眠るハルミの頬を撫でる。スリスリとすり寄ってくるその姿にアーノルドの胸の鼓動は早くなる。

「君は………拙者の為にこの世界に来たんだろう?なあ?拙者のつがいなのだろう?」

問いかけても返事は返っては来ない。ハルミからは、規則的な寝息が聞こえてくるだけだ。
もしハルミが明後日、病院へベルに会いに付いて来るとそう言ったのなら、全てを二人に打ち明けるつもりだった。ギリギリまでずっと迷っていた。だがハルミはそれを断った。アーノルドを一番だと言った。愛していると言った。その一言でゆらゆらと、どっちつかずに揺れていた天秤は大きく傾いてしまった。

もしベルに全てを打ち明けたら、もしかしたらベルはアーノルドを受け入れてくれるかも知れない。重婚を許可してくれるかも知れない。

ベルは優しい、超が付く程のお人好しだ。だから、きっと全てを正直に打ち明ければ、アーノルドの事も、グレンの事も受け入れてくれる。そしてハルミの一番になるだろう。アーノルドは二番。そんなのは、耐えられない。

(だからベル。…………君だけは駄目だ。君には、ハルミを二度と会わせられない)





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