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117話 特別
しおりを挟む「は……?っ……シュエルさん…何を?……だからっ……それは……っ……勘違いなんですっ!!!!」
ハルミが、慌てて告げると、シュエルは、ふっと笑う。
「いいえ。勘違いなどでは御座いません。…………貴女様のその勝手な決めつけこそが勘違いで御座いますね。………ふふ。だってそうでしょう?……わたくしが、わたくしの気持ちを本当だと言っているのですから……。何故それを貴女様がその様に勘違い等とおっしゃるのか、それがわたくしにはわかりません。………わたくしはぁ、出会ってから一度も貴女様の容姿を気にした事は有りません。……確かに、この世界では比較的目立たないお顔立ちかもしれませんが、……特別悪いと感じた事は有りません。…………………寧ろ、他に無い、特別な感じがして、好ましく思います。悪い所は、一つも見当たりません。笑顔だけで無く、髪も肌もキラキラと輝いております。…………貴女様との行為も、最初から不快感はありませんでした。何をされるのかと……そう確かに恐怖心は抱いておりましたが。ですが最初から今まで一度も…………貴女様に嫌な事などされてはおりません。……………わたくしは体は確かに動きませんが、この両の目はハッキリと見えております。………………他の誰がなんと言おうと…………、貴女様を美しいと思います。笑顔は女神様の様に慈悲深く……柔らかな体も甘やかな声も………、その全てが………わたくしは欲しい。…………愛おしい。この体が動くのなら、抱きしめて……どこかへ連れ去ってしまいたい程に……」
(何を言ってるの?シュエルさん。…っ………だって、そんなの………嘘)
嘘だとそう思うのにシュエルの真っ直ぐな瞳を見ると、そう口に出す事が出来なくなる。
「………………ふふ。ああ、一度言葉にしてしまえば貴女様への気持ちが止まりません……。……20年共に過ごしたリリィにも……一度も…欲を抱いた事は御座いませんでした。わたくしはぁ、元よりその様な行為に特に興味もありませんでしたので……。一人で欲を吐き出したことも無く。性への関心も人より少なかったのです。ですが貴女様には欲情を禁じ得ないのでございます♡ここに来た当初から、毎夜毎夜聞こえてくる隣からの甘やかな声におちんぽを大きくして、自ら慰めるすべも無く、ただ朝が来るのを待ちわびておりました♡貴女様との精液摂取を嫌などと思った事など御座いません、それどころか楽しみにしておりました。……はぁ♡こうして言葉にしていると、貴女様と体を重ねたくて堪らなくなってしまいます♡………精液摂取では無く、子作りでも無く………。ただ貴女様を味わいたい。……………体だけでも、深く繋がりたいのです……」
ペラペラとお喋りになったシュエルは、うっとりとした顔をハルミに向ける。それにハルミはグッと唇を噛んだ。
(……………っシュエルさんまで。……どうして?………だって……。だって……そんな事言われても…だって私には。……アーノルドさんが………)
シュエルの気持ちが本心からだったとしても、今のハルミにはアーノルドもグレンも居る。気持ちは凄く嬉しい。その証拠に胸の鼓動は早まった。だけど、そんな自分に嫌悪感がわいてくる。
「…………っ……シュエルさん。なんで?どうして……。今になって、そんな事言うの?……だって……、だって。………私………貴方と結婚は……出来ない。恋人にもなれない……。アーノルドさんを泣かせたくない………。気持ちが嫌な訳じゃないです。……それが本心だったら凄く嬉しい……でも……私」
言い切る前にシュエルが言葉を被せてくる。
「……そんな事は百も承知で御座います。……わたくしもぉ、本当は死んでも言うつもりはありませんでした。貴女様を困らせたくなかった。……………ですが、言ってしまったものは、もうどうにもなりませんねぇ?……お互いにね。……ねぇハルミ様……。わたくしはぁ、どうせもう永くはありません。無理に貴女様に結婚を迫る気も御座いません。…………この身では貴女様を攫うことも出来ませんし。…………ふふふ。………何も出来ないただ死に行くだけの男です。………ですが、動かぬこの身でも、貴女様の愚痴や今日の様なお心の内を聞く事は出来ます。……胸の内のモヤモヤも怒りも、わたくしにぶつけてくださいませんか?………貴女様が抱いている、悩みも……口に出すのを憚られるような想いも……わたくしに全て吐き出してくださいませんか………わたくしはぁ、貴女様のどんな心の内も受け止めます。………多少の助言もできるかも知れませんし、………自信が無くなった時は何度でも本心からの賛辞の言葉を贈りましょう」
「っ………シュエルさん、何を……」
「……………。わたくしはぁ、貴女様の特別になりたい。………ご主人様達とは違う意味での、特別な存在になりたいので御座います。……………ご主人様も、この様な死にかけの奴隷に嫉妬などされませんよ。………ねぇハルミ様、どうかお願いです。わたくしを哀れと思うでしょう?………どうか死に行く哀れな奴隷のほんのささやかな願いを叶えて頂けませんか?」
「そんなの………。私に都合が良すぎます。………貴方を利用するみたいなそんなの……嫌…。それに………死んでほしくない……死ぬとか言わないで欲しい……」
ボタボタと涙が落ちる。シュエルはそれを見て苦笑する。
「いいえ、ハルミ様。ハルミ様がわたくしを利用するのでは御座いません。わたくしが、貴女様の優しさを利用しようとしているのです。………死を盾に貴女様から同情を買おうとしているのですから…。……ハルミ様、そんな顔をなさらないで下さい。死は……誰しにも平等に訪れます。………わたくしはぁ、死ぬ時が事前にわかっている。ただそれだけなのです。………ですので、その時が来るまでは、わたくしを貴女様の特別にして欲しい。………貴女様が、今後も健やかに過ごせる様に……貴女様の辛い気持ちや怒りを……わたくしにもわけて頂きたい。……貴女様が自分自身を少しでも好きになれるようなそんな手助けがしたい。……その頬を流れる涙を拭って差し上げることは出来ませんが、そのお心に寄り添って……少しの慰めになりたいのです」
そう言い切って美しく笑うシュエルを見て胸が締め付けられる。
(っ…………どうして?なんで………。どうしてそんなに優しいの?)
答えなんてわかっている。シュエルは本気でハルミを想ってくれているからだ。
「でも………。でも私…………っ……」
「……………ハルミ様。お願いです。どうか、わたくしを哀れと思うのなら。お願いです。…………ハルミ様。わたくしだけは、どんな貴女様でも愛しております。卑屈な所も……ひねくれている所も。自分に自信が無い所は……少々いただけないのでわたくしが沢山褒めて差し上げます。ハルミ様の良い所も沢山知っているので……沢山話して聞かせて差し上げます。……………ね?ハルミ様……いいんですよ?ほら…………全部吐き出してくださいませ?わたくしはぁ全てを受け入れます。」
(っ…………本当に?……良いの?)
頭では良くないとわかっている。それなのにシュエルは優しく微笑んで甘い言葉をかけてくる。まるで悪魔の囁きのようだ。
「…………………でも。駄目です……だってそんなの…。ずるい……私。そんなの……」
「……………いいえ。良いのですよ。ずるくて結構では無いですか。……さあハルミ様………」
その言葉にまるで導かれるように座るシュエルの膝に頭を乗せる。温かな体温に何故かホッとした。
「…………シュエルさん……。私……辛いです。……私、やっぱりベルが好きなんです……。でも今はアーノルドさんが一番大事で……。なのに………こうしてシュエルさんにも胸がドキドキします。紅葉君の事も……好き。だから嫌われたくなくて勝手に決めようとしました……。……グレンさんの事も日に日に好きになるし…精液摂取もセックスも…………色んな人として…。駄目なのに……。なのに……やめられなくて…。こんな私が………私は大っ嫌い………」
「…………良いのですよ。……ハルミ様。わたくしは、そんな貴女様も愛しく思います。…………ベルとは前に仰っていた保護者様の事ですね。ああ本当に見る目のない方です。貴女様からこんなに思われて、それなのに……貴女様を選ばないなんて。……ああ…………ご主人様は……幸せ者ですね。貴女様に一番と言ってもらえるなんて……。……良いのですよ。ハルミ様。……沢山吐き出してくださいませね。……貴女様は優しいから……愛を受け取ったらそれを返さずにはいられないのですね。悪い事ではありません。………事実。グレン様は重婚を受け入れてご主人様も受け入れていらっしゃるのですよね?……なら何も問題は御座いません。……精液摂取も、貴女様が生きる為。皆とは同意の上です。……貴女様は何も悪くないのですよ……?……大丈夫で御座います。ハルミ様……わたくしは………、わたくしだけは何があっても貴女様の味方です。………この身が不自由だからではありません。貴女様を愛しているからです。わたくしだけは、本当に貴女様を愛しております」
甘い言葉と優しい声に涙が止まらなくなる。やっぱりシュエルは天使だ。
そっと見上げると慈愛に満ちた瞳で見つめられて堪らなくなって身を起こして抱きつく。
「………シュエルさん……。シュエルさん。シュエルさん………。」
ぎゅうっと抱きしめるとシュエルは頭を頬に擦り寄せてくれる。まるで優しく撫でられているようだ。
「嗚呼、ハルミ様♡……良いのですよ。沢山泣いて…わたくしに甘えてくださいませ♡……………ご主人様達にも悪いと思う必要は御座いません。これは不貞には入りません。わたくしとの子作りは公認ですし、体を重ねるのも……精液摂取で必要な事なのですから…。ハルミ様ぁ………ハルミ様♡愛しております♡わたくしが一方的に………愛しているだけで御座います。貴女様は何も悪くない……。ね?」
(……………そうなのかな……。いいのかな?…………っ……、シュエルさん……。シュエルさんシュエルさん。)
「…………シュエルさん……。私帰りたい。帰りたい。もう、全部やだ…。辛い。でも皆ともずっと一緒に居たいよぉ………。なのに帰りたい。うぅ……もう頭ぐちゃぐちゃです………」
「ええ。ええ、………、知らない世界にいきなり連れてこられて……、そう思うのは仕方がない事で御座います……。大丈夫、大丈夫で御座いますよ。…………ハルミ様……♡わたくしが今は側に居ます。……大丈夫ですよ?貴女様は何も悪くない。………きっとこれからも皆で居られます。………紅葉様ともキチンとお話なされればきっと。……大丈夫ですハルミ様………」
優しいシュエルの声に頑なだった心が溶かされていくようだ。
「………………紅葉君に嫌われたくないです………、私……」
「…………大丈夫。貴女様は美しい。それで嫌いになるようなら、紅葉様はそこまでの男だったと言うことで御座います。……大丈夫。ハルミ様………ハルミ様は美しいです……。優しくて美しい。………だからきっと大丈夫です」
(……………シュエルさん。ありがとう……。)
シュエルのお陰で心が少しだけ軽くなった気がする。
(……………言葉にするだけで、人に吐き出すだけでこんなにも変わるんだ……。)
「ありがとうございますシュエルさん。私勇気が出ました。………シュエルさんは私の特別です。…………ありがとう」
「……………礼を言わないといけないのはわたくしの方で御座います。………ハルミ様、愛しております………。貴女様の特別になれて嬉しい。」
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