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116話 本音
しおりを挟む暫く一人で泣いてから、シュエルの部屋を訪れるとシュエルは静かに窓の外を眺めて居た。
「シュエルさん。……ごめんなさい」
しゅんとして、そう告げるとシュエルは困った様に微笑む。
「………………いいえ。生意気にも貴女様のお考えに口を挟んだ……わたくしが悪いのです………。奴隷の分際で身をわきまえず申し訳御座いません。…本来なら貴女様やご主人様のお決めになった事にただ従うのが……わたくし達奴隷なのですから。謝るのはわたくしでございます。決定に異を唱えて……貴女様に声を荒げるなど、……奴隷失格です………」
「っ……違います……。私……、シュエルさんの事も…………、紅葉君の事も…そんな風に思ってないです………従わせようとか……奴隷とか……そんな……」
(……………っ確かに、奴隷だって言うのは理解してるけど……。でも…奴隷なんて元の世界に居なかったし……。…………っ……私、そんなつもり…無かった。…………)
確かにお金で買った。だけど嫌な事をしたくなかったし、なんでも言う事を聞かそうだとか、そんな事は本当に考えたことは無かった。ただどうしても精液摂取は必要で、それもするのなら出来るだけ気持ち良くなって欲しかった。
「紅葉君に対しても……、っシュエルさんから言って貰えたから。私、間違えなくて済みました。………ちゃんと話をします。ちゃんと紅葉君の意思を尊重します。………紅葉君が奴隷だから、言う事聞かせようとかそんな風に思って、黙ってお別れしようした訳じゃないんです。私が………嫌われたくなかっただけなんです………。紅葉君にも……シュエルさんにだってそうです。…………弱味に付け込んで酷い事沢山……してます。………だから顔を見られて紅葉君に……後悔されたく無かった。……………紅葉君の中で良い人のままで居たかったんです。でも、逃げちゃだめですよね。自分のした事とちゃんと向き合います」
「…………………ハルミ様?酷い事など。貴女様からされた覚えは、わたくしはぁございません。…………それは紅葉様も同じだと思います。………貴女様の優しさをわたくし達は知っております。それで後悔など……する筈がない…」
シュエルの言葉にハルミは首を振る。
「……酷い事……してます。今だってそうです。紅葉君とも、その事もしっかり話をします。だから………この際だから、もうシュエルさんにも全部正直に言いますね。……私シュエルさんに対しても、………私に対する好意は勘違い……だと思ってます。……シュエルさんは否定すると思いますけど……でも。…………病気にならなかったら、きっと私と性行為をしようなんて思わなかった筈です。私との子供を欲しがる事だってなかった筈です」
じっとシュエルの瞳を見て告げるとシュエルはハルミの瞳をじっと見返してくる。
「……………その様な、たらればの話を今されても意味を成さないと思います。………わたくしはぁ、…………健康な時に貴女様と出会っておりません。その時は他の方の奴隷で、妻もおりました。…………そんなのは誰にもわからない事で御座います。……………もし、今よりも前に出会って居たら貴女様に惹かれて……叶わぬ恋に……落ちていた可能性は0では……ありません」
「…………………0です。っ……良いんですシュエルさん。わかってるんです。私の容姿はこっちの世界では、良くないです。…………実際、私の相手をしてくれたのは目の見えない紅葉君と体の動かない貴方だけです。…………他の……まだマシな欠損奴隷さんには容姿を理由に断られてます。……………街を歩けば笑われて……。っ……。私を好きになってくれる人って………アーノルドさんもグレンさんも………皆。……………何かしらの理由が有って……。私……ポジティブに考えようって、思って…………、それで、皆の為にこっちの世界に……来たんだって。皆を幸せに出来るって、そう一度は考えて……………。でもそんなの……自分を騙してただけでした。…………だから、結婚にも全然……心が躍らないんです。……アーノルドさんの事もグレンさんの事も……好きなのに………そんな風に思ってしまって苦しい…」
(…………………今の二人の気持ちを疑ってる訳じゃない……。でも、もしグレンさんが角が長くて、あそこも普通のサイズなら私を選んだりしない。……アーノルドさんも子供を作れたら……きっともっと素敵な人を選ぶに決まってる……。ベルは……私を好きになってくれなかったもん………。普通の人は私を選ばないんだ……………)
「…………ハルミ様……それは、卑屈過ぎます。その様な事は、御座いません。……………他の方の事はわかりませんが、ですが、わたくしは……違います。貴女様は……美しい。………お世辞では御座いません。貴女様の微笑みは………まるで女神様のようです……。それを理解出来ない者がおかしいのです……」
そう言うシュエルにハルミは苦笑する。
「いいんですよ。シュエルさん、別に…気を使わなくても。私……貴方が私に媚びたりしなくても気にしないです。………本音で話してくれて大丈夫ですよ?……それで怒ったりしないです。貴方の子供もちゃんと産みますから。…………私は、嫌なんです……。そんな偽物の想いも……人の弱みに付け込む自分も………全部嫌なんです!!!!そんな風に好かれてもちっとも嬉しくない!!!!!……苦しいだけです……。嘘で褒められても嬉しくない。自分の事はちゃんとわかってます!!!!シュエルさんみたいな綺麗な人からそんな風に褒められても、余計に惨めになるだけです!!」
言っているうちに気持ちが昂ぶってシュエルに対して声を荒げてしまう。
(っ………言っちゃった。はは……、でも……ふふ、少しスッキリした…。うん、そうだよ……。……本音…言えて……スッキリした………)
シュエルは口を開けて唖然としている。その間抜けな顔にハルミはクスリと笑ってしまう。
「………ふふ。……シュエルさん。ごめんなさい。取り乱して……でも、なんか本音で話したらスッキリしました。……ふぅ。」
言ってしまった言葉は、もう取消せない。だけどハルミは後悔なんてない。全部嘘偽りない本音だ。
「…………………ハルミ様は、その様に思って居たのですか……ずっと?……わたくしと体を重ねている時も?」
「……………そうですね。……、だってシュエルさんは、もし病気にならなければ奥さんと子供を作って……幸せになれてた筈です。………だけど病気になって酷い扱いを受けたから………、そんな時に私に優しくされた。だから私に対して好意的なだけです。それは嘘の気持ちなんです。シュエルさんの状況になればそう言う心理になってしまうんです。こっちの世界で通じるかわかりませんけどストックホルム症候群って言う病気の一種なんです。……………だからそんなので好かれても嬉しくない。…………私……、苦しい…………」
「…………っハルミ様………。その様な事は無いです……。わたくしは……貴女様の事を………っ…………。………」
シュエルは眉を寄せてグッと口を引き結んだ。それが答えだ。嘘でもシュエルは一度もハルミに愛の言葉を口にした事はない。
「……………良いんです。シュエルさん。私……本当に気にしないです。寧ろ、嘘つかれるよりそっちの方が全然良いです。………大丈夫ですよ。子供はちゃんと産みますから。子供も本当は奥さんと欲しかったんですよね?わかってます。私はその代わりだって。わかってて貴方の子供を産むって決めたんです。だから、貴方は、もう自分に嘘をつかないで良いんです。………っ貴方には心穏やかに過ごして欲しいんです。………私に気を使わなくて良いんです。シュエルさん。私は貴方が私に媚びたりしなくても最後までずっと一緒にいます。前にも言いましたけど貴方が必要なんです」
ニコリと微笑みかけるとシュエルの顔色は真っ青になる。
(………………ああ、またやっちゃった。謝ろうと思ってたのに…また。………傷つけた……。自分一人スッキリして。……最低……糞過ぎる……)
俯いて唇を噛みしめる。どうしても捻くれた考えとネガティブな思考が止められなくて、それでシュエルを傷つけた。また身勝手に都合の良い捌け口にしたのだ。
「…………っ……違います!!!!ハルミ様っ!!!わたくしは、わたくしの気持ちは勘違いなどでは有りません!!!!この際ですので、わたくしからもハッキリと申し上げます!!!!……っ…貴女様との子が欲しいのは……貴女様との絆が欲しいからで………貴女様にわたくしを忘れてほしくないからだ!!!リリィとは前のご主人様から乞われたから結婚しただけで、リリィとの子を欲しいと、わたくしが思った事は一度も有りません!!!!……だから、…………っ、もし奇跡が起きて病気が治ったとしても……貴女様の側で一生を終えたい。……奴隷が何を馬鹿な事をと、思われるでしょうが……本当はわたくしも貴女様と結婚したい………。夫になりたい。……貴女様と結婚出来るご主人様達が妬ましい。……死にたくない。死が恐ろしいからじゃない!!!ハルミ様と、もっと一緒に居たいからです!!!この気持ちは嘘でも勘違いでも御座いません!!!!いくら貴女様でも、この気持ちをそんな風に言うのは許せないっ!!!っ愛しております……。たらればの話は嫌いですが…。もしもっと前に………、この身が自由に動く時に出会っていれば、必ず貴女様に恋をしてどんな手を使ってもわたくしのモノにしておりました。……今の動かぬこの身では叶わぬ事では御座いますが………。わたくしは貴女様の容姿も優しさもその全てが愛しい……。心から愛しております。…………………その卑屈な所も駄目な所も全てひっくるめてね。ふふ」
シュエルの言葉にポカンとしていると今度はシュエルがクスクスと笑う。
「…………口にすれば……叶わぬ願いに苦しむかと思っておりました……。ああ、ですが本当で御座いますね…。本音を口にすると……スッキリと致しますね………ふふ。一生言うつもりは無かったのですが……貴女様は……言葉にしないとわからない人で御座いますからね。妙な勘違いで勝手に決めつけられては堪りません。……………お疑いなら何度でもお伝えしますよ。……………愛しております。ハルミ様。」
そう言うシュエルの笑顔は出会ってから一番美しかった。
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