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113話 行き場の無い想い
しおりを挟む「ハルミ殿……♡はぁ♡この日を待っていました♡」
グレンは、ハルミの額にキスの雨を降らせて、うっとりと微笑んでいる。今日はグレンの家に遊びに来ている。何だかんだと忙しくて、前に来てから今回で二度目だ。本当はお泊まりの予定だったのだが、紅葉が嫌がるし、紅葉と過ごせるのも、後一週間を切っている。だから夕方には帰る予定だが、まだ昼前だ。時間はたっぷり有る。
「グレンさん♡私もちゅうしたいです♡」
背伸びをして、角にキスをするとグレンの顔はだらしなく緩む。本当にハルミを好いてくれている。それが凄く嬉しい。あの日から少しずつ、ハルミの中にもグレンに対する愛情が増していた。なんて現金なんだろうと思うが、こんなに真っ直ぐな愛情を向けられたら、それを嬉しく思わない女なんていないと思う。
「……………グレンさん、もう勃ってる」
クスクスと笑うとグレンは苦笑している。ズボンは、はち切れそうだ。
「……………すみません。俺、貴女を抱かなくて良いとか言っておいて、このザマですよ。……………だけど好きなので……反応するのは当然だろうよ♡………嫌ならしないが、どうする?」
そう言うグレンの瞳には、少しだけ意地悪な色が揺れている。やっぱり少し意地悪な鬼さんだ♡
「…………………ホントですか?しないんですか?」
ハルミも意地悪にそう返すとグレンはクスクス笑う。それから、ちゅっと唇にキスをして、耳元で甘く囁かれる。
「……………嫌ですか?」
「……………ずるいです。グレンさん、ずるい」
ハルミが顔を赤く染めて呟くと、そっと優しく抱きしめられて、そのままベッドに押し倒された。
▷▷▷▷▷▷
行為が終わり二人素足を絡めて、いちゃいちゃとしていると、グレンはふいにハルミの頬を撫でる。
「ハルミ殿は…………保護者の方とも、精液摂取をこんな風に……?」
ベルの事を聞かれて、ハルミの胸はチクリと痛む。未だ胸の中で宙ぶらりんになっている、この想い。アーノルドやグレンが愛情を沢山くれても、やっぱりベルへの想いは消えて無くなってはくれない。
「……………………ベル…とは…保護者の人とは最後までして無いです。……お口に……その……、飲ませて貰ってました」
そう告げるとグレンはホッとした顔をする。
「……………そうか。………貴女を前にしてそれで終われるなんて、その人は凄いな……。俺なら……絶対に抱きますよ」
グレンはそう零す。それにハルミの胸はまたチクリと痛む。
「………………童貞って言ってましたから。だから……私も、断ってました」
(それに……恋人が居るんだもん。………だから、ベルは…………)
そう告げるとグレンはキョトンとして居る。ベルの情報も資料で読んだだろう、グレンからしたら成人済で童貞と言うのは不思議なのかも知れない。
「………………娼館も行かず?へぇ、それは、なかなかに珍しい。俺の様に出禁と言うわけでもないだろうよ?でも良かったよ。………貴女を抱いてしまったら、きっとどんな男でも虜になる……♡ライバルが増えるのは……嫌だ……」
そう言ってグレンはハルミを抱きしめて額にキスをする。
(……………………ベルがライバルなんて有り得ない。だってベルは私に見向きもしないもん………。はぁ)
考えると落ち込むから、ハルミは頭を切り替える。そう言えば保護者変更はどうなってるのかも気になっていたのだ。丁度良いからこの流れで聞いてみようと思う。最近アーノルドとは全然話をする時間が無い。だから、どうなっているのか全然わからない。アーノルドは早目にするとは言っていたが、出来ればその前にベルに話をしに行きたい。キチンと振られないと、いくらベルが保護者じゃなくなってもハルミは先には進めない。ずっと想いを抱えて行くのは辛いし、アーノルドやグレンにも悪い気がする。二人と結婚するのなら、キチンと気持ちに整理をつけたい。
(なんて、………理由をつけてるけど、本当は顔が見たい。……………最後に笑顔が見られたらきっとそれで……全部忘れられる筈)
ベルとの事はきっと良い思い出になる。
「グレンさん、保護者変更の手続きの話ってアーノルドさんとしてます?それとも、忙しくてまだ全然進んでませんか?」
「………………ん?聞いてませんか?来週一度、俺とアーノルド殿でその方の所に話をしに行きますよ。……おかしいな、貴女は用事があるから同席出来ないとアーノルド殿からは聞いていたよ?」
グレンの言葉にハルミはポカンとする。アーノルドからはそんな話一切聞いていない。忙しくて、殆ど会話らしい会話なんてしてないし、用事なんて無い。今のハルミは毎日が暇人である。
(え?どういう事……………。忙しくて、まだ話せてないのかな?でも用事って?)
「………………えっと、まだ聞いてなくて。でも、………忙しいからかも。………そっか。来週なんですね。そっか…………」
そう答えてから、話は取り留めもない話題に移って行った。
▷▷▷▷▷▷
屋敷に帰って来てから、ハルミは心ここにあらずでぼーっとしてしまう。紅葉の髪を撫でる手は無意識に動くが、視線は虚空を見つめている。そんなハルミをシュエルは心配そうに眺めていた。
「ハルミ様?どうされましたか?」
シュエルの声にハルミはハッとした。手元を見ると、紅葉の髪を無意識に編み込んでいた。まるでミサンガのようだ。苦笑して解くとサラサラの髪がうねっている。紅葉は、よく分からない顔でキョトンとしているがシュエルの言葉に心配そうな顔をしている。
「あ………二人共ごめんね。すみませんシュエルさん何でもないです。………ちょっと考え事を…してて…。ごめんね。紅葉君、髪の毛くしゃくしゃになっちゃった」
指で軽くほぐすが、ボサリとしてしまった。だが、紅葉は特に気にした様子は無さそうだ。
「ハルミ?平気?眠いのか?なら添い寝する♡」
ゴロゴロと紅葉はハルミのお腹に頭を擦り寄せている。それを見るとハルミは少しだけ気が紛れる。やっぱり紅葉は癒しだ♡
「……………ハルミ様。何か有りましたらご相談下さいませね?………お話を聞くしか出来ませんが…………それでも何かお役にたてるかもしれませんし………」
そう言うシュエルにニコリと笑顔を返すと、シュエルは少し困った様に微笑んだ。
(…………………また。心配掛けちゃったな。………今は考えても仕方ないか。今日、アーノルドさんの帰りを待ってよう。………ちゃんと聞かないと駄目だし。行けるなら私も行きたいし)
今日もアーノルドの帰りは遅いだろうが、起きて待ってようとそう決めた。流石に自分に関する事を勝手に進められるのは嫌だ。
(………………そんなに長いお話にはならない筈だし。少しなら良いよね?)
そんな風に考えてふうっと息を吐く。
(……………………もしかしてアーノルドさんは嫌なのかな)
そんな考えが浮かぶ。アーノルドは、ハルミがベルに会うのが嫌なのもしれない。だけど、どうせ振られるのだから最後くらいは、ちゃんとしたい。
▷▷▷▷▷▷
「なんだ?待っていたのか?…………お誘いか?♡こうして出迎えられるのは良いなぁ♡既に夫婦のようだなぁ♡」
夜遅くに帰って来たアーノルドを出迎えると、優しく抱きあげられる。アーノルドは嬉しそうに頬擦りして来る。
「………ん。アーノルドさん、おかえりなさい。あの………ごめんなさい。お誘いじゃないんです……。夫婦みたいって言うのは同感ですけど……ふふ♡」
そう告げるとアーノルドは片眉をピクリと動かす。そしてハルミを抱き上げたまま自室へと向かっている。
「ではどうした?何か問題か?…………ロアンに何かされたのか?」
「え?いえ…………ロアンさんとは、何も無いですよ?」
何故か出て来たロアンの名前にキョトンとしていると、アーノルドも不思議そうな顔だ。
「………そうか?ならどうしたぁ?君が拙者を起きて待っているなど、珍しい。何か有ったのかと思うだろう?……やっぱりお誘いかぁ?♡照れなくてもいいぞぉ♡…………………少しなら時間も取れる♡クリちんぽを沢山舐めてやろうなぁ♡」
ガチャリと扉を開けて、それからベッドの上に優しく下ろされる。アーノルドはヤる気満々で瞳が龍化している。だがこのまま流されたら話なんて出来ないのでハルミは首を振る。
「……………だめです。お話したいんです……。今日はえっちな事は無しです」
告げるとアーノルドは眉を寄せた。
「………………話?」
少し声のトーンも下がる。目に見えて、テンションが下がっていてハルミは苦笑する。
「話とは?」
アーノルドは白衣を脱いで椅子に掛けると、ハルミの横に腰を下ろす。
ベッドがギシリと音を立てた。
「………………あの。グレンさんから聞きました。来週ベルに会いに行くんですよね?……………私も行きたいです」
告げるとアーノルドは目を見開いた。それからぐっと眉を寄せた。その反応で察した。やはりアーノルドは、故意に黙っていたようだ。
「…………………そうか。グレンが君に話したか。口止めをしておくべきだったなぁ」
アーノルドは苦い顔でそう言うと、ハルミの肩を両手で掴む。
「………………行く必要は無い。………もう、君とベルを会わせるつもりは無い」
アーノルドはそう言う。
「え?」
思わず声を出すとアーノルドは顔を盛大に顰めた。
「……………………君も拙者と結婚する。……ベルも………子供を作る。……いつかは結婚も……するだろう。だから、もう会う必要はないだろう?君には拙者もグレンも居る。…………………会って欲しく無い。……君だって……拙者に、もし好きな相手が過去に居たとして、会うと言えばいい気はしないだろう?」
アーノルドにそう言われてハルミはハッとする。確かにその通りだ。もし、アーノルドが他の女の人。……昔好きだったと言う女性に会うと言ったら嫌な気分になる。ただでさえ、アーノルドには重婚の事でも不安にさせたのだ。それを思うと胸が痛む。
(あ……………。また私……。アーノルドさんに酷い事ばかりしてる。アーノルドさんは、私にすごく優しいのに………)
考えると涙が出そうになる。自分自身が恥ずかしくて、泣きたくなる。グレンの言っていた気持ちも良く分かる。
「……………ごめんなさい。アーノルドさん、私また自分の事ばかり……」
(……………自分がスッキリする事しか考えてなかった。…………なんで私って……。いつもこうだ。)
シュンとすると、アーノルドは優しく頬を撫でてくれる。
「………………いや、君は悪くない。……拙者の我儘だ……。だが、頼むから。もうベルの事は忘れてくれ。…………ベルにも、今後此処には近づけさせない。…………っ」
そう言って歪むアーノルドの顔を見ていると、胸が押し潰されそうになる。
(…………っ……そんな顔しないでアーノルドさん)
思わずぎゅうっと抱きつくと、アーノルドはホッとした様に息を吐いた。
(………っアーノルドさん………)
「…………わかりました。貴方の嫌がる事はしません……」
そう告げるとアーノルドはハルミの肩に顔を押し付ける。じんわりと暖かい雫が肩に滲む感触。アーノルドは泣いている。
「っ……ごめんなさい。アーノルドさん泣かないで…………っ……」
思わずハルミまでポロリと涙が溢れる。
「っ………すまない」
そう言って声を震わせるアーノルドをハルミは愛しく思う。
悪いのはハルミなのに、泣く程不安にさせたのはハルミなのに、なのにアーノルドはハルミが泣くとこうやって謝ってくれる。本当に優しい人だ。
「…………………………ごめんなさいアーノルドさん。私……ベルに会って、ちゃんとフラレて気持ちに区切りをつけたかったんです。……………でも貴方を不安にさせてまでしないといけない事じゃ無いです。………………時間は掛かるかも知れませんけど、私、ちゃんと忘れます、ごめんなさい。アーノルドさん………愛してます」
そう告げるとアーノルドの震えは強くなり、肩もジワリジワリと熱い雫で濡れる。
「アーノルドさん。…………泣かないで。貴方を愛してます。………アーノルドさん。また貴方を不安にさせてごめんなさい。愛してます………」
ぎゅうっとアーノルドを抱きしめて、それからハルミも胸の痛みにポロポロ涙を流す。この涙と一緒にベルへの想いも流れていけば良いのにとぼんやりと思った。
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