105 / 144
103話 アーノルドとグレン
しおりを挟む「へえー、歌が上手いとモテる種族も有るんですね?それって容姿は全く関係無くですか?」
「海精霊人族は皆容姿が似て居るから、そこまで容姿に拘りは無かった筈だよ。だから判断基準は歌になるみたいだ。俺の種族や海精霊人や鳥人族は本能が強くて、同族婚を良しとしているんだ。だから独自の判断基準が根付いてますよ。………後は変わり種ならばドワーフかな。正直彼らの男女の区別は、俺には全くつきませんね。男女共に髭が濃いですし、背が低く筋肉質だ。彼らも同族を選ぶ傾向にありますから、人間種以外の他の種族とドワーフとのハーフは見た事無いですよ。子供が出来ても………生殖能力は持てないでしょうし、わざわざ作らないと…思う」
(……………へえ。まだまだ色々な種族が居るんだ。凄いなぁ異世界………。)
「………………ドラゴンハーフって、珍しいんですか?」
尋ねるとグレンは少しだけ困った顔をした。
「…………ドワーフと同じで……本来竜人種とエルフ族でも子を作りません。産まれて来ても生殖能力を持たないからです。作る意味が無い。子作りをするのは、無駄な行為です。こちらの世界的には………良くない行為だ。恋人同士でもキスをするのも稀な世界ですから…………。………竜人種と子を問題無く作れるのは、人間族か同族だけ、それもハーフとしてでは無く。絶対に竜人種として産まれてきます。だから、ドラゴンハーフはかなりの希少種ですね。これは種族問わず常識です。自分との子を作れる種族と作れない種族は子供の頃に皆、親からも学校でも、習う。ドラゴンハーフはその例として教本にも載ってますから希少性の割にその知名度は高い。……………アーノルドを除けば過去に二人。その内の一人は未だ存命ですが、もう一人は自ら命を絶っている。アーノルドの親を悪く言う気は無いが……。分別有る者なら………最初から作らないよ。苦労をする可能性の方が高い……自ら命を絶つほどにね」
苦い顔のグレンにハルミも眉を寄せる。
(………………アーノルドさんって、そんなに希少な存在なの?……無駄な行為。酷いけど、グレンさんの話とかアーノルドさんの娼館での話を聞くと………確かに最初から作らないのが最善なのかな……。子供を作れない人に対して、この世界は冷たいみたいだし。…………異世界なのに、夢が無いなぁ)
少ししょんぼりしてしまう。ハルミはアーノルドの事も全然知らない。年齢も、その種族の事も、親の事も。だけどこの間怒らせてしまったから、余り本人に聞こうという気にもなれない。
(……………でも知らないとまた地雷踏みそうだし。………うーん)
「………………すまない、楽しくない話になってしまったよ」
グレンは、しょんぼりするハルミを抱き寄せた。
「………………話を戻しますけど、似たような美的感覚を持つのは、人間族やエルフ、後は獣人や魔族も一部を除けば同じです。………人間族は数が多いから、それがこの世界の一般的な美的感覚として挙げられるかな。……………人間族は他種族と子を作れますからね。まあ殆どがその種族の特性を引き継ぎますが。エルフとの子は半々でハーフエルフも産まれますけど。……………もし俺と貴女の子が出来たらそれは必ず鬼人になります。」
そっと額にキスされる。
「……………鬼人の子供……。私とグレンさんの子供………。きっと可愛いですよ」
ニコリと笑って告げると、グレンも微笑んでくれる。
「…………本当に無理をしたり焦らなくて良い。それでも、夢の様だ。俺が子を持てるかもしれないなんて………それも心から愛する女性との子供を………。いつか産まれたら、絶対に幸せにします♡子供も貴女も♡この俺の命にかえても♡」
うっとりとグレンは呟いてハルミの胸元に顔を寄せる。ぎゅうっと胸に押し付けるように抱き込むと、グレンは甘える様にスリスリと擦り寄ってくる。暫くはそうしていて、それからポツリポツリとグレンは話し出す。
「………………俺……母さんからは愛して貰えなかった。角の事で何度も何度も産まなきゃよかったと言われたよ。コウと何度も比べられて……俺の顔を見たくないとまで言われた。世話も殆ど使用人がしてくれて、母さんとは年に何回かくらいしか顔を合わせてない………。それでも父さんは、表立って可愛がってはくれなかったし角の事もガッカリしてたけど、魔力が多い俺に目を掛けてくれていたんだよ。でも12の時に父さんからも見捨てられた。12になって俺が精通したので、今後の子作りに問題が無いか診て貰う為に、当時父の主治医だったアーノルドを呼んで身体検査してもらった結果が俺に子作りは不可能だと言う物だったからだ。勿論精液に問題が有ったのではなく、俺のサイズの問題だよ。」
「え?」
いきなり出た、アーノルドの名前にハルミは思わず声を出す。
「俺とアーノルドは昔からの知り合いって言いましたよね?彼は父さんの主治医として何度も家に出入りしてましたから、その前からも何度か顔を合わせた事は有りました。……けど俺がアーノルドに暴言を吐いたり見下したりし始めたのは12のその時からです。逆恨みも有りました、それに当時学校でも希少種が生殖能力を持たない事を習いましたから。その後は会う度会う度、八つ当たりとくだらないプライドで、アーノルドを馬鹿にしました。それでもアーノルドは俺に苦言を呈するでも無く、涼しい顔でサラリと躱すから……余計にムキになって俺は……………」
グレンはぎゅうっと胸に顔を押し付けた。声は震えている。
「……………………本当に後悔しています。俺は………自分も子を作れない辛さをわかっていた筈なのに………、沢山アーノルドを傷つけた……。なのに………本当に俺だけ子を作って幸せになって……良いのかな……っ?………ぅ……」
(………………アーノルドさんがグレンさんに……子供を作れないって告げたんだ。………グレンさんが12歳の時、その時にお医者さんだったって事はやっぱりアーノルドさんは年上………。ううん、今はそれはどうでもいい、それよりグレンさんだ。)
胸元が熱い。グレンは泣いているようだ。
「グレンさん…………もう終わった事です。アーノルドさんも気にしてませんよ。…………ね?よしよし。大丈夫、大丈夫です。グレンさんだけじゃなくて、皆で幸せになりましょうね?アーノルドさんは私が絶対に幸せにします!!!!」
優しく髪を撫でるとグレンは母親に甘える子供の様に胸元に頭を擦りつけていた。
▷▷▷▷▷▷
「………………緊張してます?」
屋敷前でグレンはピタリと足を止めた。繋いだ手は微かに震えている。
「…………緊張してますよ。それに貴女に色々と吐き出して、やっぱり俺はアーノルド殿に、もっとちゃんと謝らないと行けないと再認識しました。………彼は優しくて立派な人だ。俺はそれに甘えていた。もっと、きちんと誠意を見せないと……。そうしないとこれから、彼とも家族になるのに、俺は合わせる顔が無い」
顔色を青くしてグレンはそう言う。まるで父親に結婚の挨拶に行く男の様だ。思わずクスクスと笑ってしまう。
「大丈夫ですよ。グレンさん。アーノルドさんは絶対に受け入れてくれますから」
そう告げると後ろから声がした。
「………………拙者がなんだぁ?君達そんな所で立ち止まってどうした?何か拙者に話が有るのかぁ?」
振り向くと大きな鞄を持ったアーノルドが立っていた。どうやら今仕事から帰って来た様だ。凄いタイミングだ。グレンと繋いだ手から震えが強くなったのが伝わって来た。
(大丈夫………だよね?)
不思議そうな顔のアーノルドを前にして、ほんの少しだけハルミも緊張する。
1
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる