異世界召喚されたけど定番のチートも逆ハーレムも番も溺愛もエロもありませんでした。 無ければ自分で作れば良いのでは? よし、私頑張ります!!

福富長寿

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94話 ただ幸せを願う

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病院から帰って来たアーノルドの部屋に行く。紅葉とシュエルは、また話をする様だ。紅葉が大分興奮していたので、多分冒険者の話を聞くんだろうなと思い、ハルミはクスリと笑う。

(………………あんなに喜んでくれてるんだもん。…………………良かったって思おう。少し寂しいけど………でも、紅葉君が幸せなら……それで良い)









▷▷▷▷▷▷







「………………紅葉との契約を早く終わらせる?本人がそれを望んだのかぁ?…………まあ、問題は無いだろうなぁ」

アーノルドはそう言って、手元の紙をじっと眺めている。

「アーノルドさん。それなんですか?」

ハルミもアーノルドの持つ紙をじっと見ていると、アーノルドは顔を上げた。

「シュエルの検査結果だぁ。かなり精密な検査をしたんだがなぁ、驚く事に奴の魔力量はあのベルをも凌ぐ。…………………ちょっとやそっとでは魔力が切れることはないぞ?本当に良い拾い物をしたな。………シュエルが居れば君の命は問題無い。……………………永くないのが惜しいな。かなり病が進行している」

アーノルドはそう言って少し眉を寄せた。

「………そうなんですね。……………………っ………」

(…………やだなぁ。こうやって他の人の口から聞くと……、余計に…………やだよ。シュエルさん)

医者であるアーノルドが、何度もシュエルの死を避けられないものとして話すのを聞くと、胸がぎゅっと締め付けられる。

「…………………あの、アーノルドさん。紅葉君の話に戻るんですけど、目が治ったら冒険者になりたいって聞きました。……………誰か良い方は居ませんか?」

「…………冒険者?………ふむ。それなら数人、伝が有る。悪い様には絶対にしない、安心しろぉ」

そう言って、アーノルドはハルミの頬を優しく撫でてくれる。

「良かった…………」

ハルミが、ホッと息を吐くとアーノルドは微笑む。

「……………目の方は暫く入院になる。一月程時間をかけて視神経を侵した毒を抜く。それから回復魔法をかける。本来ならかなり高額な料金が掛かる難しい治療だが、拙者の……、弟子が毒に詳しい。それも、安値で引き受けてくれた。……………紅葉は運が良かったなぁ。本来なら治しては貰えん。……………ハルミ、そんな顔をするなぁ…………。」

暗い顔のハルミにアーノルドは優しく微笑む。

「…………………入院。その後は………、すぐに冒険者の新しいご主人様の所に行けますか?」

「ああ、その様に手配する。………………………ハルミ、君はその後はどうする?新しく主人になる奴は拙者の知り合いだ。紅葉とは会おうと思えば何時でも会えるぞ?紅葉本人の希望は聞いたのかぁ?」

アーノルドのその言葉にハルミは首を振った。

「いえ。……………治った後は会いません。弱みに付け込んで、したくない事を沢山させてしまいましたから。本人が今はそう思って無くても…………今後そう思う事もあるかも知れませんし、………それに………良い思い出にしたいんです。私にとっても、紅葉君にとっても。だから………何も言わないでお別れします」

そう告げるとアーノルドは複雑そうな顔をした。

「……………それは、だが、拙者がこう言うのは少し癪だが、紅葉は君に多少なりとも好意を持っている……様に思う。ちゃんと話をした方が良いんじゃないのか?恨まれるぞぉ?」

「いえ。その好意だって勘違いです。…………………酷い目にあって、それで、その時に優しくされて、それで勘違いして、私に縋っているだけ……。紅葉君も、いつかは誰かと結婚して子供を作りたいって……、沢山欲しいってそう言ってました。だから関係をスッパリと切るのが一番良いんだと思います。………………枷になりたくないです。幸せになって欲しい。………………それに、顔を見られたくないんです」

ハルミは震えて俯く。なんだかんだと紅葉の為だと言ったが、結局は顔を見られたくない。紅葉の期待を裏切りたくない。

(紅葉君は私の事、綺麗で可愛くて優しいって思ってる。凄く美化して想像してる。…………………がっかりされたくない)

紅葉がハルミを褒める度、早く顔を見たいと言う度に、ハルミはどんどんその想いが強くなった。シュエルを買いに行った時、比較的欠損の少ない奴隷3人から容姿を理由に断られた。紅葉と比べると大分劣る3人からだ。本当に無理だと青ざめて頭を下げられて、ハルミは心が傷ついた。だから、もしあの美しい紅葉がハルミを見て、顔を顰めて後悔したら、そう思うと胸が苦しい。

(絶対に………嫌。紅葉君の中で綺麗で優しい私のままで終わりたい。だから会えない)

ハルミだって紅葉からの好意に少しは気づいている。だけどそれは本当のハルミに向けられた物じゃない。紅葉の中での想像のハルミに向けられた物だ。

「ハルミ……………君は可愛い。他の誰がなんと言おうと、拙者がそう思っている。それで良いだろう?」

そう言ってアーノルドはハルミに優しくキスをしてくれる。

「ん、アーノルドさん。嬉しい………好き」

きゅっと胸元に抱きつくとアーノルドは優しく髪を撫でてくれる。

「絹のような美しい黒い髪に、柔らかな肌……。本当に君はどんどん美しくなる。それに言動も仕草も全てが可愛い♡確かに顔の造形は……、いくらか薄いかも知れんが、拙者はそれも好きだ………♡こうして側に居ると抱きたくて堪らない♡………ハルミ♡
愛している……、顔を見たからと言って、がっかりなど紅葉もしない。だが君が嫌がるのなら、拙者からは無理強いはしない。紅葉に対しても、君は十分良くしてやった。本来なら欠損奴隷に対する扱いでは無い。………………君がそんな顔をする必要は無い。責任は果したさ」

そう言ってアーノルドは何度も優しくキスをしてくれる。

「新しい主人との契約譲渡まで、紅葉には何も伝えない。…………それで良いな?」

アーノルドはそう言う。

「……………はい。大丈夫です。…………………あの、お金も沢山、持たせてあげてくださいね」

おずおずと、そう告げるとアーノルドは苦笑する。

「…………君は優しすぎるぞぉ?ここまでして貰える、紅葉は本当に運が良いなぁ……」

少しだけ苦笑して、そう言うアーノルドにハルミも苦笑を返す。

(運が良ければ2連続も変態に買われないよ…………。………紅葉君。せめてこれからは幸せになってね。夢を叶えて、立派な冒険者になって、素敵な奥さんを見つけて……子供も沢山……………っ…………、寂しい………………)

胸の痛みに耐えるように、アーノルドにぎゅっとしがみつく。

「…………………出来るだけ早くしよう。入院は再来週までにはなんとかする。………………ハルミ、………泣くな」

「泣いてません」

涙がアーノルドの白衣に染み込んだ。






▷▷▷▷▷▷







アーノルドとの話が終わり、部屋に戻るとシュエルと紅葉は楽しそうに盛り上がっている。

「おかえりなさいませ。ハルミ様、紅葉様は冒険者になられるのですね。大変喜ばしいことです」

シュエルはニコニコとそう言う。

「ハルミっ♡今、シュエルと色々と話をしていた!!…………………少し不安だが、やはり楽しみだ。必ず沢山お金を稼ぐ!!!聞いてくれハルミっ………、シュエルはドラゴンと戦った事も有るそうだ!!」

興奮する紅葉の横に腰を降ろして、優しく髪を撫でると、紅葉は擦り寄ってくる。

「ふふ……………楽しいお話聞けて、良かったね紅葉君。もう一ついいお話が有るよ。…………再来週くらいにね、目を治す為の入院の準備が出来るよ。………一ヶ月くらい入院になるけど、その後に目は完全に治せるってアーノルドさんが言ってた。……………その後はすぐに冒険者になれるよ。………紅葉君………良かったね」

そう告げると紅葉は震えている。顔が真っ赤だ。

「ハルミっ、本当に?本当に良いんだなっ?はぁ………嬉しい♡夢の様だ♡ハルミぃ♡ハルミぃ♡」

ぎゅうぎゅうとハルミを抱きしめて、そしてざりざりと髪を舐めて、紅葉はポロポロ涙を流している。

屋敷の中では、包帯はもう付けていないので雫がハルミの頬や胸元にも落ちてくる。

「うん、紅葉君………………私も嬉しい。紅葉君が喜んでくれて嬉しい」

流れる涙を舐め取ると、紅葉は驚いた様に瞳を開く。白く濁った痛々しい瞳。その瞳が美しく治るのをハルミは見れないが、それでも嬉しい。

(……………紅葉君。…………紅葉君。ありがとう。紅葉君が居てくれてよかった。本当によかった…………………)

その痛々しい瞳から流れる涙を直接舐めとる。

(しょっぱ………)

「あ……………ハルミぃ♡んっ♡ハルミぃ♡んぐんぐ♡」

紅葉は最早ハルミの髪を口に含んで食べている。

「…………お二人が幸せそうで良うございます♡」

そう言って、シュエルもニコニコとしていた。

「うん。紅葉君が嬉しそうで、私幸せです。……………………紅葉君、幸せになってね」

そう告げると髪をもしゃもしゃしながら、紅葉は幸せそうに笑った。


「もう幸せだ♡ありがとうハルミ♡……………入院は……少し寂しいが、…………それでも……我慢する」

そう言う紅葉の頭を優しく撫でる。

「ふふ。…………………………紅葉君。きっと、これからもっと幸せになれるよ。絶対にね」

そう告げると紅葉の喉はゴロゴロと音を鳴らす。優しく抱きしめて髪を撫でると、紅葉のゴロゴロ音は大きくなった。

(………………紅葉君。寂しいけど、でも、こんなに嬉しそうで本当に私も嬉しい………。優しくて可愛い私の甘えん坊な猫ちゃん。……………好き……だよ。絶対に、幸せになってね)

そう思いながら優しく優しく髪を撫でる。

「…………………ハルミ♡ハルミ♡」

うっとりと瞳を細める紅葉に思わず笑みが溢れる。

ただ思うのは貴方の幸せ。

(……………………この世界に来た理由って、なんだろうって思ったけど…………紅葉君を助ける為だったのかなぁ。……………そうなら嬉しい)


「…………………………本当に、ハルミ様は女神様のようですね………。なんと慈悲深い微笑み……」

そう溢して、シュエルは微笑むハルミをうっとりとして、眺めていた。










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