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7話 イケメンパラダイス
しおりを挟む「ハルミ、もし途中で疲れたら言ってください。………無理に急ぐ必要は無いんだ」
「ありがとうベル。……………疲れたらちゃんと言うよ」
ハルミがニコリと告げるとベルもニコリと笑う、二人で馬に乗りベルがハルミを後ろから抱きしめる体勢だ。
(……………うん、悪くないなぁ)
ハルミはニコニコする。朝は一瞬会社に行かなきゃ!!!と思って焦って飛び起きたが、驚いた様にこちらを見るベルと目が合い、あ、夢じゃなかった。とガッツポーズをしてしまった。ベルは変な顔でこちらを見ていた。その後は朝ごはんを食べて軽く身嗜みを整えて元々着ていたスーツの上からベルから渡された大きなローブをすっぽりかぶっている。そして家の外に出て思ったよりも山の中でハルミは驚いた。すぐ横の馬小屋には馬が2頭いたがその内の大きな方をベルは外へと出した。
▷▷▷▷▷▷
カポカポと馬の蹄の音を聞きながら緩く流れる景色にハルミは頬を緩める。
(…………むふふ。異世界来たって感じがするなぁ)
今更ながらにこの非現実的な光景を見て、これが現実なのだと受け入れて胸が踊る。
「ハルミ?…………ふふ本当にハルミは気にしてないんだね。……凄くご機嫌だし良かったです」
ベルは軽く笑いながら言う。
「だから言ったでしょ?………もう会社も行かなくて良いし、それに憧れてたから」
ハルミがそう言うとベルは不思議そうな声を出した。
「憧れ……ですか?」
「そう。…………私の元いた世界ではフィクションとして異世界転生とか召喚とかそう言うのが流行ってたから、………えっと本とかそう言うので。………現実逃避だったけど
こうなって見てやっぱり心踊る気持ちもあるよ」
「なるほど。…………なのでハルミは急にこちらに来たのに落ち着いて居たんですね?…………こちらの世界でも似たような読み物や舞台。娯楽作品は有りますよ。…………こちらが喚びだす側としての物語が多いですが……それは文化の違いでしょうね。………それに転生された方と言うのは聞いた事がありませんね」
ベルはクスリと笑う。
「そうなの?」
「………………はい。………あ、そう言えば、街についたらそのローブ絶対に脱がないでくださいね。………服も買えたらすぐに着替えてください。ハルミのその服は少しこちらでは露出が多すぎます。…………後、私と貴女は兄妹と言う事にします、街で私の顧客と会うかもしれないので……もし私が誰かに話しかけられた時は私が紹介しますので貴女は静かにしていてください。話しかけられても極力声は出さないで頷くだけで良いですからね」
そうベルは言う
「足とか肌とか出したら駄目なんだっけ?そう言う国は私の世界でもあったよ。…………兄妹?姉弟じゃなくて?」
尋ねると聞くとベルは頷く。
「…………ぱっと見はハルミの方が年が下に見えますから。………それに、少しだけ見栄ですね。弟より兄の方が良いです」
「ふふふ。
なるほどねー、見栄っ張りだなぁ」
ハルミはクスクス笑った。
ベルが言うにはこの世界、特に今いる国では女性の露出は良くないとされている。ドレスやワンピース等も首元まで隠れているしスカートも足首までと長い。肌を殆ど出さず女性自身も大人しい性格の人が多いそうだ。なのでハルミはこの世界では少しだけ特殊なタイプになる。
(……………要するに痴女って事じゃん。言葉を選んでくれてたけどベル困ってたもんな)
ハルミは困った様に苦笑しながら説明してくれたベルを思い出す。
(………………やっぱり童貞のベルには色々とハード過ぎだったんだろうな。昨日の私の行為は……。それは困る訳だよ。………凄い変態と思われたかも)
チラリと後ろのベルを見ると不思議そうな顔をされた。
(今後は少しだけ自重しよう。エロい事は奴隷とすれば良いもんね。……童貞で一般人のベルに私の世界のエッチを押し付けるのは……良くないな。………処女にハードSMプレイをこれが普通だよ?って騙して仕込むような物じゃん。………いつかベルにセックスの相手ができた時に困るもんな、それじゃ)
▷▷▷▷▷▷
「大丈夫?腰は痛くないですか?」
「うん。大丈夫、ありがとう。ベル」
ベルの手を取り馬から降りる。ベルは馬を街の外れの馬小屋に預けるとニコリと笑った。
「思ったよりも早く着きましたね。さ、手を絶対離さないでくださいね」
ベルはハルミの手を取る。全然照れた風な様子がないのでハルミが首をかしげているとベルが説明してくれた。この世界では女性は一人歩きを殆どしないで家族か男性と出掛けるそうだ。そして兄妹だろうと親子だろうと歩く時は必ず手を繋ぐ。
「この世界って男女比片寄ってるの?女の子を大事にする感じなの?」
ワクワクと尋ねたがそんな事は無かった。
「いえ?………出生率はどちらもそう変わりないはずですよ?女性は大人しい方が多いですからね。周囲からもそれを求められていますし………そうじゃない方をバッシングされる方が多いので。…………なので世間体だとかを気にしてそうするのが一般的なんですよ。女性に一人歩きをさせると家族が変な目で見られますから」
ベルは苦笑してそう教えてくれた。暫く歩くと人が増えて来たが確かにベルの言うとおりだった。皆女性は連れと手を繋いでいる。だからこれがこの世界では当たり前の事でベルは照れなかったのだろう。
(ほんと異世界だなぁ)
▷▷▷▷▷▷
街並みはよくある異世界アニメの背景のようだ。ヨーロッパ風と言う感じだ。歩く人の中にエルフや獣人を見つけてハルミのテンションは上がった。皆キラキラしているし右を見ても左を見ても容姿が良い人ばかりだ。顔の堀が深く髪や瞳の色彩も様々。男女共に顔が小さいしスタイルも良い、西洋人を二次元に近づけた様な容姿と言えばいいのか。ゲームの良く出来たCGの様だ。
(なるほどね。これは私達はぱっとしない訳だわ。ちょっと歩いただけで前の世界じゃスーパーモデル並みの人ばっかりだもん)
歩いていても誰もこちらに注目しない。ベルとハルミはまるで空気である。
(………ふーん、だからベルは童貞なのかな?モテないのかな?…………良い人なのにな)
▷▷▷▷▷▷
「ハルミ?本当にもういらないんですか?沢山買って良いんですよ?」
「ううん。もう十分………元々物欲って無いんだよね私」
「…………本当にそうですね。もっと買っても良いのに………」
服を買ってからすぐに着替えてそれから生活用品を見て回っていたがすぐに必要な物は揃った。だからもうオッケーだと伝えるとベルは眉を寄せていた。ハルミが買ったのは服を7着と下着も7セット。それからちょっとした化粧品に石鹸と香水だけだ。後はタオルやら何やらと二人でも使えそうな物を少し、生活するのには十分である。それでもベルは心配そうだ。
「今は余り物があっても荷物になって困るし、ベルの家を出るってなったらまた自分でいる物を買うよ」
そう伝えるとベルは少しだけ眉を下げて答えた。
「…………そうですね」
▷▷▷▷▷▷
「ハルミ?………そんなに楽しみなんですか?」
隣で目をキラキラさせるハルミをベルは呆れたように見る。
「………だって奴隷なんて見たことないもん」
ハルミが答えるとベルはまた呆れたように言う
「先程何人かすれ違ってましたよ?」
「え?!なにそれ!!気づかなかったよ私っ!!!!」
ハルミはキョロキョロする。通りには人が多いがどの人が奴隷なのか全然見分けがつかない。
「…………やっぱりハルミは魔力が0なんですね。………目に見える違いは無いですが
私達は魔力で見分けがつきますから」
ベルの言葉にハルミはじっと周囲に目を凝らすがやっぱりわからなかった。諦めて奴隷館に向かいながら話す。
「奴隷って焼印とか見た目でわかるような印とか無いの?」
尋ねるとベルは首を横に振った。
「…………犯罪奴隷の中でも凶悪な者にだけ額や頬に墨を入れますが基本的には無いですね。でもすべての奴隷は体に魔力を流すのでわかります。……………どうわかるかと魔力の無いハルミに言葉で説明するのは難しいのですが…………」
ベルは困った顔だ。
「うーん。まあ、私にはよくわからないけどベル達こっちの世界の人にはわかるってことだよね?」
ハルミがそう言うとベルは頷く。
「ええ。魔力で見分けが付きます。体に痕をつけないのは………基本的には奴隷にも人権は有りますから、傷をつけたとみなされると犯罪になってしまいますからね。……だから奴隷と言えど目に見えて差別も虐待もありません。………………あ、着きますよ」
(………き、緊張してきた………)
ハルミは胸がドキドキした。
▷▷▷▷▷▷
「なにこれ。すごい」
ハルミは語彙力を失った。目の前の硝子張りの部屋の中ではイケメンや美女が手を振っている。
「そちらはAランクですから私達はあっちに行きますよ」
ベルにグイグイと手を引っ張られながらもハルミは視線を離せなかった。
「……………なにこれパラダイス?」
ぽーっとするハルミをベルはむっとした顔で見ている。
「…………ハルミ、そんなだらしない顔は駄目ですよ。女性が外でそんな顔をしていたら………変な目で見られてしまいますから、此処ではフードをかぶっていてください」
無理矢理フードをかぶせられる。しかしそれも気にならない程にハルミは今うっとりと余韻に浸っていた。
(……………異世界しゅごい……、…………何あれ。本当に同じ生き物?…………………イケメンパラダイスやぁ)
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