異世界召喚されたけど定番のチートも逆ハーレムも番も溺愛もエロもありませんでした。 無ければ自分で作れば良いのでは? よし、私頑張ります!!

福富長寿

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1話 はわわ♡来ちゃいました異世界。

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朝目覚ましの音に目が覚める、たっぷりと寝たはずなのにスッキリとしない頭を抑えて森ハルミは小さく呻いた。

(……………もう朝。……………さっき寝たばっかりなのに、仕事行きたくない)

一度は起き上がったのに枕にポフンと頭を落とす。

(あー、仕事やだ。行きたくない、誰か養ってくれないかなー。働きたくないでござる……)

無意味な事を考える

そうしてる間にも刻一刻と出勤時間は迫る訳でハルミはノロノロと体を起こしてから洗面所へと向かう。

鏡に映った自分の姿は荒れた肌に薄っすらと隈のある目元。髪は艶もないボサボサ。今年28歳彼氏無し、生きがいはアニメや漫画、小説を見る事だけだ。

(…………ふ。一生お一人様かな?………………はあ)

ハルミはため息をつく。

一応は去年まで5年付き合った彼氏が居たが年下の女に盗られた。しかもクリスマスにだ、ハルミが予約したお洒落なレストランに浮気相手を連れて来られた時は3度見したものだ。相手の子は乳も大きかったし顔も可愛かった。

(あーそう、なるほどね。そう、そっちの方が良いよね。若いし可愛いし胸でかいし)

ハルミは怒りよりも先に納得した。

仕事が忙しかった事もあり忙殺されていたハルミは元彼氏が

『別れたいんだ。最近全然会えてなかったし…………それに俺は本当の愛を見つけたんだ!!!』

そう言ってから、しくしくと泣く浮気相手の肩を抱いてお涙頂戴な茶番を繰り広げているのをボーッと眺めた。

それを見ているとなんだか何もかもがどうでも良くなって疲れていたし早く帰りたかった。無理してクリスマスに休みをもぎ取ったのにこの仕打ちかよと思った。

だから

「わかったよ、幸せにね」

そう告げてから席を立った。

「…………そう言う所が君は駄目なんだ。…………全く可愛げがない、そんなんじゃ誰とも上手く行かない」

何故か元彼氏から追い打ちをかけられた。


(………………浮気しといて何言ってんだコイツ)

そう思ったがハルミは一度も振り向かずその場を後にした。

今思えばそう言う所が駄目だったんだなと思う確かに可愛げが無い。

(勝手に言ってろ)

そう強がってはみたがその元彼氏の言葉がどうしても頭から離れなかった。


思い出すとムカムカして来て乱暴に顔を洗い、スーツに着替える。

(はあ………。もう現実の男なんて懲り懲り……あー。異世界転生とか異世界召喚されたいなー、イケメンに求婚されて溺愛されてデロデロに甘やかされたい)

ハルミは思う。彼氏と別れてから
ハマったのがそう言う小説や漫画だったのだ。もう三次元の男は要らない。二次元で十分だ。

(……………………何処か遠くに行きたいな………。……………扉開けたら異世界とか、………はは。なんちゃって)

ハルミは乾いた笑いを零した。



その願いがわずか数分後に叶うとは
この時のハルミは思いもしなかった。





▷▷▷▷▷▷





「本当に申し訳御座いません!!!!」

目の前で土下座するローブ姿の青年を見下ろしてハルミの口角はひくりと引きつる。しかし同時に胸に湧き上がるのは期待だ。玄関を出た瞬間に足元が光り魔法陣のような物が地面に浮かび上がった。眩しさに目を一瞬閉じてから開いたら目の前に
私魔法使いです!!!よろしく!!!と言う様な格好のローブを着た男が立っていたのだ。これで期待するなと言う方がおかしい。

(異世界召喚キタコレ!!!私聖女?
それとも王子様とかの花嫁として呼ばれたパターン?!番?!チートは?!うっほほ!!!)

ハルミが一人盛り上がっていると男は全力で土下座をかまして来た。日本人のハルミが惚れ惚れとする様な姿勢に、ほう?なかなかやるな君と思った。まあ多少はその姿に引いたがそれでもハルミは口角がニヤけそうになるのを止められない。

(…………………うふふ。
まさかまさかこんな展開になるなんて神様ありがとうございます!!!)

気を抜くと手を合わせて拝みそうになるハルミ。王子様は何処ー?イケメンは?と鼻息荒くキョロキョロしてそして気づく。なんかおかしく無い?と

まあ召喚されるのは初なので、どうなっていたら正しいとかは良く分からないが今ここにはこの魔法使いっぽい男以外に人は居ないし。よく見れば生活感の有る一人暮らしの部屋って感じだ。普通召喚の儀式とかって松明の焚かれた石造りの厳かな場所とか神殿とかでするんじゃないの?とハルミは思った。

(……………いや、もしかしたらこの男の嫁として呼ばれたパターンか?人里離れた所に住むイケメンでチートな魔法使いからの、溺愛。ふむ……………有りだな)

ハルミは土下座する青年をよく観察する。今は俯いて居て顔が見えないしさっきは気が動転して顔をよく見ていなかった。声はわりかしタイプだった様な気がする。しゃがみ込み手を伸ばすと魔法使いはビクリと肩を震わせる。そして恐る恐る上げた顔はとても地味だった。日本でもそのへんに居そうだ。


ちっと思わず舌打ちすると男はまた土下座して、すみませんすみませんと繰り返した。






▷▷▷▷▷▷





「はあ?!え?事故?え?じゃあイケメン王子様は?チートは?私聖女じゃ無いの?逆ハーレムは?!番は?!」

ハルミは男の胸ぐらを掴んで思い切り揺さぶった


「うぇぇぇぇっ!!!!!!やめてくださいよぉぉぉ!!!!ちょっと何言ってるかわかりませぇぇえん!!!すみません!!!本当に申し訳無いと思ってますぅぅぅ!!!!揺らさないでくださぃぃぃ!!!!」


青い顔で吐きそうになる男をペイっと放り投げてハルミはぶるぶると震えた。男が説明した内容は事故によりゲート?が開いてハルミを喚んでしまった。事故だったので元の場所に帰る事は出来ないと言う事だった。聞き終えてから思わず

「え?私って聖女とか勇者とか
世界救うとかそう言うので呼ばれたんじゃ無いの?」 

そう聞き返すと何か可哀想な物を見る目で見られた。


あ然とするハルミに男が更に詳しく
説明する。確かにこの世界マージャルマには召喚魔術が存在しているし
異世界から聖女や勇者を喚んだと言う話も過去には有るそうだ。

獣人や魔族や人族が共存しておりハルミの思い描いた異世界とそう違いは無いようだ。しかし男は言うのだ。たまたま本当に事故で喚んでしまったと、なのでハルミには世界を救う使命もチートもイケメン王子様も番も逆ハーレムも無い。なんならお金も住む所も職も何も無い。無い無い尽くしである。ハルミは咽び泣いた。


(こんなのってあんまりだよぉー!!!こんな異世界召喚なんて望んでないっ!!!!ふざけんな!!!)




▷▷▷▷▷▷





「あ、あの………?落ち着かれましたか?」

男は心配そうに尋ねてくる。ハルミは泣き腫らした瞳を男に向けた。

艶の無いグレーの髪にアジア系っぽい顔立ち。不細工じゃ無いけど全体的に薄い。日本でもその辺に居そうな地味な青年だ。瞳も茶色で本当に地味だ、ローブがコスプレに見えてくる。全然イケメンじゃない。

またハルミは泣いた。



そうして小一時間泣いて涙も枯れ果てた頃、青年はコホンと咳払いをしてかしこまったように言う。


「……………名乗るのが遅れましたが
私はベルと申します。……………本当に貴女には謝罪してもしきれない事をしてしまいました。こんな事を言われても貴女の怒りは収まらないでしょうが…………貴女のこちらでの生活は私が責任を持って面倒を見させて頂きます。それに、相応の慰謝料もお支払いします。…………貴女の人生をめちゃくちゃにしたのですから償いは必ず致します」

そう言ってベルは頭を下げた。その言葉にハルミはキョトンとする

「え……。お金くれるの?…………生活の面倒も見てくれるの?」


「ええ。…………貴女には何不自由させないと私のこの命に賭けて誓います。………………先程説明させて頂いた通りこの世界は異世界の存在を受け入れておりますし。今は居ませんが過去には貴女の様に異世界からいらっしゃった渡り人様も居ます。………………戸籍も何とかなります。絶対になんとかします。私を信じてください」

そう答えてからベルはそっとハルミの手を取る。それにハルミは小さく声を漏らした。

「う」

「う?どうかなさいましたか?どこか痛みますか?」

ベルは心配そうにハルミを見た。

「うわぁぁぁん!!!なんでお兄さんイケメンじゃないのぉぉぉ!!!!!!
シチュエーションめちゃくちゃ良いのに、がっかりだよぉぉぉ!!!!!
実は本当の姿はイケメンでしたとかじゃないのぉ?!そうだと言ってぇぇぇぇ!!!」

ハルミは力いっぱい叫んだ。




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