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1話 ヤリ捨て騎士

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「あ、あの。…………わ、私とエッチ……してくださいっ!!!抱いてくださいっ!!!お願いします!!!」

ぷるぷると震えながら、エルシーは目の前でポカンとする幼馴染の騎士、フィンレーに土下座した。

土下座したお陰で真っ赤に染まった顔も、涙で潤む瞳も見られては居ないが、それでも、エルシーは死にたい気分になった。何が悲しくて幼馴染に抱いてくれと土下座なんてしないといけないのか。

(うぅ………。でも、仕方ないんだもん。だって………、あと3時間以内に処女喪失しないと死ぬし…………)



エルシーがフィンレーに土下座する事になった経緯は、今から半日程前にまで遡る。







▷▷▷▷▷▷








エルシー・ドロップ(18)は少し素朴な顔立ちの茶髪をお下げにした少女。そして見習い魔女だ。

母も祖母も昔は魔女だった。だからエルシーも子供の頃から、魔女になる道を目指して、魔術の勉強に明け暮れた。

魔女と言っても怪しげな悪い女では無い。この国『クロッカス』では、魔女はれっきとした立派な職業だ。魔物を討伐する為の毒を調合したり、病気や傷を癒やす薬を調合する。エルシーは魔力が少ないので、魔法を使う呪術の類は使えない、薬の調合だけだ。それでも魔女の薬を欲しがる人間は沢山居る。だから完璧な魔女になれれば一生安泰だ。

「ふう………。今日の調合も良い感じに出来たっ!!!…………フィンレーに届けようかな?………ううん。やっぱり止めておこう……、会うの気まずいし………」

完璧に調合出来た傷薬を手に取って、エルシーはニコニコと微笑んだ。それから幼馴染で騎士のフィンレーに薬をプレゼントしようかなと考えて、すぐに首を振る。

フィンレー・ベゴニア(19)。輝く金の髪に、端正な顔立ち。いつもニコニコとしていて、物腰も柔らか、若くして騎士団に入る程の剣の腕前。

一年前まではエルシーの自慢の幼馴染だった。良くこうして調合した薬を渡しに行って居た。だけど最近は余り顔を合せて居ない。エルシーがフィンレーを避けているからだ。

(……………【ヤリ捨て騎士】なんて、酷いあだ名……)

フィンレーは、一見完璧な騎士様に見える。エルシーだって、そう思っていた。だけど騎士団に入って2年目、去年の春頃からフィンレーの黒い噂話がエルシーの耳に届くようになった。

(言い寄ってきた女が美人なら誰でも抱く。だけど一晩だけの関係………)

特定の恋人を作らずにヤリ捨てする。と言う噂だった。最初はフィンレーに振られた女が流した噂だろうとエルシーは信じなかった。だって、フィンレーは優しくて格好いい自慢の幼馴染なのだ。長年側で見て来たから、エルシーはフィンレーを信じていた。噂は嘘なのだから、きっとその内にフィンレーが否定して、皆も嘘だと分かる。すぐに噂は忘れられる。そう思っていた。だけど………日に日に、噂は酷くなるばかりだった。それどころかフィンレーが肯定したと、エルシーの耳に入って来た。

(え?……認めたって事?フィンレーが?)

信じられなかった。エルシーはフィンレーに何度も尋ねようとしたが、どうしても聞く事が出来なかった。

(はーい☆フィンレー?貴方、女の人をヤリ捨てしてるの?………なんて聞ける訳無いじゃない。私の馬鹿…………)

決定的な出来事は2ヶ月前。フィンレーがとんでも無い美人と歩いていた。

その女性と面識は無いが見覚えが有った。彼女が有名人だからだ。街一番の酒屋の看板娘、スカーレット。赤い髪に豊かな胸にほっそりとした手足。その細くたおやかな手をフィンレーの腕に絡めて仲睦まじく歩いていた。

(フィンレー?………スカーレットと……恋人なの?)

思わず手に持っていた荷物を落とす程にエルシーは動揺した。

その後、フィンレーには聞けなくてスカーレットに会いに行って、其処で聞かされた言葉にエルシーは唖然とした。

『恋人ぉ?ワタシとフィンレーが?アハハハ。無い無い、一晩だけの関係よ?あの噂、アンタも知らない訳じゃ無いわよね?ヤリ捨て野郎って。まー、ワタシとしては後腐れなくて最高だったけどね♡……わざわざワタシに会いに来るなんて、アンタ、フィンレーが好きなのね?………頼めばアンタも抱いて貰えるかもよ?あー、でも地味すぎて無理かもね?諦めなさいよぉ。アハハハ』

そう言って笑う、スカーレットの声を聞いて居たく無くて、エルシーはその場を全速力で逃げ出した。そしてその日から、フィンレーを避けていた。


(フィンレー……。どうして?……ううん。別に、私がお説教する筋合いは無いし。犯罪でも無いけど……。)

エルシーはフィンレーに恋心を抱いている訳じゃ無い。向こうだってそうだ。だから、エルシーがフィンレーを責めるのはおかしいし、フィンレーだって責められても困るだろう。

噂でも、フィンレーから無理やり行為を強要している訳では無くて、女性から言い寄る事が殆どらしい。そして一晩だけの約束で関係を持つ。避妊魔法も掛けているらしい。なら、ヤリ捨てされても自業自得だ。

『一晩だけなら、良いよ。だけどその後はしつこくしないでくれよ?面倒臭いんだ。それに避妊は完璧にするから。俺との子が出来るかもなんて、期待しても無駄だよ?』

フィンレーはそう言うらしい。らしいと言うのは噂で聞いたからだ。少し前のエルシーなら、そんな最低な事絶対嘘だ、フィンレーはそんな事言わないわ!!!と胸を張って答えられたが、今のエルシーには無理だった。

その後も、『ブスだから断られた、あのスカーレットレベルじゃないと、相手にされないわ。もう諦める………うぅ』と泣く女の子の話が入って来たりと散々だった。ヤリ捨て面食い騎士にあだ名は変わっていた。酷い。

(フィンレー………。どうして?)

薬の瓶をぎゅっと握ってエルシーは内心でフィンレーに問いかけた。








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