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アノニマス
8話 違和感と糠喜び
しおりを挟む「……………ミドリコ……。ドコ行くんだ?おれも行く……。サミシイ」
「探索だよ?アノも行く?良いよ。それじゃあ一緒に行こうか」
仲良く探索に出掛ける二人を眺めて琴音はふうと息を吐く。今回の周回の緑子(の中の人)はアノニマス狙いだった。
(ならアノさんは無理ですし、やっぱり当初の予定通り今回の周回はエヴァさんとラブラブしますか。……………処女のままの方が良いのでしょうか?)
自由タイムはたったの一週間しかない。なのでセックスを沢山楽しむ為には先にナスで処女を喪失しておくのが一番良いのだが、非処女の場合エヴァと上手く行くか分からない。
(処女じゃないと分かればめちゃくちゃされそうですし……。手酷く扱われるのは嫌です。…………処女だと最初は痛いですけど我慢しましょうか。………今回は出来るだけ一番最初の周回をなぞって行動しましょう)
ちょっとした琴音の行動で周囲も変化するのなら今回は処女のままでエヴァに抱かれる事にする。甘々のラブエッチがしたいからだ。前回は思いがけず和泉と楽しく過ごせたがまだ足りない。
(……………さて、自由タイムまではまだ2週間程有りますし。エヴァさんに出来るだけ沢山会いに行っておきますかね………)
今はまだゲーム開始から一週間しか経っていない。
部屋を出てアイコンを確認するとエヴァはノアと談話室に居た。共通ルート中も世間話なら問題無く行えるので少し話して親交を深めておこう。
(………………ノアさんと居るんですね。ノアさんって何であんなに真面目なんでしょうか?………なんて言うかエッチな事に対して厳しすぎません?)
そんな風に考えながら談話室に入るとエヴァとノアは会話を止めて琴音を見た。まだそこまで親しくないのでペコリと頭を下げて挨拶するとエヴァがソファーから立ち上がった。
「やあ。…………珍しいね。君が談話室に来るなんて、余り部屋から出て来ないから心配していたんだよ。」
エヴァは琴音に近づいてそう言うとニコリと笑った。
(え?…………共通ルート中に向こうから話しかけてくるなんて……初めてです。)
緑子達と居る時なら何度か話し掛けて貰えたが一人で行動している時は殆ど琴音は居ない者扱いだった。琴音は思わずポカンとしてエヴァをじっと見るとクスクスと笑われた。
「…………間抜けな顔………。」
ボソリとノアが呟いた。
「良かったら私達と少し話さない?………これから共に過ごす仲間なんだからお互いをもっと知った方が良いんじゃないかと思うんだ、無理にとは言わないけどね。どうかな?」
◇◇◇◇◇◇
エヴァとノアと暫く談笑していると太陽と和泉もやって来た。
「皆で集まって楽しそうッスね、オレも混ぜてほしいっス!!!」
「おや?……………珍しい組み合わせですね。………観音坂さん、でしたっけ?今日は緑子さん達と一緒じゃないんですね」
和泉は琴音とエヴァとノアを見て首を傾げている。最初の一週間、琴音は殆どを緑子達と過ごす以外は部屋で過ごしていた。だから今回の周回ではまだ誰とも親しくはない。
「あ、はい。観音坂琴音です。……緑子ちゃんはアノさんと探索に行っちゃいましたし美奈ちゃんはお昼寝中なので…………」
琴音がそう答えると和泉はじっと琴音を見てからぼうっとしていた。
「折角集まったのだから、皆で話をしよう。」
そう言うエヴァに太陽も和泉も頷く。ノアは面倒臭そうにしているが異論は無い様だ。
5人で和やかな会話が始まり和泉やエヴァは時々琴音にも質問をする。それに答えながら琴音は胸がドキドキとした。共通ルート中に琴音が攻略キャラから興味を持たれるのは初めてだ。例えば今までなら世間話でも琴音から質問をして攻略キャラがそれに答えると言う事が殆どだった。向こうからは余り質問も無かったので話は広がらず、少し話してすぐに解散になる。なのに今はまるで自由タイムの様に皆と話が出来ている。
(なんでしょうか?これも初めての事ですね……、もしかして………今なら……)
「あの、皆さん。皆さんは此処が乙女ゲームだと知ってますか?」
そう尋ねてみるが誰にも琴音の声は届かない。今までだって一度も届かなかったのだ。
(なんだ………。何かが変わった訳じゃないんですね………、なんだ)
ほんの少しガッカリして琴音はため息を吐く。
(………………これも世間話の延長線上って事ですね。………はあ。期待しても無駄なのに。また、期待しちゃいました。……なんだかテンション下がりますね)
情報収集のチャンスでは有るが、なんだか皆と話す気分じゃなくなってしまった。
(…………情報は何時でも手に入りますし。もう今日は部屋に戻りましょうか……。ふう)
「あの、すみません。私そろそろお部屋に帰ります。あの、お話楽しかったです、それじゃあ失礼します」
そう告げて琴音が立ち上がるとエヴァも立ち上がった。
「部屋まで送るよ」
(え?)
これにも琴音は驚く。今まで共通ルートで部屋まで送ってもらった事なんて無い。まあそれはそう言う状況になった事が無いからなのだが。
(………………これも初めて。ですけどもう期待はしないのです。………はあ……)
「あ、いえ。……大丈夫です。ノアさんの結界が有りますし」
そう琴音が答えるとエヴァは眉を寄せた。
「………確かにそれはそうだけど。結界だって完全に安全とは言えないし」
そうエヴァが言うとノアがエヴァを睨んだ。
「エヴァ。………それどういう意味?…………ボクの結界は完璧……。広範囲は無理だけど此処は絶対安全………」
ムスッとしてそう言うノアにエヴァは苦笑した。
「あー。………うん。それはそうなんだけど……、ノアの魔法を疑っている訳じゃ無いんだけど……。なんだか心配で………。とりあえず私は琴音を送って行くよ。だから皆は気にせず話していてくれ、さあ。行こうか」
そう言われて琴音は何か違和感を感じたのだがそれがなんなのかは分からなかった。
◇◇◇◇◇◇
エヴァと廊下を並んで歩いて琴音は首を傾げていた。
(……………なんでしょうか?なにか……引っかかりますね………。)
先程からなにか良く分からない違和感を感じてなんだか気持ちが悪い。こうわかりそうで分からない。あの嫌な感覚だ。
(うーん?なんでしょうか?)
「…………琴音?どうしたんだい?何か悩み事かな?私で良ければ話を聞こうか?」
そう言ってうんうん頭をひねる琴音にエヴァが声を掛けた。その心配そうな顔を見て琴音はあっ!!と気づいた。エヴァが琴音を呼び捨てで呼んでいるのだ。
(あ、違和感はこれですね………。だってエヴァさん、共通ルートでは琴音【殿】って呼びますもん。…………エッチしたら呼び捨てでしたけど……。おかしいです)
「エヴァさん、名前………何で呼び捨てなんですか?」
思わずそう尋ねるとエヴァは少しだけ眉を顰めた。
「もしかして嫌だったかな?私は基本的に誰でも名前で呼ぶんだけど、気分を害したのなら済まない。なんて呼ぼうか?」
そう言われて琴音も眉を寄せた。
(確かにエヴァさんって皆を呼び捨てますけど。でも琴音殿って私には言ってたじゃ無いですか………。なんで今更……、はあ。だからもう、期待はしないのです。……………長い周回、そんな事もきっと有るんですね……。)
「あ、いえ。嫌じゃないですから……、」
そう答えて足が止まる。部屋に着いたのだ。
「ねえ、琴音。少し二人で話さない?部屋に入っても良いかい?」
そうエヴァから告げられて琴音はまたポカンとした。今日はあり得ないことが立て続けに起こり過ぎる。また期待する心を琴音は無理矢理抑えつけてエヴァをじっと見た。
(………………どうなってるんでしょうか?二人きりにはなれない筈です。だって強制力が有りますもん。…………でも向こうからのお誘いですし…………。もしかして……二人きりになれる?)
「あ、あの…………」
オッケーだと言おうとした琴音の言葉を遮るように声がした。
「あ、エヴァ!!!!!丁度良い所に居てくれたー☆あのさ、ちょっと今から探索行かない?俺ちょっと気になる事があるんだよねー」
桜島だった。
「ハルト、気になる事?何か手掛かりを見つけたのか?……………ごめんね。琴音お話はまた今度にしようか」
そう言うとエヴァは桜島と歩いて行ってしまった。
(なーんだ。やっぱりこうなるんですね…………)
やはり強制力は絶対だ。今回は少し珍しい事が立て続けに起こったがそれも特に意味は無い。
(………………私が知らないだけで、色んなパターンがまだ有るって事なんでしょうか?…………退屈はしなくて良いですけど、結局はメタ発言は伝えられませんし、強制力には逆らえません。………………むぅ。糠喜びです………。)
◆◆◆◆◆◆
「サンキューエヴァ☆俺一人じゃ結界の外はやっぱり怖いしさー。んでも意外だね。あの子と仲良かったんだ?あの子全然部屋から出て来ないのにいつの間に仲良くなったの?」
そう不思議そうに言うハルトにエヴァはニコリと笑った。
「いや、まだ仲良くは無いよ。………これから仲良くなれたら嬉しいけどね」
「ふーん?そっか☆まあ、良いんじゃん。仲間だし☆………あ、もしかして好みのタイプとかー?にしし」
そう茶化すハルトにエヴァはうーんと唸った。
「いや………。どうだろう?どちらかと言えば緑子の方が好みかな。……でもなんだか気になるんだよね……。彼女って」
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