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第14話 呪い渡しの回廊
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呪い渡しの回廊とは、超常の柩を起点に、別時空との呪いをやりとりを可能にする超常の施設だ。
古来から存在する回廊であるが、その仕組みはいまだ解明できておらず、超常の柩と同じくオーパーツに認定されている。
「楪灰様。数日ぶりでございますね」
「ちなつの従姉さん! お久しぶりです」
呪い渡しの回廊に通されたオレを待っていたのは、ちなつの従姉である本家神藤さんだった。
「話は伺わせていただきましたわ。東雲碧羽を救う術があるというのは、まことでしょうか?」
「可能性の話ですが、理屈は通るはずです」
「ぜひ、お聞かせ願えますでしょうか」
オレは超常の柩を稼働させると、一体の呪いを提示した。
「これは……人魚の呪いですか?」
「よくご存じで」
「伝承に聞いただけです。まさか存在していて、しかもすでに封伐されているなんて……!」
ん?
すでに封伐されているのか……?
(この柩に封伐されるのは未来の話だから、この時代だと人魚の呪いはまだ封印されていない……?)
ややこしくなってきたな。
まあ強くてニューゲームなんてどこもそんなもんだ。今さら気にしたってもう遅い。
「まさか、この人魚の呪いを」
「はい。東雲碧羽さんの柩に転送していただきたいんです。人魚の呪いは特異で、使用者の治癒力を高める効果があります。これがあれば、蝗害との決着は別の形で訪れていたはずです」
本来ならばとれない選択肢。
だが、これを採用できるならしない理由がない。
まず、『岩戸』の貴重な戦力を温存できる。
柩使いはそもそもにして絶対数が少ない。
一人でも多く生存できるなら、それに越したことはないはずだ。
そして次に、東雲紅映とのいざこざの解消。
碧羽が死ぬ未来が無ければ彼の柩は『岩戸』が管理することになり、紅映に刺客を放つ必要もなくなる。
デメリットはしいて言うなら、強力な手札をこんなところで切ってもいいのかってところか。
呪いの受け渡しには本人の同意が必須だから、碧羽さんが手放そうとしない限り、人魚の呪いは碧羽さんが保有し続けることになる。
それでも、彼は英雄レベルの実力者だ。
彼が人魚の呪いを持っているなら、これ以上に安心できる保管場所は無いだろう。
「お断り、いたします」
「……どうして?」
だけど、交渉は切り捨てられた。
「過去改変は大きなリスクを伴います」
「それくらい、分かって」
「いいえ。分かってはいません。楪灰様、我々は人類滅亡の未来を阻止するために呪いと戦っています」
「だから、分かってます」
「ですが、呪いを倒したからと言って滅びの結末が延長されるとは限りません」
ぴしゃりと言い放たれた。
「呪いの仕組みはご存じですか?」
「生き物が生み出した未練や妄執といった負の感情。ただの概念に過ぎないそれは、人の記憶を読み取って異形の姿を得て、人を襲う」
「はい。ですから、人間が増えれば、比例して危険な呪いも生まれやすくなります」
「……誰かを助けた結果、より多くの命を犠牲にするかもしれないって言いたいんですか」
「その通りでございます」
オレは口をつぐんだ。
「今の平和は、碧羽の犠牲の上に成り立っているものです。碧羽は英雄と言われるほどに影響力のある人物でしたが、それと同じだけ、世界に大きな揺らぎを与えるのです」
神藤さんは、神妙な面で続ける。
場合によっては、既に地球上の生命が死滅した時空にわたる可能性もあるのです、と。
「ですから、その申し出を受け入れることは――」
「間違っている」
「――楪灰様?」
「そんな理由で、助けられるかもしれない命を切り捨てるなんて、間違っている!!」
「……齢12の楪灰様には納得しがたい結論やもしれません。ですが、これが最大多数の最大幸福なのです」
「どうして悪くなる方ばかり考える! どうしてよくなる未来を考えない!」
「考えていますよ。その上で、リスクは犯せないと申しているのです」
……くそ。
話が通じない。
いや、通じないのはオレのほうか。
彼女の話には筋が通っていて、オレの理屈は全部感情論だ。
……だったら。
理をもって、その理をねじ伏せる。
「……前提が、間違ってるんじゃないですかね?」
「前提、でございますか?」
「ええ。ここでオレが過去の碧羽さんに呪いを送り、その結果人類が滅びたとします。そのとき、オレが碧羽さんに呪いを送ったという因果が繋がれなくなります」
「……」
タイムパラドクスというやつだ。
原因より先に結果があるせいで、原因が訪れない未来は時間に矛盾が生じるという考え。
「別の世界線に移る可能性も考えられます」
「だとしたら、この世界線は変化しないはずです」
神藤さんが、口に手を当てる。
言い訳を考えているのだろうか。
残念だけど、オレのほうが一歩早い。
「誰かの幸せを願うことが、間違っているはず無いでしょう……!」
神藤さんの瞳が揺れた。
古来から存在する回廊であるが、その仕組みはいまだ解明できておらず、超常の柩と同じくオーパーツに認定されている。
「楪灰様。数日ぶりでございますね」
「ちなつの従姉さん! お久しぶりです」
呪い渡しの回廊に通されたオレを待っていたのは、ちなつの従姉である本家神藤さんだった。
「話は伺わせていただきましたわ。東雲碧羽を救う術があるというのは、まことでしょうか?」
「可能性の話ですが、理屈は通るはずです」
「ぜひ、お聞かせ願えますでしょうか」
オレは超常の柩を稼働させると、一体の呪いを提示した。
「これは……人魚の呪いですか?」
「よくご存じで」
「伝承に聞いただけです。まさか存在していて、しかもすでに封伐されているなんて……!」
ん?
すでに封伐されているのか……?
(この柩に封伐されるのは未来の話だから、この時代だと人魚の呪いはまだ封印されていない……?)
ややこしくなってきたな。
まあ強くてニューゲームなんてどこもそんなもんだ。今さら気にしたってもう遅い。
「まさか、この人魚の呪いを」
「はい。東雲碧羽さんの柩に転送していただきたいんです。人魚の呪いは特異で、使用者の治癒力を高める効果があります。これがあれば、蝗害との決着は別の形で訪れていたはずです」
本来ならばとれない選択肢。
だが、これを採用できるならしない理由がない。
まず、『岩戸』の貴重な戦力を温存できる。
柩使いはそもそもにして絶対数が少ない。
一人でも多く生存できるなら、それに越したことはないはずだ。
そして次に、東雲紅映とのいざこざの解消。
碧羽が死ぬ未来が無ければ彼の柩は『岩戸』が管理することになり、紅映に刺客を放つ必要もなくなる。
デメリットはしいて言うなら、強力な手札をこんなところで切ってもいいのかってところか。
呪いの受け渡しには本人の同意が必須だから、碧羽さんが手放そうとしない限り、人魚の呪いは碧羽さんが保有し続けることになる。
それでも、彼は英雄レベルの実力者だ。
彼が人魚の呪いを持っているなら、これ以上に安心できる保管場所は無いだろう。
「お断り、いたします」
「……どうして?」
だけど、交渉は切り捨てられた。
「過去改変は大きなリスクを伴います」
「それくらい、分かって」
「いいえ。分かってはいません。楪灰様、我々は人類滅亡の未来を阻止するために呪いと戦っています」
「だから、分かってます」
「ですが、呪いを倒したからと言って滅びの結末が延長されるとは限りません」
ぴしゃりと言い放たれた。
「呪いの仕組みはご存じですか?」
「生き物が生み出した未練や妄執といった負の感情。ただの概念に過ぎないそれは、人の記憶を読み取って異形の姿を得て、人を襲う」
「はい。ですから、人間が増えれば、比例して危険な呪いも生まれやすくなります」
「……誰かを助けた結果、より多くの命を犠牲にするかもしれないって言いたいんですか」
「その通りでございます」
オレは口をつぐんだ。
「今の平和は、碧羽の犠牲の上に成り立っているものです。碧羽は英雄と言われるほどに影響力のある人物でしたが、それと同じだけ、世界に大きな揺らぎを与えるのです」
神藤さんは、神妙な面で続ける。
場合によっては、既に地球上の生命が死滅した時空にわたる可能性もあるのです、と。
「ですから、その申し出を受け入れることは――」
「間違っている」
「――楪灰様?」
「そんな理由で、助けられるかもしれない命を切り捨てるなんて、間違っている!!」
「……齢12の楪灰様には納得しがたい結論やもしれません。ですが、これが最大多数の最大幸福なのです」
「どうして悪くなる方ばかり考える! どうしてよくなる未来を考えない!」
「考えていますよ。その上で、リスクは犯せないと申しているのです」
……くそ。
話が通じない。
いや、通じないのはオレのほうか。
彼女の話には筋が通っていて、オレの理屈は全部感情論だ。
……だったら。
理をもって、その理をねじ伏せる。
「……前提が、間違ってるんじゃないですかね?」
「前提、でございますか?」
「ええ。ここでオレが過去の碧羽さんに呪いを送り、その結果人類が滅びたとします。そのとき、オレが碧羽さんに呪いを送ったという因果が繋がれなくなります」
「……」
タイムパラドクスというやつだ。
原因より先に結果があるせいで、原因が訪れない未来は時間に矛盾が生じるという考え。
「別の世界線に移る可能性も考えられます」
「だとしたら、この世界線は変化しないはずです」
神藤さんが、口に手を当てる。
言い訳を考えているのだろうか。
残念だけど、オレのほうが一歩早い。
「誰かの幸せを願うことが、間違っているはず無いでしょう……!」
神藤さんの瞳が揺れた。
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