SSSランク勇者パーティを追放された実は最強の不遇職が辺境の地で聖女に求婚される悠々自適ライフ

一ノ瀬るちあ/ねこねこバレット

文字の大きさ
上 下
18 / 39
南端の水の都-サウザンポート-

3話 物価高騰

しおりを挟む
「たっか」

 並んだ花を見て、そう零した。
 と、いう話を、花屋を見つける度にしている。
 と、いう話も、花屋を見つける度にしている。
 と、いう話も……。

「ウルさん。この街の物価、少々おかしくはありませんか?」
「わー、この金額を見て少々で済ませられるアリシアが羨ましいよ」

 花一本を見る。
 宿泊の町リグレットでアリシアに送ったものと、品質は大体同じようなものだ。だが、値段が違う。大きく違う。
 だいたい、1000倍くらいする。

「お嬢ちゃん達、街には今日着いたばかりかい?」
「え、ええ」

 店主さんだろうか。
 恰幅の良いおばちゃんが声をかけてくれた。
 おばちゃんは「それは災難だったね」と言い、この街の現状を教えてくれた。

「見たところ花を探しているようだけど、それ以外の物は見て回ったかい?」
「? いえ、まだ見れてません」
「そうかい。なら、後で見て回るといいよ。どこもかしこも酷いもんだからさ」
「どういう事でしょうか?」

 より詳細を尋ねると、おばちゃんはどっこらせと腰を掛けた。どうやら長くなるらしい。

「陸側の門の辺りに、闘技場があるのは知ってるかい?」
「はい。俺達はそっち側から来たので」
「へぇ! あんたたち陸路から来たのかい! なら話は早いよ。あれはね、貴族様の道楽で建てられたものなのさ。だけどねぇ、この街の人たちは喧嘩っ早いわりに賭け事にはあまり関心が無くてねぇ。出来た当初は誰も足を運ばなかったのさ」
「そうなんですか? 見たところ、皆さん熱狂しているようでしたが」
「そいつは最近になっての事さぁ」

 おばちゃんは、大きくため息をついた。
 先ほどまでピンと背筋が伸びていたおばちゃんだ。
 背筋が丸まったら、それだけで5歳くらい年を取って見えた。
 そして、昔を懐かしむように呟く。

「お貴族様は、どうしてもあの賭場を繁盛させたかったみたいでねぇ。大量の悪銭をばら撒いたのさ」
「悪銭……? それがどうして賭場の繁盛に?」
「ふぅむ。お嬢ちゃん。どうして物がお金で買えると思う?」
「え、えと……お金そのものの価値と、物の価値が釣り合うから交換できる……でしたよね?」
「そうさ。すると、質の悪いお金が増えるとどうなる? 貴重な売り物を、信頼できないお金と交換するかい?」
「……しないでしょうね」
「そうさ、すると、物の値段が高くなる。収入が低いものは生活が成り立たなくなる。そんなとき、手元のお金を何倍にもできるチャンスがあったら、賭けに出たくなるとは思わないかい?」

「ああ、なるほど。そういうことか」

 要するに、ギャンブルで一山当てなければ生き残れない状況を作り出したという訳か。

「お、お待ちください! だからといって、実際に勝てる人なんて僅かでしょう!? 負けた人たちはどうなるんです!?」
「……アリシア。撃剣興行で戦う人たちの身分がどういうものか、知ってるか?」
「い、いえ……」
「借金持ちや浮浪者。要するに、生活が成り立たなくなった人だ」
「……そうさ」

 ようするに、ギャンブルに負けた人は賭けの対象に、勝った人はまた次の賭けに来る。そんなスパイラルが出来ているのだ。どおりで、撃剣興行なんて参加者のいなさそうな催しに出場する選手がいるわけだ。

「この街は、近いうちに滅びるだろうねぇ」
「そ、そんな……!」

 アリシアが膝をついて崩れた。
 その手には俺の裾が掴まれていて、引っ張られる。
 上目遣いになったアリシア。

「ウルさん! 大変です! このままだと私たちが結ばれるより先に街が滅んでしまいます!」
「あー、うん? アリシア、ショックを受けるところ、そこでいいのか?」
「もちろん、この街の皆さんは心配です! しかし、皆さんを救うためには諸悪の根源を倒す必要があります! 私たちが結ばれるために起こした行動が、皆さんを救う。これほど素晴らしい事は無いでしょう!」

 あーあー。
 出たよ暴走モード。
 基本的にクールビューティなのに、どうしてかときおり残念な頭になるんだよな。一体誰が原因なんだ。

「落ち着けアリシア。経済なんて大きなもの、俺達のような個人でどうにかできる物じゃない。まして、悪循環に嵌っている状況ならなおさらだ!」
「では! 街の皆さんを放っておくというのですか」
「コイツ自分の欲望を棚に上げて……っ!」
「いひひ」

 そんなやり取りをしていると、ふと。
 お花屋さんのおばちゃんが、「プフフ」と笑いを零した。それから、笑い声は少しずつ楽しそうになり、おばちゃんは心底楽しそうに笑った。

「あーっはっは! お前さん達、ずいぶん愉快だね! なんだか元気貰っちゃったよ。……こんなに楽しく笑えたのはいつ以来かね」
「いや、割とアリシアは真剣に悩んでますよ」
「!? ウルさんはいいのですか!?」
「困るし心苦しいけど、アリシア見てると冷静になってくる」

 というか、な。
 俺には悩むだけの頭は無い。
 アリシアにも、残念ながらない。

 勇者パーティの魔法使いならあるいはどうにかしてくれたかもしれないが、あいにく彼女はここにはいない。となると、だ。

「俺に出来る事なんて、一つしかないからな」

 下手の考え休むに似たりだ。
 だったら、考えるより先に信じた道を進むだけだ。

「とりあえず、闘技場をぶっ潰す。話はそこからだ」
「おー! さすがウルさん!」
「やーやー」

 そんな、頭の悪い話をしていた時だ。
 不意に店の扉が開かれて、見覚えのある姿が入ってきた。そしてその人物は開口一番こう言った。

「その話……詳しく」
「おまえは――」

 ほつれ乱れたそそけ髪。ボロボロの貫頭衣。
 砂塗れになった白い肌。手足に巻き留めた黒い鎖。
 仏頂面の人は先ほど闘技場で見かけた。

「――鎖使い、メア」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...