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第二章 再会

2-7 別の道

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 指揮官の女が駆け寄って董星とうせいの前に立った。彼女は言った。
「あなた方の馬車は無事でよかった。事故で私たちの馬車は壊れたが、幸い、けが人は出なかった」
「……」

 董星は何も言わずにただじっと女の顔を見た。指揮官の女の方も、何かを言いたそうに、しかし口を閉ざして董星を見つめた。

 女たちは最初から事故の用心で、馬車には誰も乗っていなかったということか。
 壮宇そううは言ったのだ。壊れた馬車に乗っていたのは、王太子の妃か、それとも義弟か。
 義弟というのは自分のことだ。もし先に赤影門せきえいもんに向かっていたのが自分の馬車であったならば、やはり同じような目に合っただろうか?
 そして、王太子の妃というのが、壊れた馬車に乗っていたかもしれない人物ということだ……。

 今度は侍女が、大きな声で指揮官の女に対して呼びかけた。
央華おうか様、」
 央華と呼ばれたその名が、董星の耳を打った。
「その方にはその方の馬車がお有りだ。お礼を申し上げて、我々は先に参りましょう」

 ここからは別の道となります。
 言葉には出さないが、蓉杏ようきょうの、董星と央華を見る目がそう言っていた。

「王太子妃殿下?」
 董星が尋ねると央華は首を振った。彼女はとたんに打ち解けた口調になった。まるで四年前に戻ったようだった。
「まだ東宮に呼ばれただけ。でも明日にはそうなる。そういうあなたも董星王子ね?」
「今日から、そういうことになったみたいだ」
 董星は世から隠された王子として、山中での離宮暮らしが長かった。それでこの答えは彼の本心でもあった。

 董星の答えに央華はふふふと笑った。
「今日から、と言うのは、嘘ね」
「でも俺が呼ばれたのは王宮の本殿ではなくて十王府じゅうおうふだ、これは本当だよ」
「信じるわよ。ね、最後に会えてよかった」
「うん……」
「お元気で。十王府で、出世なさって」
「……」
 董星は央華にかける言葉が見つからなかった。単純に、君も、と言うわけにはいかなかった。
 壮宇は公然と恵明けいめいという女を連れていた。央華が王太子妃という立場で迎えられるとしても、この先、あの女が央華の行く手に立ちふさがることだろう。


 央華は董星の隣をすり抜けて蓉杏の隣に戻った。それから馬上の人となり、自分の隊列を指揮すると赤影門を超えた。
 董星も自分の馬車と隊列との先頭に立ち、門の内に入った。
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