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引き際
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まずい。仕事の話をしなければ。朝から何言ってんだお前、と、笑い飛ばさなければ。俺は何度か口を開いたが、斉藤の睨みつけるような視線の前で、言葉を形にすることができなかった。
「先輩」
斉藤が俺を呼んだ。俺は、あ、ああ、とおぼつかない返事をした。
「勃ってるでしょう」
「?!」
「めちゃくちゃ惚けた顔してますよ」
俺は首を横に振る。しかし斉藤は許さなかった。
「見せて」
「え……」
「勃起しているところ、見せて」
俺は何度も首を横に振る。多分泣きそうな顔をしていた。斉藤は何度か小首をかしげそんな俺を観察している様子だったが、やがて断固たる口調で再び言った。
「見せて」
見せなければ、許してはくれないようだ。俺は情けない気持ちで立ち上がると、PCに向かってジャージの前だけ下ろし、テントを張っている下着を見せた。
「見えないですよ」
下着を下ろし、性器を露出させる。画面いっぱいに赤黒いものが写り込んでいる。斉藤は何も言わない。ならばこれで正解だったのだろうか。なにをやっているんだ俺は。なにを。斉藤しかいないとはいえ、会社の会議の場で、自分の勃起した性器のドアップなんか映して。こんなの。こんなの、まるで、変態じゃないか。
「あ、韮沢さん」
「?!!!!!!」
俺は足元に穴が空いたかのような勢いで座り込んだ。なにがおこったのかわからない、あるいは、嫌悪感に満ちた韮沢さんの顔がそこにあることを予想したが、そこには、韮沢さんがその会議に参加しようとしている、という通知があるだけだった。
そのリモート会議は俺が入った時にはフリー入室だったのだが、いつの間にか管理者の許可制になっていたらしい。今回の入室管理者とはすなわち、先に会議に入って待っていた斉藤だ。
怯える俺に対して斉藤はにこりと笑い、そして三人目の入室を許可した。
「おいーっす!」
韮沢さんの、勢いのある声が響き渡った。
「って、あれ? 二人だけか?」
「野口さんは有休休暇で、大橋さんはクライアントとの急な打ち合わせが入ったそうです」
斉藤は、俺にしたのと同じ説明を繰り返した。
「そっかー。うちもさー、どうも子供の風邪が妻にもうつってたみたいで、あやうく一家全滅の危機なんだよ。そんなわけで看病するから今日は全休! なんかトラブルとかあったらいちおう聞いとこうと思って」
「僕は大丈夫です。先輩、なにかありますか?」
「特には、なにも……」
俺は、首を横に振る。画面の外では、性器をむき出しにしたまま。
「ならよかった! じゃあ今日はこれで! 明日も休むかもしれないけど、この定例会には顔出すし、なにかあったらメンションつきでチャットくれれば返事はするから」
「ご無理をなさらず。お大事にどうぞ」
「お大事にどうぞ……」
「ふたりともありがとなー。じゃ!」
韮沢さんが嵐のような勢いで去っていった。
「……それじゃあ、先輩」
斉藤に呼ばれ、俺はビクリとなった。
「今日も一日、お仕事がんばりましょう。お疲れ様でした」
「お、お疲れ……」
先ほどまでが嘘のような、いつも通りの斉藤の様子に、俺は戸惑いながら返した。
斉藤がログアウトして自分の名前だけが表示される画面の前で、勃起した性器が左右に揺れている。
仕事中なのはわかっているがこのままでは仕事にならない。なさけない気分で手早くそれを処理し、丸めたティッシュを捨てて戻ってくると、チャットツールに斉藤からのダイレクトメールが届いていた。
開いてみると、斉藤のLINEのアドレスが送られて来ていた。
さきほどの会議の途中でキャプチャしたものと思われる、着替えるために上半身を脱いだ状態の俺の写真についた「これ、誰かに見せてもいいですか?」という質問と一緒に。
「先輩」
斉藤が俺を呼んだ。俺は、あ、ああ、とおぼつかない返事をした。
「勃ってるでしょう」
「?!」
「めちゃくちゃ惚けた顔してますよ」
俺は首を横に振る。しかし斉藤は許さなかった。
「見せて」
「え……」
「勃起しているところ、見せて」
俺は何度も首を横に振る。多分泣きそうな顔をしていた。斉藤は何度か小首をかしげそんな俺を観察している様子だったが、やがて断固たる口調で再び言った。
「見せて」
見せなければ、許してはくれないようだ。俺は情けない気持ちで立ち上がると、PCに向かってジャージの前だけ下ろし、テントを張っている下着を見せた。
「見えないですよ」
下着を下ろし、性器を露出させる。画面いっぱいに赤黒いものが写り込んでいる。斉藤は何も言わない。ならばこれで正解だったのだろうか。なにをやっているんだ俺は。なにを。斉藤しかいないとはいえ、会社の会議の場で、自分の勃起した性器のドアップなんか映して。こんなの。こんなの、まるで、変態じゃないか。
「あ、韮沢さん」
「?!!!!!!」
俺は足元に穴が空いたかのような勢いで座り込んだ。なにがおこったのかわからない、あるいは、嫌悪感に満ちた韮沢さんの顔がそこにあることを予想したが、そこには、韮沢さんがその会議に参加しようとしている、という通知があるだけだった。
そのリモート会議は俺が入った時にはフリー入室だったのだが、いつの間にか管理者の許可制になっていたらしい。今回の入室管理者とはすなわち、先に会議に入って待っていた斉藤だ。
怯える俺に対して斉藤はにこりと笑い、そして三人目の入室を許可した。
「おいーっす!」
韮沢さんの、勢いのある声が響き渡った。
「って、あれ? 二人だけか?」
「野口さんは有休休暇で、大橋さんはクライアントとの急な打ち合わせが入ったそうです」
斉藤は、俺にしたのと同じ説明を繰り返した。
「そっかー。うちもさー、どうも子供の風邪が妻にもうつってたみたいで、あやうく一家全滅の危機なんだよ。そんなわけで看病するから今日は全休! なんかトラブルとかあったらいちおう聞いとこうと思って」
「僕は大丈夫です。先輩、なにかありますか?」
「特には、なにも……」
俺は、首を横に振る。画面の外では、性器をむき出しにしたまま。
「ならよかった! じゃあ今日はこれで! 明日も休むかもしれないけど、この定例会には顔出すし、なにかあったらメンションつきでチャットくれれば返事はするから」
「ご無理をなさらず。お大事にどうぞ」
「お大事にどうぞ……」
「ふたりともありがとなー。じゃ!」
韮沢さんが嵐のような勢いで去っていった。
「……それじゃあ、先輩」
斉藤に呼ばれ、俺はビクリとなった。
「今日も一日、お仕事がんばりましょう。お疲れ様でした」
「お、お疲れ……」
先ほどまでが嘘のような、いつも通りの斉藤の様子に、俺は戸惑いながら返した。
斉藤がログアウトして自分の名前だけが表示される画面の前で、勃起した性器が左右に揺れている。
仕事中なのはわかっているがこのままでは仕事にならない。なさけない気分で手早くそれを処理し、丸めたティッシュを捨てて戻ってくると、チャットツールに斉藤からのダイレクトメールが届いていた。
開いてみると、斉藤のLINEのアドレスが送られて来ていた。
さきほどの会議の途中でキャプチャしたものと思われる、着替えるために上半身を脱いだ状態の俺の写真についた「これ、誰かに見せてもいいですか?」という質問と一緒に。
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※
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