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再会
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そんないつものリモートセックスの翌々日の月曜日、俺は、久しぶりにオフィスへ出社した。
社内全体がばたばたとリモートワークに移行したせいで、ほとんどのやつは会社に私物を置いたままになっている。ご多分に漏れず俺も、缶コーヒーおまけのミニフィギュアと、ミントガムの限定ボトルコレクションにより、デスクの引き出しの大半が占拠されていた。
分散出社が推奨されていたため、その日第一営業部で出社したのは俺だけだ。デザイン部や開発部、あるいは総務部や経理部などでも出社したやつは何人かいたようだが、営業部があるエリアはそれらの部門と少し離れているため、広いオフィスに一人きりという感じがする。久しぶりにオフィスの自席に座ってパソコンを開き、毎朝の定例会に備えてWiFiの接続状況などのチェックをしていると、ふと横に人の気配を感じた。
「おはようございます」
「さ、斉藤?!」
斉藤だった。数ヶ月の間画面越しにしかお目にかかっていなかったあのイケメンが、俺の真横に立っていた。
「え、お前、なんで……」
「韮沢さんが、僕の出社日は僕が好きな日にしていいって言ってたじゃないですか」
確かに言っていた。チームリーダーの韮沢さん曰く、斉藤の出社日が知れ渡ると斉藤に会いたさに出社する女子社員が殺到し全然分散出社にならないから事前連絡なしのゲリラ出社で頼む、と。半分は冗談だが、半分は本気の顔だった。
このご時勢で、そこまで考えなしの行動をとるやつがいるものかという話もあるが、斉藤の近くにいたせいで数々の理不尽な言動を目の当たりにしてきた俺としても、韮沢さんの懸念をあながち冗談と笑い飛ばすことはできない。イケメンは磁場を狂わせ、人の理性を剥ぎ取るのである。なんてな。
「自由でいいなら、せっかくだから先輩に合わせようと思いまして」
「え」
「先に言っておいたほうがよかったですか?」
「あ、ああ、いや、まあ……それはどっちでもいいけど……」
「…………僕に会えて、嬉しいですか?」
斉藤が、俺のパソコンを覗き込むようなさりげない仕草で俺に顔を寄せ、耳元にそう囁いた。先ほどからなにかいい匂いがすると思ったら、どうやら斉藤から漂っていたようだ。なにかつけているのだろうか。斉藤が近づいて来たことでそのいい香りはむせ返るほど強くなり、その香りに包まれながら耳たぶに吐息が吹きかかると、思わず背筋にゾクッとしたものが走る。
「お……」
俺は、突然襲って来た淫靡な感覚を吹き飛ばすように、ことさら大声を出し、斉藤の腕をばんばん叩いた。
「お前、何言ってんだよー! はははは!」
「…………」
「イケメン様は自信に溢れてて羨ましいぜ、ったくよー。さあ、しごとしごと、っと。あ、そういや、オフィスのWiFi減らされたらしいから接続確認しといたほうがいいぞ。Secondってやつしか登録してない場合は繋がらなくなるかもしれないから、うまくいかない場合は俺に聞いてくれれればサポートするから」
「――はい、ありがとうございます、先輩。やってみますね」
一瞬妙な間があった気がしたが、斉藤はおとなしく俺のはす向かいの席へと移動し、カバンからパソコンを出しはじめた。
「そういえば先輩、持ってきてくれました?」
しばらくして、斉藤がそう尋ねてきた。
「ん?」
「先輩のお気に入り。持ってきてくれるって約束でしたよね」
「え、俺の?」
約束なんかしてたか? 流行りのマンガ? Blu-ray? そのあたりしか思い浮かばず俺は斉藤のほうを見ると、斉藤はパソコンに視線を落としたまま、言った。
「オモチャ」
「…………」
「先輩のお気に入りの、お尻用のオモチャ。持ってきてくれるって約束でしたよね?」
俺というよりも、斉藤のお気に入りじゃないか、と俺は思った。最近斉藤がいつも使うよう指定してくるバイブ機能付きのアナルプラグ。先週末のプレイの最後に、出社用のカバンの中に入れるよう指示されてそうしたが、その頃にはだいぶ意識も朦朧としていてあまり記憶になかった。これは本当だ。
しかし思い出した。俺は机の上に無造作においたままのカバンにチラリと目をやる。パソコンをしまうためのガッチリとした作りのため外から見ると中になにがはいっているか分かりにくいが、この中に、専用の袋に入ったアナルバイブとリモコンが入っている。
俺は慌てて、カバンをデスクの引き出しにしまう。顔が熱い。俺はたまらず立ち上がった。
「さ、さあな。俺、ちょっと便所いくから」
「先輩、あと五分で定例会はじまりますよ」
「戻ってくるのが遅れたら、便所って言っといてくれ!」
俺はそう言い残し、逃げるようにオフィスのトイレへ駆け込んだ。
社内全体がばたばたとリモートワークに移行したせいで、ほとんどのやつは会社に私物を置いたままになっている。ご多分に漏れず俺も、缶コーヒーおまけのミニフィギュアと、ミントガムの限定ボトルコレクションにより、デスクの引き出しの大半が占拠されていた。
分散出社が推奨されていたため、その日第一営業部で出社したのは俺だけだ。デザイン部や開発部、あるいは総務部や経理部などでも出社したやつは何人かいたようだが、営業部があるエリアはそれらの部門と少し離れているため、広いオフィスに一人きりという感じがする。久しぶりにオフィスの自席に座ってパソコンを開き、毎朝の定例会に備えてWiFiの接続状況などのチェックをしていると、ふと横に人の気配を感じた。
「おはようございます」
「さ、斉藤?!」
斉藤だった。数ヶ月の間画面越しにしかお目にかかっていなかったあのイケメンが、俺の真横に立っていた。
「え、お前、なんで……」
「韮沢さんが、僕の出社日は僕が好きな日にしていいって言ってたじゃないですか」
確かに言っていた。チームリーダーの韮沢さん曰く、斉藤の出社日が知れ渡ると斉藤に会いたさに出社する女子社員が殺到し全然分散出社にならないから事前連絡なしのゲリラ出社で頼む、と。半分は冗談だが、半分は本気の顔だった。
このご時勢で、そこまで考えなしの行動をとるやつがいるものかという話もあるが、斉藤の近くにいたせいで数々の理不尽な言動を目の当たりにしてきた俺としても、韮沢さんの懸念をあながち冗談と笑い飛ばすことはできない。イケメンは磁場を狂わせ、人の理性を剥ぎ取るのである。なんてな。
「自由でいいなら、せっかくだから先輩に合わせようと思いまして」
「え」
「先に言っておいたほうがよかったですか?」
「あ、ああ、いや、まあ……それはどっちでもいいけど……」
「…………僕に会えて、嬉しいですか?」
斉藤が、俺のパソコンを覗き込むようなさりげない仕草で俺に顔を寄せ、耳元にそう囁いた。先ほどからなにかいい匂いがすると思ったら、どうやら斉藤から漂っていたようだ。なにかつけているのだろうか。斉藤が近づいて来たことでそのいい香りはむせ返るほど強くなり、その香りに包まれながら耳たぶに吐息が吹きかかると、思わず背筋にゾクッとしたものが走る。
「お……」
俺は、突然襲って来た淫靡な感覚を吹き飛ばすように、ことさら大声を出し、斉藤の腕をばんばん叩いた。
「お前、何言ってんだよー! はははは!」
「…………」
「イケメン様は自信に溢れてて羨ましいぜ、ったくよー。さあ、しごとしごと、っと。あ、そういや、オフィスのWiFi減らされたらしいから接続確認しといたほうがいいぞ。Secondってやつしか登録してない場合は繋がらなくなるかもしれないから、うまくいかない場合は俺に聞いてくれれればサポートするから」
「――はい、ありがとうございます、先輩。やってみますね」
一瞬妙な間があった気がしたが、斉藤はおとなしく俺のはす向かいの席へと移動し、カバンからパソコンを出しはじめた。
「そういえば先輩、持ってきてくれました?」
しばらくして、斉藤がそう尋ねてきた。
「ん?」
「先輩のお気に入り。持ってきてくれるって約束でしたよね」
「え、俺の?」
約束なんかしてたか? 流行りのマンガ? Blu-ray? そのあたりしか思い浮かばず俺は斉藤のほうを見ると、斉藤はパソコンに視線を落としたまま、言った。
「オモチャ」
「…………」
「先輩のお気に入りの、お尻用のオモチャ。持ってきてくれるって約束でしたよね?」
俺というよりも、斉藤のお気に入りじゃないか、と俺は思った。最近斉藤がいつも使うよう指定してくるバイブ機能付きのアナルプラグ。先週末のプレイの最後に、出社用のカバンの中に入れるよう指示されてそうしたが、その頃にはだいぶ意識も朦朧としていてあまり記憶になかった。これは本当だ。
しかし思い出した。俺は机の上に無造作においたままのカバンにチラリと目をやる。パソコンをしまうためのガッチリとした作りのため外から見ると中になにがはいっているか分かりにくいが、この中に、専用の袋に入ったアナルバイブとリモコンが入っている。
俺は慌てて、カバンをデスクの引き出しにしまう。顔が熱い。俺はたまらず立ち上がった。
「さ、さあな。俺、ちょっと便所いくから」
「先輩、あと五分で定例会はじまりますよ」
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俺はそう言い残し、逃げるようにオフィスのトイレへ駆け込んだ。
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