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今際の光景(2)
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「えっ? 数? なんのことですかしらぁ?」
イボンヌがあっけらかんとした様子で答える。本当にわかっていないのか、それともすっとぼけているのか、にわかには判断しづらい顔だ。
「出席者はそちらとこちらで同数という話のはず。そちらはうちの倍ほどもいるように見えますね」
「あら、そういう話もありましたかしら。なにせ、ホラ、ルイーズ様はウチの兵士のアイドル的存在なものですから。どうしても花嫁姿を見たいってみんなついてきちゃったんですわぁ、ホホホホホ」
「それに、全員が全身鎧姿というのも聞いていないですね。しかも実戦用の」
「あらま、むさ苦しくて申し訳ないですわぁ! ヴォルネシアはラトゥールと違って、儀式用の鎧みたいな贅沢品を揃える余裕がないものですから、仕方なく。ホホホ」
「……なるほど。それでは、武器を預からせていただいても?」
「えぇっ?! でも、剣は騎士の魂と申しますし、安易に手放すわけには……」
「婚姻の席に血生臭いものは不要です。腰が寂しいのであれば、こちらで用意している儀礼用の剣をお貸ししましょう」
「えっ、それは……」
「カルナス様の仰る通りにしましょう、イボンヌ」
部屋の奥から、ルイーズの声が飛んできた。
「剣を下ろしましょう。けれどカルナス様、儀礼用の剣は不要ですわ。ヴァルネシアの兵士は、役に立たないものを腰にぶら下げる習慣はありませんの。今までも、これからも」
「なるほど、それは失礼いたしました」
「カルナス様、その代わり、ラトゥール側も武器は外してくださるのですわよね? 儀礼用とはいえ、こちらだけ武装解除されるのは心もとないですわ」
「もちろんです」
カルナスは腰の剣を飾り紐ごと引き抜いて、床に置いた。
「まずは私から、ここにこうして剣を置きました。他の者にもそうさせます。そちらがそうしてくださるのなら」
「そうだそうだ、それが良いぞ!」
ヴォルネシアとラトゥールの間で気まずい表情をしていた大司祭が、我が意を得たりとばかり何度も大げさに頷いた。
「皆、武器はここに置いて行きましょう。婚姻という神聖な場に、儀礼用であれなんであれ血生臭いものを持ち込むのはふさわしくないのであーる! ウォッホン!」
大司祭の偉ぶった発言に少し白けた空気が流れたあと、カルナスが再び口を開いた。
「では、まずはそちらの半数が。次にこちらの半数が」
「なるほど。その次にまたこちらの残り半数。そしてそちらの残り半数」
「そういうことです。よろしいですか」
「ええ。イボンヌ、皆の剣をはずすのを手伝ってあげて」
「は、はぁいっ!」
カルナスとルイーズの言った通り、部屋の中の騎士と兵士たちは相互に剣を外し、床に置いた。イボンヌは一人不器用な兵士が四苦八苦して剣を下ろすのを、結局つきっきりで面倒見ていた。
「……カルナス様は」
イボンヌのほうへ軽く首を回しながら、ヴェールの奥からルイーズが言った。
「以前お会いした時とは随分印象が違っていらっしゃいますわね」
「そうですか。自覚はありませんが」
「ルイーズ殿下もなかなか印象が変わりましたね」
初めの位置から一歩も動かぬまま、シルヴァリエが言った。
「まあ、シルヴァリエ様。そうですかしら?」
「初めてお会いした時はもっとオドオドしていた印象でしたが、今は堂々とされている」
「あら……」
「愛されている者の自信、というやつかな」
「あら、まあ……そうかもしれませんわね」
ルイーズは一瞬本当に照れたような声を出したあと、そう答えた。
「あらまぁっ! いやですわぁ、もう、ルイーズ様もシルヴァリエ様もこれから結婚するってときにわざわざのろけちゃってぇっ!」
ピリピリした空気を吹き飛ばすようにイボンヌがきゃいきゃいとはしゃいだ声をあげる。
「ふむ、ふむふむふむ、これで良かろう! それでは、花婿と花嫁は一歩前へ!」
ここまであまり何もしてこなかった大司祭が、この状況を自分の手柄としてかっさらおうとでもいうように、ことさらに声を張り上げた。
イボンヌがあっけらかんとした様子で答える。本当にわかっていないのか、それともすっとぼけているのか、にわかには判断しづらい顔だ。
「出席者はそちらとこちらで同数という話のはず。そちらはうちの倍ほどもいるように見えますね」
「あら、そういう話もありましたかしら。なにせ、ホラ、ルイーズ様はウチの兵士のアイドル的存在なものですから。どうしても花嫁姿を見たいってみんなついてきちゃったんですわぁ、ホホホホホ」
「それに、全員が全身鎧姿というのも聞いていないですね。しかも実戦用の」
「あらま、むさ苦しくて申し訳ないですわぁ! ヴォルネシアはラトゥールと違って、儀式用の鎧みたいな贅沢品を揃える余裕がないものですから、仕方なく。ホホホ」
「……なるほど。それでは、武器を預からせていただいても?」
「えぇっ?! でも、剣は騎士の魂と申しますし、安易に手放すわけには……」
「婚姻の席に血生臭いものは不要です。腰が寂しいのであれば、こちらで用意している儀礼用の剣をお貸ししましょう」
「えっ、それは……」
「カルナス様の仰る通りにしましょう、イボンヌ」
部屋の奥から、ルイーズの声が飛んできた。
「剣を下ろしましょう。けれどカルナス様、儀礼用の剣は不要ですわ。ヴァルネシアの兵士は、役に立たないものを腰にぶら下げる習慣はありませんの。今までも、これからも」
「なるほど、それは失礼いたしました」
「カルナス様、その代わり、ラトゥール側も武器は外してくださるのですわよね? 儀礼用とはいえ、こちらだけ武装解除されるのは心もとないですわ」
「もちろんです」
カルナスは腰の剣を飾り紐ごと引き抜いて、床に置いた。
「まずは私から、ここにこうして剣を置きました。他の者にもそうさせます。そちらがそうしてくださるのなら」
「そうだそうだ、それが良いぞ!」
ヴォルネシアとラトゥールの間で気まずい表情をしていた大司祭が、我が意を得たりとばかり何度も大げさに頷いた。
「皆、武器はここに置いて行きましょう。婚姻という神聖な場に、儀礼用であれなんであれ血生臭いものを持ち込むのはふさわしくないのであーる! ウォッホン!」
大司祭の偉ぶった発言に少し白けた空気が流れたあと、カルナスが再び口を開いた。
「では、まずはそちらの半数が。次にこちらの半数が」
「なるほど。その次にまたこちらの残り半数。そしてそちらの残り半数」
「そういうことです。よろしいですか」
「ええ。イボンヌ、皆の剣をはずすのを手伝ってあげて」
「は、はぁいっ!」
カルナスとルイーズの言った通り、部屋の中の騎士と兵士たちは相互に剣を外し、床に置いた。イボンヌは一人不器用な兵士が四苦八苦して剣を下ろすのを、結局つきっきりで面倒見ていた。
「……カルナス様は」
イボンヌのほうへ軽く首を回しながら、ヴェールの奥からルイーズが言った。
「以前お会いした時とは随分印象が違っていらっしゃいますわね」
「そうですか。自覚はありませんが」
「ルイーズ殿下もなかなか印象が変わりましたね」
初めの位置から一歩も動かぬまま、シルヴァリエが言った。
「まあ、シルヴァリエ様。そうですかしら?」
「初めてお会いした時はもっとオドオドしていた印象でしたが、今は堂々とされている」
「あら……」
「愛されている者の自信、というやつかな」
「あら、まあ……そうかもしれませんわね」
ルイーズは一瞬本当に照れたような声を出したあと、そう答えた。
「あらまぁっ! いやですわぁ、もう、ルイーズ様もシルヴァリエ様もこれから結婚するってときにわざわざのろけちゃってぇっ!」
ピリピリした空気を吹き飛ばすようにイボンヌがきゃいきゃいとはしゃいだ声をあげる。
「ふむ、ふむふむふむ、これで良かろう! それでは、花婿と花嫁は一歩前へ!」
ここまであまり何もしてこなかった大司祭が、この状況を自分の手柄としてかっさらおうとでもいうように、ことさらに声を張り上げた。
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