鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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雪下の幻想(2)

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「シルヴァリエ様、あ、シルヴァリエ副団長、ご相談が」

 パラクダンダの砦まであと一日、というその夕暮れ、カルナスの後について馬車から降りるなり、この護衛の指揮を担当しているモーランが、シルヴァリエに飛び付かんばかりの勢いでやってきた。

「……なんだ?」

 シルヴァリエは咄嗟にカルナスの腕を掴んで引き寄せながら、モーランと向かいあった。モーランがシルヴァリエに近づいてきたタイミングでカルナスはすでに足を止めていたが、シルヴァリエにしてみれば、だからといって安易に信用できるものもでもない。部隊の指揮をしていないとはいえ騎士団長であるカルナスがこの場から逃げるはずもない、と頭ではわかっていても。

 モーランはカルナスが大人しく腕を掴ませているのを一瞬驚いた顔で見てから、慌ててシルヴァリエに向き直った。

「その、実は部隊のなかに何名か病傷者が出ておりまして」
「病傷者? 今日も特にトラブルもなく進んできたと思うけど……喧嘩でも?」
「いえ……その……何名か、防寒具をつけていなかった者がおり……」
「防寒具が足りなかった?」
「いえ資金は十分に……ただ、付け方がわからなかったとかつけると動きづらいからと持っていただけのものも……」
「寒冷地は慣れないと言っていたものね。それで?」
「明日の砦までの道のりは狭隘道で、人数ばかり多くても……体調の悪いものを無理に連れて行くのはかえって足手まといになります。傷病者についてはできればしばらくこちらに置いていただけないかと……」
「駄目だ」

 シルヴァリエが応えるより先にそう返事をしたのはカルナスだった。

 そして、その返事は、シルヴァリエが言おうとしていたことと真逆だった。

「カルナス団長、し、しかし」
「いかなる理由があろうと任務は任務だ。まして、自分たちの不用意さで体調を崩した者の肩を持つとは……言っていて恥ずかしくないのか、モーラン」
「ですが、彼らを連れていくのはかえって足手まとい……」
「その話はすでに聞いた。騎士たるもの、手足がなくなろうと首を失おうと、己の任は果たすべきだ。役立たずの名ばかり騎士は我が騎士団には不要だ。モーラン、安易に自称の傷病者を離脱させるような判断をする隊長もな」
「は、はい……いえ、あの……」

 モーランが青ざめた顔で視線をさまよわせる。

「わかったら戻れ。離脱は許さん」
「あ、あの、しかし、これは……グランビーズ隊長の……」
「グランビーズ?」
「は、はい。グランビーズ隊長が、そうしたほうがいい、と」
「グランビーズが? どこにいる? 王立騎士団はいつからそんなに甘くなった?」
「えっ、自分、そんなことは言ってないっスよぉ」

 馬車の裏手から、緊迫した場にそぐわない呑気な声があがった。

 カルナスが戸惑いながらも険しい視線をそちらに向ける。

「グランビーズ……」
「ただ、そうなるといいなあとは言ったっスけど。ただの思いつきっス! この隊の責任者は自分じゃなくてモーランっスからね」
「グランビーズ隊長、それはそうですが……」
「そんな話、ハナから通るとは思ってないっスよぉ。王立騎士団なんて言ってもどうせ継嗣になれない貴族のはぐれ者の集まりっスもん。たかが護衛任務なんか成功して当たり前、失敗は許されないっス。国の役にたって、その上死んでくれれば国も家も万々歳ってとこっスよねえ」

 誰が声をあげたわけではないが、シルヴァリエたちを取り囲む空気が一瞬ざわついた。グランビーズの言うことは極論ではあったが、ラトゥール国の王立騎士団というものの、一面の真実ではあった。

「グランビーズ!」
「団長と副団長はずーっとあったかい馬車の中でいいっスよねえ。じゃ、自分は一足お先に屋敷の中の安全を確認して来るっス!」
「グランビーズ、待て!」

 カルナスが叱咤の声を上げた時にはすでに遅かった。グランビーズは玄関の奥へ姿を消していた。

「グランビーズ、お前、いったい……」

 カルナスが後を追おうとするが、シルヴァリエはカルナスを掴む腕に力を込め、それを阻止した。

「シルヴァリエ、離せ!」
「カルナス団長はここに。モーラン、傷病者の離脱を許す。この家でゆっくり休ませるといい。なんなら雪が溶けて暖かい季節になるまでゆっくり滞在しているといいよ。父には言っておく」
「は……はい! シルヴァリエ様、ありがとうございます!」
「モーラン! 私は駄目だと――」
「僕がいいと言っているんです。モーラン、用事が終わったなら戻れ。カルナス団長のことは僕に任せて」
「は、はい……」
「モーラン! シルヴァリエ!!」
「ここは寒いですねカルナス団長。部屋で温まりながら、ゆっくり話しましょうか」

 シルヴァリエがカルナスの尻肉を掴みながら耳元にそう囁くと、カルナスは俯いて首を横に振った。
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