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別離の道程(2)
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カルナスの横の席で頬杖をついていたシルヴァリエが手元を覗き込むと、王都から国境の砦まで、そして国境の砦から王都まで、つまりは往復で、政府要人を護送するという内容だった。時期はひと月ほど先。冬の真っ只中のことで、その時期指定の国境付近は雪に覆われているはずだ。要人の名前は伏せられている。
「ああ、その任務はまだ先なのですが――どの小隊に割り当てるべきかを判断しかねておりまして」
テーブルの反対側から内容をみてとったノルダ・ロウが口を開く。
「護送対象が分かれば多少は当たりもつけられるのですが、未確定というよりは秘匿事項なのか王宮の係官も詳しくは知らないようで話がどうも要領を得ず……本来警護は地域ごとの担当騎士団に引き継ぐのがこれまでの筋ですが、その任務については終始に渡り王立騎士団がその任にあたるべしとの一点張りで。その派遣任務に耐えられそうな隊は限られておりますが、期間が長いこともあり王宮の警備が手薄になる懸念もありまして、どうしたものかと」
「……そうだな」
そう答えたカルナスの声は、わずかに掠れている。
「僕でしょう」
カルナスの方を向いて頬杖をついたまま、シルヴァリエが言った。
「副団長、ですか?」
ノルダ・ロウが無表情のままシルヴァリエを見る。
「その要人、僕のことでしょう。そうじゃないですか、カルナス団長」
カルナスは書類に目を落としたまま、再び、そうだな、と言った。
「…………おそらく、そうだろう」
「なるほど……」
ノルダ・ロウがシルヴァリエからカルナスに視線を移す。
「深くは訊かないほうがいい、ということですか」
「ああ」
「承知しました。ではとにかく物資の準備だけは進めておきましょう。急なことで困りましたね。寒冷地用の装備はあまり充実していませんし、このあたりでは扱っている商人も限られます。特に馬具に不安がありますね。出発して、調達しながら進んでいくことになる可能性も」
「ああ。まかせる」
「担当小隊は?」
「ん……」
「自分、行くっス!」
悩んでいる様子のカルナスに、グランビーズが勢いよく手を挙げた。
「寒いのは嫌いだと言っていなかったか?」
と、ノルダ。
「我らが副団長の護送となれば話は別っス!」
「……と、言ってますが」
「なるほど……」
カルナスが一瞬シルヴァリエのほうへ送った視線を、すぐに戻す。
「カルナス団長がいればいいですよ」
シルヴァリエが言った。
ノルダ・ロウとグランビーズが、不思議そうな表情でシルヴァリエと、書類に目を落としたままのカルナスを交互に見る。
「カルナス団長が警護についてくれることは決まっているはずです。そうでしょう?」
「……そうなるだろう」
「大人数で動くのは目立つ。カルナス団長だけでいいですよ」
「それは……」
「シルヴァリエ殿、いえ副団長。いかにカルナス団長が強くても、長期に渡り一瞬も隙なく過ごすというのは不可能です。姿の見えない敵というものはいつどこから襲ってくるかわからないから恐ろしい。長期に渡る護衛任務には複数であたる必要が……」
「カルナス団長と副団長、いつの間にそんなに仲良くなったんスかぁ?」
戸惑うカルナスに代わりまっとうな意見を述べるノルダ・ロウ横で、グランビーズが呑気に尋ねた。
「仲良くなんかないですよ。ねえカルナス団長」
シルヴァリエが皮肉っぽい口調で答えた。カルナスは無言だ。
「カルナス団長は僕のこと嫌いですもんね。知ってますよ」
「…………」
「どんなに嫌いな相手でも、国のためならなんでもしてくれるんですよね。ねえ?」
部屋の中に重苦しい沈黙が落ちる。ふたりの間に漂う異様な空気に気づいたのか、ノルダ・ロウとグランビーズは息を潜めて気配を殺しながら、カルナスとシルヴァリエの一挙手一投足に全身全霊で注意を払っている。
「ああ、その任務はまだ先なのですが――どの小隊に割り当てるべきかを判断しかねておりまして」
テーブルの反対側から内容をみてとったノルダ・ロウが口を開く。
「護送対象が分かれば多少は当たりもつけられるのですが、未確定というよりは秘匿事項なのか王宮の係官も詳しくは知らないようで話がどうも要領を得ず……本来警護は地域ごとの担当騎士団に引き継ぐのがこれまでの筋ですが、その任務については終始に渡り王立騎士団がその任にあたるべしとの一点張りで。その派遣任務に耐えられそうな隊は限られておりますが、期間が長いこともあり王宮の警備が手薄になる懸念もありまして、どうしたものかと」
「……そうだな」
そう答えたカルナスの声は、わずかに掠れている。
「僕でしょう」
カルナスの方を向いて頬杖をついたまま、シルヴァリエが言った。
「副団長、ですか?」
ノルダ・ロウが無表情のままシルヴァリエを見る。
「その要人、僕のことでしょう。そうじゃないですか、カルナス団長」
カルナスは書類に目を落としたまま、再び、そうだな、と言った。
「…………おそらく、そうだろう」
「なるほど……」
ノルダ・ロウがシルヴァリエからカルナスに視線を移す。
「深くは訊かないほうがいい、ということですか」
「ああ」
「承知しました。ではとにかく物資の準備だけは進めておきましょう。急なことで困りましたね。寒冷地用の装備はあまり充実していませんし、このあたりでは扱っている商人も限られます。特に馬具に不安がありますね。出発して、調達しながら進んでいくことになる可能性も」
「ああ。まかせる」
「担当小隊は?」
「ん……」
「自分、行くっス!」
悩んでいる様子のカルナスに、グランビーズが勢いよく手を挙げた。
「寒いのは嫌いだと言っていなかったか?」
と、ノルダ。
「我らが副団長の護送となれば話は別っス!」
「……と、言ってますが」
「なるほど……」
カルナスが一瞬シルヴァリエのほうへ送った視線を、すぐに戻す。
「カルナス団長がいればいいですよ」
シルヴァリエが言った。
ノルダ・ロウとグランビーズが、不思議そうな表情でシルヴァリエと、書類に目を落としたままのカルナスを交互に見る。
「カルナス団長が警護についてくれることは決まっているはずです。そうでしょう?」
「……そうなるだろう」
「大人数で動くのは目立つ。カルナス団長だけでいいですよ」
「それは……」
「シルヴァリエ殿、いえ副団長。いかにカルナス団長が強くても、長期に渡り一瞬も隙なく過ごすというのは不可能です。姿の見えない敵というものはいつどこから襲ってくるかわからないから恐ろしい。長期に渡る護衛任務には複数であたる必要が……」
「カルナス団長と副団長、いつの間にそんなに仲良くなったんスかぁ?」
戸惑うカルナスに代わりまっとうな意見を述べるノルダ・ロウ横で、グランビーズが呑気に尋ねた。
「仲良くなんかないですよ。ねえカルナス団長」
シルヴァリエが皮肉っぽい口調で答えた。カルナスは無言だ。
「カルナス団長は僕のこと嫌いですもんね。知ってますよ」
「…………」
「どんなに嫌いな相手でも、国のためならなんでもしてくれるんですよね。ねえ?」
部屋の中に重苦しい沈黙が落ちる。ふたりの間に漂う異様な空気に気づいたのか、ノルダ・ロウとグランビーズは息を潜めて気配を殺しながら、カルナスとシルヴァリエの一挙手一投足に全身全霊で注意を払っている。
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