鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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突然の失踪(8)

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 シルヴァリエはカルナスの顔に手をあて、そっと撫でる。しかし続いてカルナスの口から出てきたのは、シルヴァリエの予想を裏切る言葉だった。

「もう、お前とのことは忘れる。なかったことにする。だから……」
「……は?」

 シルヴァリエはカルナスの頬を撫でていた手をピタリととめた。

「だから――なんです? 僕とのことをなかったことにする? 誰がそんなことをしてくれと言いました」
「ルイーズとの婚約を控えているのを知っていて、お前に手を出した私に怒っているのだろう」
「婚約だなんて、そもそも僕はまだ――」
「私だってそんなつもりはなかったんだ! お前がしばらく騎士団に来ると知った時には複雑な気持ちだった。成長したお前のことは噂には聞いていたが……顔を見て、お前が私を覚えてくれていればそれでよかった。でもお前は忘れていて……あの晩のことを忘れられずにいたのは、結局私だけだったんだ」
「そ、それは! それは、覚えていない僕のほうが悪かったと…点ただ、あの時は色々あってショックで……」
「言い訳はいい! 忘れていていい、それでいい、そのほうがよかったんだ! もともと私には近寄ることすらできないような相手だし、お前にとっては数ある相手のひとりに過ぎなかったんだろう。私が幼かったんだ。淫紋だって、消そうと思えばもっと早く自分で調べて消すことができたんだ。それをいつまでもズルズルと抱え続けたから――」
「カルナス団長は、僕とのことを後悔してるってことですか?」

 シルヴァリエの問いに、カルナスは首を小さく横に振った後、なにかを断ち切るように、大きくひとつ頷いた。

「そうだ」
「…………」
「淫紋を消さなかったのも、それに気づいたお前を受け入れてしまったのも、そんな状況にずっと甘えてしまったのも、すべて私のくだらない感傷が原因だ。ルイーズとの婚約を控えているお前の評判を落とさないよう、女遊びを少しは控えさせてほしいとアンドリアーノ公から言われていたことを言い訳にして……ルイーズと会うまでは、婚約が成立するまでは、淫紋を治療にいく暇が取れるまでは、と、ずっとお前との関係を断ち切れずにいた。あの日のルーも、レオも、もうどこにもいないのにな……」

 カルナスが少し寂しげに言った後、シルヴァリエの目を見た。

「付き合わせて悪かった。お前が、私のことを、ちょうどいい性欲解消相手くらいに思っていたとしても、私がお前のことを忘れるには必要な時間だった。感謝している。子供の頃のことはもう二度と思い出さないだろうし――お前が私に対し親切であったということ以外ももう思い出さない。だから――私との関係は終わりだ、シルヴァリエ。アンドリアーノ公からも言われているだろう。他国の重鎮を迎え入れる身にスキャンダルは禁物だ。決まった相手がいない頃はそれでもよかっただろうが、婚約中となると話は違う。ルイーズとの関係に集中してくれ。今は大事なときだ」
「…………」
「シルヴァリエ?」
「……………………へえ」

 カルナスがベッドの上で身をすくめた。

 シルヴァリエが怒っている時の声色であることを、察したようだ。

「シルヴァリエ……」
「そうやってカルナス団長は――僕があなたの歓心を買うことに躍起になっていた間じゅうずっと――あなたは、僕のことを忘れる準備を進めてたってわけですか」
「シルヴァリ…………」
「なにが大事なとき? なにが婚約、なにが国策なものですか。血統書付きの犬二頭を狭い檻に閉じ込めて―うまくつがえば大成功? お国の重鎮とやらが顔付き合わせて、ずいぶんと下劣な策を練ったものですね」
「ルイーズのことを黙っていたことを怒っているのなら謝る。ルイーズに勘づかれてうまくいかないと困るから、ふたりには黙っているよう私も指示を受けていて……」
「うまくいくもなにも僕はルイーズに興味はありません。前にも言いましたよね?」
「彼女は、高い身分と、高貴な血筋と、教養と美しさを身につけている。我が国にとって重要な相手であり、アンドリアーノに迎え入れるに申し分ない女性だろう。それに……お前だって、その彼女にそういう気持ちがあるものと」
「貴婦人相手なら誰にでもあれくらいはやりますよ。礼儀です。でも、ベッドに引きずりこむのは誰でもってわけじゃない」

 シルヴァリエはカルナスの顔から喉、胸元へと指を這わせ、そこを刺し貫かなんばかりに指先に力を込めた。カルナスが顔をしかめる。

「僕があなたを覚えていなかったと言いましたが――カルナス団長こそ、僕の言ったことを何も覚えていないんですね。”ルー”の影を追い求めて、今の僕に興味なんかなかったんだ」
「シルヴァリエ、それは」
「黙れよ」

 シルヴァリエの手がカルナスの首にかかった。

「腕を縛られて、下半身さらして、随分と無防備な姿ですね、カルナス団長。このまま殺せそうだ」
「わ――私を憎んでいるのなら、それでも構わない」
「……へえ?」
「だから今は――」
「ルイーズの上で腰を振るまでおとなしくしてろって?」

 否定も肯定もせず、カルナスが目を逸らす。

 否定しないということは、すなわち肯定したということだ。

 シルヴァリエは自分のズボンの前を開き、中からでろんと萎えた状態の肉棒を取り出して、カルナスの口もとに押し付けた。

「舐めて」
「だから、私はもうしないと――」
「僕におとなしくルイーズと結婚してほしいんでしょう。だったら、それまではカルナス団長が処理してください」
「だ、ダメだ! もうダメだと言った!」
「それなら他の相手のところに行けばいいんですかね。国策がどうだと言ったって、そのほうが背徳的で楽しいとベッドに誘ってきそうな相手は、軽く思い出す限りでも片手じゃ数え切れない。いいですよ、僕はそれでも。彼女らが、秘密が守れるかまでは知りませんが」
「あ……」
「それがいいかな。僕のことが好きでもなんでもないカルナス団長に無理を言って相手してもらうよりも、そのほうが楽しそうだ。バレたときに、ラトゥールとヴォルネシアの関係がどうなるかまでは知りませんけど」

 シルヴァリエはカルナスの上から降り、局部を中にしまった。

「じゃあ僕は帰ります。縛ってあるのも、カルナス団長ならひとりでなんとかできるでしょう。できないならフロントに助けを求めておいてあげますよ。どうします?」
「ま、待て!」

 カルナスがベッドの上で身を捩って起こし、立ち上がる。

「なんです?」
「私が――私が相手をする」
「結構ですよ。そんな悲壮な顔をして言っていただくほど、相手に困っているわけじゃないので」
「シルヴァリエ……!」
「カルナス団長がどうしてもしたいっていうなら話は別ですけど、ね」
「…………」
「ほら、そうやって黙り込む。無理しなくていいですよ。それじゃあ」
「シルヴァリエ、待ってくれ! したい、したい! だから」
「なにを?」
「なにをって……」
「なにをしたいんです? はっきり言ってもらわないと」
「お前と……せ、セックスしたい。頼む、だから――」
「へえ」

 シルヴァリエはドアに背を預け、腕組みしながら自分を見上げてくるカルナスを睥睨する。

「カルナス団長は僕とセックスしたいんですね」
「そうだ……」
「僕のことが好き?」
「す――好き、だ」
「僕はルイーズと婚約中の身の上ですけど、それでも僕としたいくらい僕のことが好き?」
「……そう、だ」

 しどろもどろに返事をするカルナスを射抜くような目でしばらく見つめていたシルヴァリエは、やがて目をつぶり考え事をするように軽く頭を左右に振って、再び目を開いた。

「――いいですよ」

 シルヴァリエの返事に、カルナスが安堵の息を吐くのが、シルヴァリエの両の虹彩にはっきりと映る。

「そんなにしたいなら、相手してあげます。自分で僕のを取り出して、愛撫してください。そのままの格好で。手は使わずに」
「わかった……」

 カルナスがシルヴァリエの前に膝をつき、言われた通り口だけでシルヴァリエの服の前を開こうと悪戦苦闘しはじめる。

 シルヴァリエはそんなカルナスの姿を腕組みしたまま見下ろした後、昼間だというのに分厚いカーテンで遮られた窓の向こうを、遠い目で見つめ、やがて閉じた。
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