鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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突然の失踪(6)

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 気がつくと、シルヴァリエはベッドに横たわっていた。胸もとに重みを感じ手で探ると、触り慣れた黒髪の感触が伝わって来る。

 なにが起きたのか――なぜここにいるのか思い出せないでいるうちに、部屋のなかへジェイミーが入って来てカーテンを開けた。

「グッドモーニング、おふたりさん。ずいぶん眠ったな、もう昼過ぎだぞ」
「お前……ああ、あ! ジェイミー・ガーランド!」

 シルヴァリエは急速に覚醒し、ベッドから跳ね起きた。

「治療は終わりだ。なかなかいいデータが取れて感謝している」

 ジェイミーは右手を差し出し、

「ああ、それと、しばらく性行為は控えめにしておけよ。あれだけ射精を我慢させられた後だ、さぞやしたくて仕方ないだろうが、三日三晩ヤられ続けて粘膜も傷んでいるだろうからな」

 と、にっこり笑って付け加えた。



 ジェイミー・ガーランドの館を辞したカルナスとシルヴァリエは、人目を避け細い路地裏を縫うようにして、気まずい空気で歩いた。

 館のなかでもカルナスはジェイミーと最低限の事務的な会話を交わしたくらいで、ほとんどしゃべらなかった。いつも早足のカルナスだが、今日はことさら早く、カルナスについていくためにシルヴァリエは軽く駆け足になる必要があった。

「カルナス団長、あの」

 曲がり角で逡巡しているうちまたも引き離されそうになったのをどうにか追いついたシルヴァリエが、カルナスに呼びかける。

「大通りは、あっちですよ」

 カルナスの足がピタリと止まった。そのまま引き返すのかと思いきや、しかしカルナスは再び進んでいた方向に歩き始めた。

「カルナス団長、どこへ行くんですか?」
「はなせ!」

 意地を張っている、と見たシルヴァリエが、カルナスの腕を掴んで引き止めるようとすると、カルナスはその手を乱暴に振り払った。

「カルナス団長」
「私がどこへ行こうと自由だ。お前にどうこう言われる筋合いはない」
「あ――あなたは王立騎士団の団長じゃないですか。そして僕は副団長です。どこへ行くかくらいは教えてくれたっていいでしょう」
「明日の朝には戻る!」
「明日の朝まで、どこでなにをするつもりですか」
「お前に言う必要はない」
「どこで――何をするつもりですか?」

 シルヴァリエの手がカルナスの首に伸び、その体を横の壁に叩きつけた。

「シルヴァリエ……っ」
「言いなさい。今日はこれから、どこでなにを?」
「首、くるし……」
「どこで、なにをするつもりですか?」
「決めてない!」
「じゃあ帰りましょう」
「疲れたんだ、今日は……」
「じゃあ、僕の屋敷へいらっしゃい。部屋ならいくらでも空いてますし、召使いだって余ってます」
「ひとりにしてくれ!!」
「ひとりになって、なにをするつもりです。騎士団以外に行くあてでもあるんですか?」
「今夜は、どこかで……宿をとって……」
「そこで男か女を買って、自由になった体で思い切りセックスを楽しむ?」
「何を言ってる? シルヴァリエ、とにかく首から手を……」
「そうなんですね」
「ちが、違……う……」

 シルヴァリエの両手はいつの間にかカルナスの首を締め上げていた。カルナスが両手でそれを引き剥がそうとするのでシルヴァリエは上向きになっているカルナスの顔に強引に口付けた。

「ジェイミー・ガーランドの館であなたを見たときの僕の気持ちを教えてあげましょうか、カルナス団長」

 シルヴァリエに喉元を抑えられたままのカルナスが首を小刻みに横に振る。

「後悔しましたよ。激しく後悔しました。あなたを自分の手元から逃してしまった、あの一瞬のことを」
「シルヴァリエ、はなし……」
「魔術医なら僕が紹介するつもりでしたし、治療にも今度こそ全面的に協力するつもりでした。狩猟祭の夜、それをお話しようとしていたのに時間がなかった。それなのにカルナス団長、あなたと来たら……あなたと来たら!」

 シルヴァリエの両手に再び力がこもる。カルナスがシルヴァリエを思い切り突き飛ばし、シルヴァリエの体は反対側の壁に打ち付けられた。

「痛つぅ……っ」
「シルヴァリエ、落ち着け! お前は、いったい何を……」

 自分に向かって両手を広げるカルナスの手の片方をシルヴァリエは無言のまま掴み、歩き始めた。

「シルヴァリエ……っ!」

 シルヴァリエは時折後ろを振り返り、表情の消えた顔でカルナスを見る。自分が手を握っている相手が、本当にカルナスであることを確認するように。シルヴァリエはそのまま、裏通りの一角にある、いわゆる連れ込み宿へと足を向けた。

「おい、やめろ! 私は行かないぞ!」
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