鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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晴天の霹靂(3)

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「大アンドリアーノの当主にあそこまで強気に出られるやつを初めて見たぞ。公爵があそこまで動揺しているのも。大したものだ、シルヴァリエ」

 ゴルディアス・アンドリアーノが扉を閉めた後、カルナスが言った。

「話を逸らさないでください、カルナス団長」
「逸らしたつもりはない……聞こう。なんだ」
「……知ってたんですね」
「それにはもう答えた」
「知ってて……どうして」
「淫紋のことか」
「……そうです」
「お前には感謝している」
「感謝?」
「お前の……協力に。あれは、そう、病気のようなものだ。私の持病に対する治療行為への協力に、感謝している」
「あれらすべてが――ただの治療行為だと思っていたんですか、カルナス団長。本気で? 狩猟祭の夜のことも?」
「そうだ」
「……淫紋、どうなってます? そうだ、そうですよ、あれから一週間経っている。あの時にはだいぶん落ち着いていたとはいえ、また暴れ出してるんじゃないですか。見せてくださいよ」

 シルヴァリエがカルナスのほうへ大股に歩いて行くと、カルナスは逃げるように部屋の反対側へ移動した。

「ほら、怖がらなくていいですよ、カルナス団長。治療行為なんでしょう? 見せてくださいよ」
「お前にはもう関係ない」
「……は?」
「あのことは、お前にはもう関係ない。もともと私の個人的な問題だ。これまでの協力に感謝する。これからは――もういい」
「もういいって――じゃあ、これからは誰に治療してもらうんです? ノルダ・ロウ? グランビーズ? モーラン? それとも――」

 シルヴァリエは、騎士団の中で知っているありとあらゆる騎士の名前をあげつらった。自分はいまさぞや醜い顔をしているだろうという自覚はあったが――例えるなら、あの晩のスナメリオ叔父のように――どうすることもできなかった。

 カルナスはそんなシルヴァリエの言葉を少し俯いたまま受け止めた後、小さく首を振った。

「騎士団の中を乱すつもりはない。自分ひとりで抑えればいいことだ。これからも――」
「ご冗談を。ひとりじゃ抑えきれなかったから僕が相手してたんでしょう? 僕じゃなければ、誰に相手をさせるつもりですか」
「誰でもない」
「ひとりだとあんな状態になっていたくせに? 抑えるってひとりですることですか。それはますますひどくなるだけだって、懲りてないんですかね。それとも、騎士団の中じゃないってことは外に誰かいるんですか? それも不特定多数? まさか僕がいない間――」
「してないと言っているだろう! 淫紋だって、お前が来るまでは一人で抑えられていたんだ!」
「え?」

 室内に突然ぽっかりと沈黙が落ちる。カルナスが、しまった、という表情で唇を噛んだ。

「なんでもな――」
「カルナス団長。その淫紋、いつ、つけられたものなんですか」
「…………」
「僕が来てからどこかの任務でつけられたものだと思ってました。魔物討伐とやらに行ってたと聞いていたので、あの時かと。でも――違うんですか? 違うんですね」
「違う、これは――」

 近づいて来るシルヴァリエとの間にソファを挟んで距離を取ろうとするカルナスに手を伸ばし、シルヴァリエは強引にその体を自分のほうへ引き寄せた。

「スナメリオ叔父の魔物につけられた淫紋――消えてなかったんですね」
「……ちが」
「僕が言っていることが本当に違うのなら、僕の目を見て答えてください。その淫紋は、いつ、どこで、どうやって、つけられたものですか」
「…………」
「修行僧並みに禁欲的な生活をしていれば抑えられるとも聞きましたが――あれからずっと? 随分頑張ったんですね」
「わ、私は――」
「僕が来てからひどくなりだしたっていうのは、同じ魔物に噛まれた影響ですか? 多分、そうじゃないですよね。僕のほうの淫紋はとうの昔に消えている。カルナス団長が僕に――欲情したから?」
「――違う!」

 カルナスが、シルヴァリエを思い切り突き飛ばす。シルヴァリエは背後の壁にしたたかに頭を打ち付けた。

「痛てて……」
「あ……シルヴァリエ……」
「……そんなに心配しなくても生きてますよ、カルナス団長。この騎士団でだいぶ鍛えられましたから」
「…………もう、いやだ」
「カルナス団長?」
「もう、いやだ……もう終わりだ、終わり、終わりにする。私の、私の淫紋だけが消えない。お前のほうのそれはとうに消えて、私の存在すら覚えていないというのに――」
「カルナス団長、僕は」
「言うな、シルヴァリエ! もう何も言うな、言わないでくれ!!」

 カルナスはそう叫ぶなり、応接室から出て行った。
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