鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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晴天の霹靂(1)

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 ――――どういう顔で会えばいいんだ。


 そびえ立つ騎士団宿舎を前に、シルヴァリエはこれまでになく緊張していた。

 そもそも騎士団宿舎も特に今日に限ってそびえ立っているわけではなく、いつも通りそこに建っているだけである。それなのにこんなに威圧感を感じるのは、そこにカルナスがいることがわかっているからだ。

 狩猟祭の夜、シルヴァリエは失っていた昔の記憶を――大叔父のスナメリオが自分を襲ってきたことをカルナスから聞かされた。

 それと同時に、シルヴァリエがお飾り騎士団長として騎士団にやってくるずっと以前から、カルナスと話していたことも。

 キスもセックスもしていたことも。

 好き、と言っていたことも。

「――――っ」

 シルヴァリエは改めて頭を抱え、その場にしゃがみこんだ。

「なんで忘れちゃってたかな、僕……」

 シルヴァリエがそう言ったのに対し、カルナスは「大叔父に襲われたことと魔物の淫紋をつけられたことで受けたショックの、後遺症だろう」と、淡々と答えた。 

 カルナスはシルヴァリエがどういう言動をして自分に何をした、ということまで詳しくは語らなかったが、狩猟祭の後始末やらなにやらで忙しくしている間にシルヴァリエは当時のことをすっかり思い出していた。あの頃「レオ」と呼んでいた騎士団の少年を憎からず思っていたことも、淫紋の影響下でそのレオを――本名はカルナス・レオンダルというその相手をたまらなく欲しくなったことも、する前も、している間も「好き」を連呼していたことも。

「どういう顔で会えばいいんだ……」

 ここ数日、何度も自問していたことを、シルヴァリエは口にした。

 あの晩は昔の話を聞きながらカルナスを抱きしめているうちいつの間にか眠ってしまい、翌朝捜索に来た騎士団と合流した後は、ペンダントを心配顔のルイーズに返却し来賓の見送りのために衣服を整え――その後は狩猟祭で世話になった相手への挨拶やら女王からの慰労パーティやら来賓からいただいた御手紙への返信やら御礼の手紙書きやらあれこれあれこれ。

 そうこうしているうちに騎士団に戻り損ね、狩猟祭から早や一週間が過ぎている。

「言い訳するわけじゃないけど……」

 宿舎入り口の柱に背中を預け、シルヴァリエは膝を抱えて空を見上げた。透き通るような青い空に白い雲が浮かんでいる。

 シルヴァリエが宮廷の中で選ぶ相手は、デュロワ伯爵夫人などのように相手が積極的に誘ってくるのでもなければ、亜麻色の髪に淡いブルーグレーの瞳をした相手が多かった。そして、そういう相手を自分で選んでいるくせに、ことが終わるとそういう相手ほどなぜか心の中で違和感を覚えていた。無意識下で”レオ”を探していた、と言ったらカルナスは呆れるだろうか。カルナスは自分を前にしても昔のことをまるで思い出さなかったシルヴァリエに落胆していたようだが、名前を間違って覚えていたのは昔のシルヴァリエの落ち度としても、髪は亜麻色から茶色がかった黒に、目はわずかに青みがかったグレーから藍色に近い青色にすっかり変わっていたのだから、わからなくても無理はないのではないだろうか。レオのことをうっすら思い出したシルヴァリエが、容姿がまるで変わっている理由を尋ねてみたところカルナスは「家系的なものだ」と言っていたが、さすがに反則だろう、とシルヴァリエは心の中で反論する。

 もっとも、カルナスと顔を合わせづらい理由はそれではない。昔の自分が言ったこと、それにカルナスが言ったことを考え合わせると――

「――両思い、ってことだよな?」

 数多の恋愛遊戯を経てきたはずのシルヴァリエだが、そう呟くなり顔を真っ赤にして膝の間に埋めた。

 つまりは――照れ臭い、というあれ。

「ほら、ね、副団長っスよ」
「本当だ……」
「えっ、あっ」

 上のほうから自分を呼ぶ声が聞こえ、シルヴァリエは慌てて立ち上がった。宿舎の窓から、グランビーズがノルダ・ロウに向かって、シルヴァリエのいるほうを指差している。

「シルヴァリエ副団長、そんなところで何をなさってるんですか?」
「……ちょっと考えごとをね」
「アンドリアーノ公と団長でしたら、第一応接室ですよ」
「え? 父が来てるのか?」
「おや、ご一緒じゃなかったんですか?」
「…………」

 シルヴァリエは首を捻りながら、ノルダ・ロウに教えてもらった第一応接室へと向かった。騎士団の儀礼通りノックをして名乗りをあげると、ドアが開くとゴルディアス・アンドリアーノが飛び出さんばかりの勢いで出て来て、シルヴァリエを抱きしめて、額やら顔やらにキスの雨を降らせて来た。

「おお、我が息子、大アンドリアーノの誇り、ラトゥールの、いや、大陸一の伊達男が!」
「父上、なんですか急に。ヒゲが痛いんですが」
「お前の婚約が正式に決まったぞ」
「婚約……? カルナス団長とのですか」

 周囲の空気が一瞬固まった後、ゴルディアスは豪快に爆笑した。

「はあっははははは! 余裕だなシルヴァリエ。誰もが狙っていた大国の秘花を籠絡するのもお前にとっては朝飯前というわけか。このモテ男め。金と地位目当ての女しか寄ってこなかったワシの若い頃とは大違いだ」
「え、あ、いや……」
「ヴォルネシアからつい先ほど使者が到着してな。戦王リカルドの妹、ルイーズとの婚姻の件、早急に話を進めてほしいとのことだ。狩猟祭では公私に渡り随分と世話になった、との私文付きでな。どうやら向こうは本気でお前に惚れているぞ。これなら今後のヴォルネシアとの国交も我がラトゥール優位で進められるというものだ。よくやったぞ、シルヴァリエ!」
「ルイーズ……と……?」

 シルヴァリエが応接室の中にいるはずのカルナスを探すと、カルナスは顔を強張らせたまま直立不動の態勢で、あらぬ方を見つめていた。
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