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幼年の記憶(6)

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「淫紋?」

 レオが訝しげな目でスナメリオを見あげる。

「さっきからルーに噛みつかせているこの魔物は、いわゆる淫魔の一種でね」

 スナメリオが、懐から出したガラス瓶をレオに見せつけた。中には、歯が円環状に生えた蛇と土虫の合いの子のような魔物がのたくっている。

「これに噛みつかれた者の体には淫紋が現れる。その淫紋の効果は、同じ魔物に噛みつかれた相手との性行為でしか抑えられない……」

 そう言いながらスナメリオは瓶の蓋を開け、中に指を入れた。瓶の中の魔物が、待ってましたとばかりにスナメリオの指に噛み付くと、スナメリオは恍惚とした表情で全身を震わせた。

「ああ、これを手に入れてからというもの、ルーに仕掛けるのを待ちきれず、毎晩のようにこうしていたんだ……淫紋の発作は辛いものだったが、お前を想って自慰に耽るしかなかったこれまでの長い日々を考えればこれくらいの我慢はなんでもない。そしてそれも今日で終わりだ。ルー、今日こそふたりが結ばれる日だよ」
「ルーに……近づくな、気持ち悪い!」
「気持ち悪くなどあるものか。これが真実の愛というものだ。お前にもわからせてあげよう。ほら」

 スナメリオは瓶に入っていた魔物をレオに向かって放り投げた。

「ひっ?!」

 魔物は手のひらほどの大きさしかなかったが、素早い動きで服のなかに潜り込んだ。

「や、えっ?! なんだ、これ、くそっ、あっ?!」

 服のなかでもぞもぞとあちらこちらを蠢く魔物にレオが気を取られている間に、スナメリオはシルヴァリエに近づいた。縄の隙間からシャツを左右にはだけると、下腹部に淫紋がうっすらと浮かんでいる。スナメリオはそれを愛おしげに撫でた。

「ここに出たのか。まだ後ろの快楽は知らないのだね、ルー。良かった。そちらは私が教えてあげるからね」
「やだ……」
「ん?」
「いやだ……お前なんか……」
「そうは言っても、お前の中の疼きを鎮めてあげられるのは私しかいないのだよ、ルー」

 スナメリオはそう言いながら、シルヴァリエのズボンをズルズルと引き下ろした。完全に勃起したシルヴァリエの下半身が、スナメリオの前に晒される。

「おやおや、顔にはまだあどけなさが残っているというのに、ここはすっかり大人だな。いけない子だ」
「や、やだ! やめろ! 触るな!」
「こうされると気持ちいいだろう?」
「気持ち悪い!」
「そう言いながらも腰がびくびく動いているよ。もっと素直になりなさい。私が欲しいだろう?」
「お前なんか嫌いだ! いやだ……いやだぁ…………っ!!」
「嫌がる姿も可愛いよ、ルー。もっとしてあげようね」
「いやだ……誰か、助けて……誰か……気持ちよくない、嫌いだ、嫌いだ、お前なんか嫌い……気持ち悪い……気持ち悪いよ、助けて……助けて…………!」
「助けてあげるよ、私が」
「いやだ、お前じゃない! お前なんか嫌いだ! 誰か……誰か……レオ!」
「おやおや、レオンダルの小僧に随分とご執心……あ?」

 縛られたままのシルヴァリエをいたぶっていたスナメリオの動きがピタリと止まる。

 そのまま機械仕掛けの人形のようにゆっくりと後ろを振り向き、崩れ落ちるように横向きに倒れた。

 スナメリオの、ちょうどの心臓の真後ろにあたるところに、短剣が突き刺さっている。

 倒れたスナメリオの後ろに、膝立ちのまま呆然とした表情をしているレオが居た。

「レオ……!」
「ルー……」

 レオが倒れこむようにしながらシルヴァリエの顔を覗き込み、無事を確認して安堵の息を吐く。シルヴァリエが思わずその口にキスをすると、レオもそれに応えてきた。レオのあちこちにはスナメリオにしかけられた魔物につけられたと思しき咬み傷があったが、魔物の本体は少し離れたところで体をいくつにも切り裂かれ息絶えている。

 ふたりはしばらくそのままキスを交わしていたが、レオがはたと気づいたように口をはなした。

「こんなことをしている場合では……縄を解きます、逃げましょう」
「……痛い」
「え?」
「おちんちん、勃起し過ぎて痛い。セックスしたい」
「……!」

 シルヴァリエの下半身に目をやったレオが慌てて目をそらしシルヴァリエの縄を解く。緊張しているせいか手元が狂ってもたついているのをもどかしげな目で見ていたシルヴァリエは、縄が解けるなりレオに抱きついて、その場に押し倒した。

「ルー!」
「レオ、したい。したいよ」
「逃げないと……」
「スナメリオ叔父さんならもう死んだよ。逃げなくていいから、セックスしようよ」
「報告しないと……」
「どこへも行きたくない。レオ、レオとセックスしたい」
「……私はダメです」
「レオがいい。レオ、してよ。しようよ」
「落ち着いてください、ルー。そうなっているのは魔物に噛まれたせいです。私も先ほど噛まれました。だから、そのせいですよ。魔術医に診てもらえばきっと治ります。だから……」
「レオは僕のこと嫌いなの」
「え?」
「僕は好き」
「…………っ」

 レオの顔がみるみる赤くなる。

「ねえ、レオ、したいよ。しようよ。好き。レオとセックスしたい。ねえ、レオはいやなの。僕が嫌い? 僕のこと、気持ち悪い? 僕はレオならいいよ。レオなら気持ち悪くない。レオが好き。でも、レオはいやなの? 僕のこと嫌いなの」
「……あなたを嫌いな人間などこの世にいるものですか、ルー」

 レオの体から力が抜けた。シルヴァリエは抵抗しなくなったレオの服を剥ぎ取り、その体に己を沈み込ませた。痛みに顔を歪ませながらレオがシルヴァリエの背に手を回すと、シルヴァリエはすがりつくようにレオを抱きしめた。
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