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初秋の再会(5)

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 個室のドアが閉まるなりルイーズは、

「シルヴァリエ様、どうしましょう。わたくし大変なものを……」

 と、シルヴァリエにすがりつくように訴えてきた。

「ルイーズ殿下、落ち着いて。どういうことですか?」
「兄の絵姿が入ったペンダントを失くしてしまって……」
「リカルド陛下の?」
「そうです」
「……もしかして、リカルド陛下の素顔ということですか?」

 ルイーズは頷いた。

 ルイーズの兄、ヴォルガネットの戦王リカルドは、その姿形が知られていない。

 周辺国に出回ってくる絵姿はすべて鎧を全身にまとったもので、その顔立ちはことさら恐ろしい表情をした面具の奥に隠されている。

 リカルドはもともと前王の私生児で、即位するまではその存在自体が国外ではほぼ知られていなかった。その上、急激に国土を拡張しているリカルドには内外に敵が多い。戦地においては第一の標的とされ、平時においても暗殺の危機にさらされている身では、顔を隠せるものなら隠しておきたいと思うのは当然である。逆に言えば、リカルドの素顔というのはそれだけ機密性の高い情報ということだ。

「ネックレスにして首からかけて、肌着の下にずっといれていたのですが……」
「いつ失くされたのですか? 踊っている間に?」
「いえ、おそらくはもっと前……夜会服に着替えるときにはずでにはずした覚えがありませんから……ああっ!」
「どうしました」
「川原です。昼間に連れて行っていただいた。綺麗な花があったのでお兄様に見せてあげようとペンダントを外して中にいれて……イボンヌが急に話しかけてきたので慌てて閉じたのですが、おそらくそのときに落としたものかと……」
「……なるほど」

 シルヴァリエは腕組みをして天を仰いだ。

 どう考えても選択肢はあまり多くなく、時間もあまりないようだ。

「……わかりました。僕が探してきます。ネックレスの特徴を教えていただけますか」





「……シルヴァリエ?」

 団長クラス専用の控え室だという部屋のドアを開けると、広くはあるが石がむき出しになったままの部屋の片隅で、具足以外の鎧を脱いだ状態のカルナスがひとりぼんやりとした表情で窓の外を眺めていた。

 シルヴァリエに気づいて目を丸くするカルナスを、シルヴァリエは思わず抱き寄せた。

「シルヴァリエ?! な、なんだ。今は、まだ……」
「すみません、なんだか、久しぶりに会えた気がして」
「昼間ずっと一緒だっただろう」
「お顔が見えなかったじゃないですか」

 そう言いながらシルヴァリエがカルナスにキスをすると、カルナスはシルヴァリエの胸を押し返し、距離をとった。

「シルヴァリエ、ここでは……」
「ええ、わかっています。今夜のお約束、もしかしたら守れないかもしれないと思って、それだけ伝えに」
「……別に、そんなことわざわざ断りに来なくても……」
「行っておきますが、別の誰かと約束ができたとかじゃないですよ。ましてルイーズ殿下とは」
「な、何を言ってる! そうだとしても、私は別に」
「少し出かける必要がありまして。もしかしたら夜明けまで戻れないかもしれませんので」
「出かける? シーロム宮の外へか? 森に囲まれているぞ」
「ええ」
「危険だ」
「わかっていますが、やむなく」
「理由を言え」
「僕を心配してくれているんですか?」
「それが……私の仕事だ」
「そうだとしても、嬉しいな」

 シルヴァリエが再びカルナスにキスをすると、今度はカルナスも少しキスを返して来た。

 その直後、理由を話せ、と、きつい瞳で詰め寄ってきたカルナスにシルヴァリエが事情を話すと、カルナスは「私も行こう」と言った。
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