52 / 90
本文
初秋の再会(5)
しおりを挟む
個室のドアが閉まるなりルイーズは、
「シルヴァリエ様、どうしましょう。わたくし大変なものを……」
と、シルヴァリエにすがりつくように訴えてきた。
「ルイーズ殿下、落ち着いて。どういうことですか?」
「兄の絵姿が入ったペンダントを失くしてしまって……」
「リカルド陛下の?」
「そうです」
「……もしかして、リカルド陛下の素顔ということですか?」
ルイーズは頷いた。
ルイーズの兄、ヴォルガネットの戦王リカルドは、その姿形が知られていない。
周辺国に出回ってくる絵姿はすべて鎧を全身にまとったもので、その顔立ちはことさら恐ろしい表情をした面具の奥に隠されている。
リカルドはもともと前王の私生児で、即位するまではその存在自体が国外ではほぼ知られていなかった。その上、急激に国土を拡張しているリカルドには内外に敵が多い。戦地においては第一の標的とされ、平時においても暗殺の危機にさらされている身では、顔を隠せるものなら隠しておきたいと思うのは当然である。逆に言えば、リカルドの素顔というのはそれだけ機密性の高い情報ということだ。
「ネックレスにして首からかけて、肌着の下にずっといれていたのですが……」
「いつ失くされたのですか? 踊っている間に?」
「いえ、おそらくはもっと前……夜会服に着替えるときにはずでにはずした覚えがありませんから……ああっ!」
「どうしました」
「川原です。昼間に連れて行っていただいた。綺麗な花があったのでお兄様に見せてあげようとペンダントを外して中にいれて……イボンヌが急に話しかけてきたので慌てて閉じたのですが、おそらくそのときに落としたものかと……」
「……なるほど」
シルヴァリエは腕組みをして天を仰いだ。
どう考えても選択肢はあまり多くなく、時間もあまりないようだ。
「……わかりました。僕が探してきます。ネックレスの特徴を教えていただけますか」
「……シルヴァリエ?」
団長クラス専用の控え室だという部屋のドアを開けると、広くはあるが石がむき出しになったままの部屋の片隅で、具足以外の鎧を脱いだ状態のカルナスがひとりぼんやりとした表情で窓の外を眺めていた。
シルヴァリエに気づいて目を丸くするカルナスを、シルヴァリエは思わず抱き寄せた。
「シルヴァリエ?! な、なんだ。今は、まだ……」
「すみません、なんだか、久しぶりに会えた気がして」
「昼間ずっと一緒だっただろう」
「お顔が見えなかったじゃないですか」
そう言いながらシルヴァリエがカルナスにキスをすると、カルナスはシルヴァリエの胸を押し返し、距離をとった。
「シルヴァリエ、ここでは……」
「ええ、わかっています。今夜のお約束、もしかしたら守れないかもしれないと思って、それだけ伝えに」
「……別に、そんなことわざわざ断りに来なくても……」
「行っておきますが、別の誰かと約束ができたとかじゃないですよ。ましてルイーズ殿下とは」
「な、何を言ってる! そうだとしても、私は別に」
「少し出かける必要がありまして。もしかしたら夜明けまで戻れないかもしれませんので」
「出かける? シーロム宮の外へか? 森に囲まれているぞ」
「ええ」
「危険だ」
「わかっていますが、やむなく」
「理由を言え」
「僕を心配してくれているんですか?」
「それが……私の仕事だ」
「そうだとしても、嬉しいな」
シルヴァリエが再びカルナスにキスをすると、今度はカルナスも少しキスを返して来た。
その直後、理由を話せ、と、きつい瞳で詰め寄ってきたカルナスにシルヴァリエが事情を話すと、カルナスは「私も行こう」と言った。
「シルヴァリエ様、どうしましょう。わたくし大変なものを……」
と、シルヴァリエにすがりつくように訴えてきた。
「ルイーズ殿下、落ち着いて。どういうことですか?」
「兄の絵姿が入ったペンダントを失くしてしまって……」
「リカルド陛下の?」
「そうです」
「……もしかして、リカルド陛下の素顔ということですか?」
ルイーズは頷いた。
ルイーズの兄、ヴォルガネットの戦王リカルドは、その姿形が知られていない。
周辺国に出回ってくる絵姿はすべて鎧を全身にまとったもので、その顔立ちはことさら恐ろしい表情をした面具の奥に隠されている。
リカルドはもともと前王の私生児で、即位するまではその存在自体が国外ではほぼ知られていなかった。その上、急激に国土を拡張しているリカルドには内外に敵が多い。戦地においては第一の標的とされ、平時においても暗殺の危機にさらされている身では、顔を隠せるものなら隠しておきたいと思うのは当然である。逆に言えば、リカルドの素顔というのはそれだけ機密性の高い情報ということだ。
「ネックレスにして首からかけて、肌着の下にずっといれていたのですが……」
「いつ失くされたのですか? 踊っている間に?」
「いえ、おそらくはもっと前……夜会服に着替えるときにはずでにはずした覚えがありませんから……ああっ!」
「どうしました」
「川原です。昼間に連れて行っていただいた。綺麗な花があったのでお兄様に見せてあげようとペンダントを外して中にいれて……イボンヌが急に話しかけてきたので慌てて閉じたのですが、おそらくそのときに落としたものかと……」
「……なるほど」
シルヴァリエは腕組みをして天を仰いだ。
どう考えても選択肢はあまり多くなく、時間もあまりないようだ。
「……わかりました。僕が探してきます。ネックレスの特徴を教えていただけますか」
「……シルヴァリエ?」
団長クラス専用の控え室だという部屋のドアを開けると、広くはあるが石がむき出しになったままの部屋の片隅で、具足以外の鎧を脱いだ状態のカルナスがひとりぼんやりとした表情で窓の外を眺めていた。
シルヴァリエに気づいて目を丸くするカルナスを、シルヴァリエは思わず抱き寄せた。
「シルヴァリエ?! な、なんだ。今は、まだ……」
「すみません、なんだか、久しぶりに会えた気がして」
「昼間ずっと一緒だっただろう」
「お顔が見えなかったじゃないですか」
そう言いながらシルヴァリエがカルナスにキスをすると、カルナスはシルヴァリエの胸を押し返し、距離をとった。
「シルヴァリエ、ここでは……」
「ええ、わかっています。今夜のお約束、もしかしたら守れないかもしれないと思って、それだけ伝えに」
「……別に、そんなことわざわざ断りに来なくても……」
「行っておきますが、別の誰かと約束ができたとかじゃないですよ。ましてルイーズ殿下とは」
「な、何を言ってる! そうだとしても、私は別に」
「少し出かける必要がありまして。もしかしたら夜明けまで戻れないかもしれませんので」
「出かける? シーロム宮の外へか? 森に囲まれているぞ」
「ええ」
「危険だ」
「わかっていますが、やむなく」
「理由を言え」
「僕を心配してくれているんですか?」
「それが……私の仕事だ」
「そうだとしても、嬉しいな」
シルヴァリエが再びカルナスにキスをすると、今度はカルナスも少しキスを返して来た。
その直後、理由を話せ、と、きつい瞳で詰め寄ってきたカルナスにシルヴァリエが事情を話すと、カルナスは「私も行こう」と言った。
0
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる