鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

文字の大きさ
上 下
36 / 90
本文

湖畔の歓待(5)

しおりを挟む
 晩餐会はシルヴァリエにとって思いがけず居心地の悪いものとなった。

 というのも、イボンヌが張り切って持って来てくれた服というのが、シルヴァリエのものは上級貴族の夜会服に相当するようなフリルとボタンと宝石がこれでもかというほどあしらわれた豪奢なもの。いっぽう、カルナスが渡されたものは、貴族の家で働く下男が身につけるような簡素なものであったからだ。

 自分にもカルナスと同じような簡素な服を持ってくるか、カルナス用にもう少しましな服はないのか、とシルヴァリエはイボンヌに遠回しに尋ねた。しかしイボンヌは「サイズの合う服があいにくそれしかありませんの」と、カルナスとシルヴァリエが着ていた服はこちらで洗うからとさっさと回収していってしまうものだから、渡されたものを身につけざるを得なかった。

 公爵家の嫡男であるシルヴァリエにとってそれは着慣れた衣装であり、質実剛健を旨とするカルナスにとっても平素の服装とさして変わらぬものである。しかし、騎士団においては、団長であるカルナスが最上位の立場、副団長のシルヴァリエはその下だ。その序列にすっかり馴染んでいたというのに、シルヴァリエのほうが主人然とした格好をしているというのは、どうにも収まりが悪い。幸いだったのは、カルナスのほうではまったくそれを気にしていなさそうに見えるところだった。

 しかし問題はそれだけではなかった。晩餐の長卓においてシルヴァリエとカルナスはルイーズを挟んで向かい合わせの席を割り振られたが、シルヴァリエの席はルイーズから見て右側でカルナスが左側と指示された。ラトゥールでは屋敷の主人から見て右側のほうがより上座、と定められている。つまりはラトゥールの基準に従えばシルヴァリエのほうがカルナスよりも上座に座らされたわけで、これまた居心地が悪い。しかし左側を上座であるとする地方もあるので、ルイーズの故国もまたはそのような習慣なのだとすれば、簡易的な晩餐の場でいちいち指摘するのも野暮な話だった。さらには、ともにテーブルを囲んだルイーズの護衛たちが、どうやって魔物を退けたのか、と、しきりにカルナスではなくシルヴァリエに尋ねてくる。シルヴァリエが答えあぐねていると、カルナスが言葉少なに返事をした。魔物笛で引き寄せ、狩猟で捕まえていた兎を与えて気を引いたが逃げきれず、矢をいかけ、倒れたところで槍を口の中に突き刺した。その話に嘘はない。しかしその大半を行ったのはカルナスだ。だがカルナスは、シルヴァリエの弓の腕について言及したのみで、他をやったのは自分である、とは匂わせるほどにも言わないものだから、傍目には、武勲を誇らぬ謙虚な主人と、主人に代わり戦功を誇らしげに語る下男、といった様相を呈してくる。

 メニューの味に文句はないがどうも胃の腑の調子がおかしくなるような晩餐のあと、食後のワインを注ぎながらイボンヌが、月を映すユニレイ湖の姿が美しいのでふたりをテラスに案内してフルートを聞かせてはどうか、とルイーズに提案した。

「ルイーズ様のフルートときたらそりゃあもう、春に鳴く小鳥のような愛らしさで、本業の演奏家にはなれないのが先生から惜しまれるほどの腕前ですのよ。そうそう、聞けば、シルヴァリエ様も竪琴がお得意とか」
「ああ、ええ……」

 シルヴァリエはカルナスのほうをちらりと見た。カルナスはイボンヌのほうを向きながら、ワインの注がれたグラスを口もとに運んでは戻し、運んでは戻し、あまり進まない様子だ。シルヴァリエの竪琴の腕前はといえば、宮廷の演奏会で恥をかかない程度には習得している。つまりは、一般的な感覚から言えば相当な腕前ということではある。

 イボンヌがそれを知っている理由はカルナスが教えた以外に考えられないが、カルナスがそんなことを知っていること自体がシルヴァリエには意外だった。

「せっかくですから、ルイーズ様とシルヴァリエ様で合奏でもされてはいかが。ユニレイ湖には夜に光る鱗を持つ珍しい魚がいるとか。美しい音楽に惹かれて、湖面に姿を見せるかもしれませんわよ、ホホホ」
「イボンヌ、おふたりとも、お疲れでしょうから……」

 ルイーズがイボンヌをたしなめるように言う。

「いえ、鍛えておりますので、あれくらいはどうということもありません」

 ルイーズに、イボンヌではなく、カルナスが答えた。

「ただ、私は演奏どころか音楽などなにひとつわからぬ不調法者です。ここは恥をかかぬようシルヴァリエに任せるといたしましょう」
「あらまぁ、いえいえ、武人であればしかたもないことですわよ、ホホホホホ。それでは、シルヴァリエ様とルイーズ様だけということで」

 イボンヌが両手をこすり合わさんばかりの勢いで言った。シルヴァリエが口を開くより一瞬早く、

「ええ、是非。光栄なことだな、シルヴァリエ」

 と、カルナスが答えた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...