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湖畔の歓待(2)
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イボンヌは歩いて来たというが、寝泊まりしているという屋敷は、ルイーズとイボンヌが魔物に襲われたルルドの森の近くから丘をふたつみっつ越えたところにあった。ユニレイ湖湖畔に建てられた、屋敷というより城といったほうが近いような邸宅の周囲では、松明の明かりがあちこちで揺れている。イボンヌが呼びかけると、カルナスたちのもとにその明かりがわらわらと寄って来た。
「ルイーズ様! イボンヌ様! よくぞご無事で……こちらは?」
一番に駆け寄ってきたのは、腰から剣を下げて鋭い目をした中年の男だった。ルイーズとイボンヌが着ているドレスにどこか似た異国風の旅装束を着ている。後に続くものも服装や持ち物は多少違えど皆一様に目つきは鋭い。おそらくはルイーズに同行している護衛かなにかだろう、とシルヴァリエはさりげなく男たちの装備をチェックする。
「ラトゥール騎士団のカルナス団長とシルヴァリエ副団長です。魔物に襲われているところを、偶然にもこのふたりに助けていただきまして」
カルナスの馬上からイボンヌが答えると、男たちの間から、おおっ、と、歓声のような声があがった。
「それはよかった! ラトゥール騎士団の……」
「ええ。本当に偶然だったのですが、助かりました。夜もふけてきたことですし、おふたりには当屋敷に泊まっていただく予定です」
「それは重畳ですな!」
「すぐに部屋を用意させましょう。カルナス様、それではあたくしはこれにて」
「はい」
カルナスと護衛の男たちの手を借りて、イボンヌが馬から降りる。
「あ、そうそう……」
イボンヌはわざとらしく手を叩くと、イボンヌが満面の笑みでシルヴァリエを振り返った。
「ルイーズ様はお疲れのご様子、シルヴァリエ様、申し訳ありませんが、お嬢さまを、邸内で横になれるところまで連れていってくださいますかしら?」
「それは……かまいませんが」
「ルイーズ様もそれでよろしゅうございますわよね?」
「え、ええ」
ルイーズがか細い声で返事をする。
シルヴァリエはイボンヌに言われるまま邸宅の玄関で馬から降りると、ルイーズを降ろし、抱きかかえたまま屋敷の中に入った。自分の馬とシルヴァリエの馬を玄関先につないだカルナスが後に続いた。
外見を見て城のようだ、という感想を抱いたその屋敷は、中はさらに豪華だった。入ってすぐの大広間の床は流水と魚を意匠化した天然石の床石が式包められていて、中央にはおそらくユニレイ湖を擬人化したものと思われる半裸の巨大な女性像が、その奥の、上へ続く対の曲線階段を従えるように置かれている。左右の壁や柱からアーチ状の天井への繋がりは森のなかのようで、それでいて天井からぶら下がるシャンデリアの輝きは、水底から見上げる太陽を思わせた。
「ささ、シルヴァリエ様、こちらでございます」
「カルナス様はこちらへ」
シルヴァリエがイボンヌに言われるまま正面階段に足をかけると、後ろを歩いていたカルナスに、イボンヌとは別の、家令の男が声をかけたことに気づいた。
シルヴァリエが振り向くと、カルナスと一瞬目があったが、カルナスはすぐに目をそらし、大広間の横の回廊へと歩いて行く。
「シルヴァリエ様? どうかなさいましたか?」
「いえ……」
シリヴァリエは腕のなかのルイーズを見て、再びカルナスのいなくなったほうを振り返り、さらにルイーズを見た。
「――あのっ! わたくし、ここで大丈夫ですっ!」
ルイーズが、シルヴァリエの胸を押しのけるようにして地面に降りると、ドレスのスカートを持ち上げぱたぱたと階段を昇って行く。
「あ、あらっ! ルイーズ様?!」
「なんでしょう、失礼をしてしまったかな。とりあえず、僕もカルナス団長のところへ行ってますね」
あわてるイボンヌを置いて、シルヴァリエは階段を駆け下り、カルナスが消えた回廊へ足早に向かった。
「ルイーズ様! イボンヌ様! よくぞご無事で……こちらは?」
一番に駆け寄ってきたのは、腰から剣を下げて鋭い目をした中年の男だった。ルイーズとイボンヌが着ているドレスにどこか似た異国風の旅装束を着ている。後に続くものも服装や持ち物は多少違えど皆一様に目つきは鋭い。おそらくはルイーズに同行している護衛かなにかだろう、とシルヴァリエはさりげなく男たちの装備をチェックする。
「ラトゥール騎士団のカルナス団長とシルヴァリエ副団長です。魔物に襲われているところを、偶然にもこのふたりに助けていただきまして」
カルナスの馬上からイボンヌが答えると、男たちの間から、おおっ、と、歓声のような声があがった。
「それはよかった! ラトゥール騎士団の……」
「ええ。本当に偶然だったのですが、助かりました。夜もふけてきたことですし、おふたりには当屋敷に泊まっていただく予定です」
「それは重畳ですな!」
「すぐに部屋を用意させましょう。カルナス様、それではあたくしはこれにて」
「はい」
カルナスと護衛の男たちの手を借りて、イボンヌが馬から降りる。
「あ、そうそう……」
イボンヌはわざとらしく手を叩くと、イボンヌが満面の笑みでシルヴァリエを振り返った。
「ルイーズ様はお疲れのご様子、シルヴァリエ様、申し訳ありませんが、お嬢さまを、邸内で横になれるところまで連れていってくださいますかしら?」
「それは……かまいませんが」
「ルイーズ様もそれでよろしゅうございますわよね?」
「え、ええ」
ルイーズがか細い声で返事をする。
シルヴァリエはイボンヌに言われるまま邸宅の玄関で馬から降りると、ルイーズを降ろし、抱きかかえたまま屋敷の中に入った。自分の馬とシルヴァリエの馬を玄関先につないだカルナスが後に続いた。
外見を見て城のようだ、という感想を抱いたその屋敷は、中はさらに豪華だった。入ってすぐの大広間の床は流水と魚を意匠化した天然石の床石が式包められていて、中央にはおそらくユニレイ湖を擬人化したものと思われる半裸の巨大な女性像が、その奥の、上へ続く対の曲線階段を従えるように置かれている。左右の壁や柱からアーチ状の天井への繋がりは森のなかのようで、それでいて天井からぶら下がるシャンデリアの輝きは、水底から見上げる太陽を思わせた。
「ささ、シルヴァリエ様、こちらでございます」
「カルナス様はこちらへ」
シルヴァリエがイボンヌに言われるまま正面階段に足をかけると、後ろを歩いていたカルナスに、イボンヌとは別の、家令の男が声をかけたことに気づいた。
シルヴァリエが振り向くと、カルナスと一瞬目があったが、カルナスはすぐに目をそらし、大広間の横の回廊へと歩いて行く。
「シルヴァリエ様? どうかなさいましたか?」
「いえ……」
シリヴァリエは腕のなかのルイーズを見て、再びカルナスのいなくなったほうを振り返り、さらにルイーズを見た。
「――あのっ! わたくし、ここで大丈夫ですっ!」
ルイーズが、シルヴァリエの胸を押しのけるようにして地面に降りると、ドレスのスカートを持ち上げぱたぱたと階段を昇って行く。
「あ、あらっ! ルイーズ様?!」
「なんでしょう、失礼をしてしまったかな。とりあえず、僕もカルナス団長のところへ行ってますね」
あわてるイボンヌを置いて、シルヴァリエは階段を駆け下り、カルナスが消えた回廊へ足早に向かった。
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