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湖畔の歓待(1)
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「危ないところを本当にありがとうございました! お嬢さまの身になにかあったらと思うと……」
カルナスとシルヴァリエが助けた少女は、ルイーズと名乗った。気絶していた彼女のばあや、イボンヌを、カルナスが喝を入れて起こし自分たちがラトゥールの王立騎士団の団長と副団長であると名乗ると、イボンヌは甲高い声で、ルイーズは遠国の商人の娘で今は社会勉強のためにラトゥールへやって来たものであり、今は、ユニレイ湖湖畔のある屋敷を古くから付き合いのあるラトゥール貴族から好意で貸してもらっており、滞在中見た目よりも勝気な性格のルイーズがこっそり屋敷を抜け出したので追いかけて来たら魔物に遭遇したのだ、と、尋ねもしないのに矢継ぎ早に語った。
「カルナス様、シルヴァリエ様は、お嬢さまの命の恩人でございます! お礼がしとうございますので、ぜひ屋敷までお越しください。ルイーズ様、よろしゅうございますよね?」
「わ、わたくしは……」
イボンヌに話を振られたルイーズは、シルヴァリエの顔をちらりと見上げたあと「もちろん、かまわないけど」と、ぎこちない口調で言った。
そんなルイーズの様子を見ながらイボンヌは口に手をあてニヤニヤしている。
「貴婦人を助けるのは騎士の義務だ。礼などは不要だが、屋敷までは送っていこう。ルイーズ嬢はシルヴァリエの馬に。イボンヌ殿は私の馬に」
「あら! お嬢さまはともかくあたくしは大丈夫ですわよ。ここまでだって歩いてきたんですから」
「貴婦人を歩かせて自分だけ馬上にいるなど、騎士の風上にも置けぬ振る舞いです。乗ってください」
「あらぁ、あたくしまで貴婦人だなんて、そんなぁ」
イボンヌがカルナスを前に巨大な肢体をくねくねさせているのを横目に、シルヴァリエは馬上からルイーズに向かって手を差し伸べた。
「お手をどうぞ、ルイーズ」
「え……あ……」
ルイーズは両手を胸元にあてたまま、差し出された手に戸惑っている。シルヴァリエは馬から降りると、
「失礼」
とひとこと言って、ルイーズを横抱きにかかえた。
「きゃっ!」
悲鳴をあげて首筋にすがりつくルイーズを、シルヴァリエはそのまま押し上げるようにして馬上に乗せる。
「そのまま静かに。おとなしい馬ですから、大丈夫ですよ」
そう言いながらルイーズの後ろに飛び乗ると、ルイーズ越しに手綱を握った。
「あ、ありがとうございます、シルヴァリエ様……あの……重くなかったですか?」
「重い? あなたが? とんでもない。あまりの軽さに、羽でも生えているのかと思いました」
シルヴァリエは熟練の教師が子供向けの教本でも読み上げるかのように、すらすらとそう言ってのける。ルイーズは真っ赤になった頰に両手をあて、それきり何も言わなくなった。
「シルヴァリエ、行くぞ」
ルイーズの二倍は重量のあろうというイボンヌを馬上から片手で抱きかかえあっさり馬の上に引き上げたカルナスが、冷たい声でシルヴァリエに呼びかけた。
カルナスとシルヴァリエが助けた少女は、ルイーズと名乗った。気絶していた彼女のばあや、イボンヌを、カルナスが喝を入れて起こし自分たちがラトゥールの王立騎士団の団長と副団長であると名乗ると、イボンヌは甲高い声で、ルイーズは遠国の商人の娘で今は社会勉強のためにラトゥールへやって来たものであり、今は、ユニレイ湖湖畔のある屋敷を古くから付き合いのあるラトゥール貴族から好意で貸してもらっており、滞在中見た目よりも勝気な性格のルイーズがこっそり屋敷を抜け出したので追いかけて来たら魔物に遭遇したのだ、と、尋ねもしないのに矢継ぎ早に語った。
「カルナス様、シルヴァリエ様は、お嬢さまの命の恩人でございます! お礼がしとうございますので、ぜひ屋敷までお越しください。ルイーズ様、よろしゅうございますよね?」
「わ、わたくしは……」
イボンヌに話を振られたルイーズは、シルヴァリエの顔をちらりと見上げたあと「もちろん、かまわないけど」と、ぎこちない口調で言った。
そんなルイーズの様子を見ながらイボンヌは口に手をあてニヤニヤしている。
「貴婦人を助けるのは騎士の義務だ。礼などは不要だが、屋敷までは送っていこう。ルイーズ嬢はシルヴァリエの馬に。イボンヌ殿は私の馬に」
「あら! お嬢さまはともかくあたくしは大丈夫ですわよ。ここまでだって歩いてきたんですから」
「貴婦人を歩かせて自分だけ馬上にいるなど、騎士の風上にも置けぬ振る舞いです。乗ってください」
「あらぁ、あたくしまで貴婦人だなんて、そんなぁ」
イボンヌがカルナスを前に巨大な肢体をくねくねさせているのを横目に、シルヴァリエは馬上からルイーズに向かって手を差し伸べた。
「お手をどうぞ、ルイーズ」
「え……あ……」
ルイーズは両手を胸元にあてたまま、差し出された手に戸惑っている。シルヴァリエは馬から降りると、
「失礼」
とひとこと言って、ルイーズを横抱きにかかえた。
「きゃっ!」
悲鳴をあげて首筋にすがりつくルイーズを、シルヴァリエはそのまま押し上げるようにして馬上に乗せる。
「そのまま静かに。おとなしい馬ですから、大丈夫ですよ」
そう言いながらルイーズの後ろに飛び乗ると、ルイーズ越しに手綱を握った。
「あ、ありがとうございます、シルヴァリエ様……あの……重くなかったですか?」
「重い? あなたが? とんでもない。あまりの軽さに、羽でも生えているのかと思いました」
シルヴァリエは熟練の教師が子供向けの教本でも読み上げるかのように、すらすらとそう言ってのける。ルイーズは真っ赤になった頰に両手をあて、それきり何も言わなくなった。
「シルヴァリエ、行くぞ」
ルイーズの二倍は重量のあろうというイボンヌを馬上から片手で抱きかかえあっさり馬の上に引き上げたカルナスが、冷たい声でシルヴァリエに呼びかけた。
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