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悲鳴の行方(3)
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「え、ええ……それでは……あ! あの、ばあやも一緒に」
「ばあや?」
暗くて気づかなかったが、少女から少し離れたところに、人間がもうひとりうつ伏せで倒れている。ひとり、とはいったが、横幅だけでいえば二人分はありそうで、巨大なスカートが地面に絨毯のように広がっている。
「彼女も襲われたんですか?」
「はい。私をかばって……」
少女がカンテラのついた棒を握りしめながら震える声で答えた。シルヴァリエは馬から降りると、その「ばあや」に近づき様子を伺う。少女にカンテラで照らしてもらった限りでは目立つ外傷はない。腕をとり脈を測ってみたところ、どうやら正常に動いているようだ。
「気を失っているだけみたいですね、でも……」
シルヴァリエの馬に、シルヴァリエと、少女と、二人分はゆうにありそうな「ばあや」を――しかも気絶している状態で――乗せるのは少なからず不安があった。
「しかたない。ええと――お嬢さん」
「あ、私の名は……」
「あとでお聞きします。馬には乗れますか? あなたのばあやを馬上に乗せますので、ふたりでまずはここから離れ――」
シルヴァリエがそう話している横で、森の中の蹄の音が遠くから急にこちらへ近づいてくる。シルヴァリエが顔をあげると、シルヴァリエたちから少し離れたところに、弓から放たれたばかりの矢のような速度で、馬に乗ったカルナスが森から飛び出してきた。
「カルナス団ちょ……」
ちょうどいいところに、と声をかけようとしたら、カルナスの背後から現れた熊の魔物が、投石機に投げられた岩塊さながらに、馬にのったカルナスのさらに倍も高いところから、カルナスめがけて両手を広げ落下してきた。
「?!!!!!」
カルナスが馬を直前で横に駆けさせ、すんでのところで魔物の直撃を回避する。地面にべちゃりと魔物は何本もある脚を駆使してすぐに上体を起こし、その足で今度はカルナスに向かって突進し、かわされた、とみるや飛び上がり、カルナスの背後に着地する。
カルナスは狩りの時に使っていた小槍を片手に応戦しようとしているようだが、魔物のトリッキーな動きに翻弄され、逃げまわるので精一杯のようだ。
「カルナス団長!」
「シルヴァリエ?! まだいたのか!」
そう叫びながらカルナスがかがめた頭上わずか数センチのところを、カルナスに向かって抱きつくようにジャンプした魔物の腕がかすめていく。
「早く逃げろ!」
「そうは言っても……」
「逃げろ!!!」
カルナスの声が切羽詰まっている。シルヴァリエは自分の馬の鞍に取り付けてあった小弓を手にとって馬にまたがると、馬の腹を蹴りカルナスの方へ駆け寄った。
「シルヴァリエ! 来るなと言って……」
シルヴァリエの行動に気をとられたカルナスの頭上から、魔物が再び両手を広げ落下してくる。シリヴァリエはその魔物の目を狙い、矢を放った。
矢に気づいた魔物が何本もの手を自分の顔のまわりで左右に動かし、飛んでくる矢を払いのける。バランスを失った魔物は、狙いであるカルナスのいたところから少しはずれたところの地面に背中から落ちて、慌てたように手足をばたつかせた。
どうやら立ち上がれなくなったようだ。シルヴァリエがそうと気づいたときには、カルナスはすでに馬を反転させ、小槍を肩の上に構えて仰向けに倒れたままの魔物に向かって猛然と駆け寄っている。
カルナスに向かって威嚇するように叫ぶ魔物の口の中央に、カルナスはすれ違いざま小槍を投げるようにして突き立て、馬が走るにまかせ一度距離をとる。そして再び馬を反転させると、口のなかの痛みに咆哮し暴れ出す魔物の口のなか、今度は喉の奥へと向かって、もう一撃、小槍を突き刺した。
さらに暴れる口のなかにカルナスが三本目の槍を突き刺すと、魔物はようやく絶命した。
「ばあや?」
暗くて気づかなかったが、少女から少し離れたところに、人間がもうひとりうつ伏せで倒れている。ひとり、とはいったが、横幅だけでいえば二人分はありそうで、巨大なスカートが地面に絨毯のように広がっている。
「彼女も襲われたんですか?」
「はい。私をかばって……」
少女がカンテラのついた棒を握りしめながら震える声で答えた。シルヴァリエは馬から降りると、その「ばあや」に近づき様子を伺う。少女にカンテラで照らしてもらった限りでは目立つ外傷はない。腕をとり脈を測ってみたところ、どうやら正常に動いているようだ。
「気を失っているだけみたいですね、でも……」
シルヴァリエの馬に、シルヴァリエと、少女と、二人分はゆうにありそうな「ばあや」を――しかも気絶している状態で――乗せるのは少なからず不安があった。
「しかたない。ええと――お嬢さん」
「あ、私の名は……」
「あとでお聞きします。馬には乗れますか? あなたのばあやを馬上に乗せますので、ふたりでまずはここから離れ――」
シルヴァリエがそう話している横で、森の中の蹄の音が遠くから急にこちらへ近づいてくる。シルヴァリエが顔をあげると、シルヴァリエたちから少し離れたところに、弓から放たれたばかりの矢のような速度で、馬に乗ったカルナスが森から飛び出してきた。
「カルナス団ちょ……」
ちょうどいいところに、と声をかけようとしたら、カルナスの背後から現れた熊の魔物が、投石機に投げられた岩塊さながらに、馬にのったカルナスのさらに倍も高いところから、カルナスめがけて両手を広げ落下してきた。
「?!!!!!」
カルナスが馬を直前で横に駆けさせ、すんでのところで魔物の直撃を回避する。地面にべちゃりと魔物は何本もある脚を駆使してすぐに上体を起こし、その足で今度はカルナスに向かって突進し、かわされた、とみるや飛び上がり、カルナスの背後に着地する。
カルナスは狩りの時に使っていた小槍を片手に応戦しようとしているようだが、魔物のトリッキーな動きに翻弄され、逃げまわるので精一杯のようだ。
「カルナス団長!」
「シルヴァリエ?! まだいたのか!」
そう叫びながらカルナスがかがめた頭上わずか数センチのところを、カルナスに向かって抱きつくようにジャンプした魔物の腕がかすめていく。
「早く逃げろ!」
「そうは言っても……」
「逃げろ!!!」
カルナスの声が切羽詰まっている。シルヴァリエは自分の馬の鞍に取り付けてあった小弓を手にとって馬にまたがると、馬の腹を蹴りカルナスの方へ駆け寄った。
「シルヴァリエ! 来るなと言って……」
シルヴァリエの行動に気をとられたカルナスの頭上から、魔物が再び両手を広げ落下してくる。シリヴァリエはその魔物の目を狙い、矢を放った。
矢に気づいた魔物が何本もの手を自分の顔のまわりで左右に動かし、飛んでくる矢を払いのける。バランスを失った魔物は、狙いであるカルナスのいたところから少しはずれたところの地面に背中から落ちて、慌てたように手足をばたつかせた。
どうやら立ち上がれなくなったようだ。シルヴァリエがそうと気づいたときには、カルナスはすでに馬を反転させ、小槍を肩の上に構えて仰向けに倒れたままの魔物に向かって猛然と駆け寄っている。
カルナスに向かって威嚇するように叫ぶ魔物の口の中央に、カルナスはすれ違いざま小槍を投げるようにして突き立て、馬が走るにまかせ一度距離をとる。そして再び馬を反転させると、口のなかの痛みに咆哮し暴れ出す魔物の口のなか、今度は喉の奥へと向かって、もう一撃、小槍を突き刺した。
さらに暴れる口のなかにカルナスが三本目の槍を突き刺すと、魔物はようやく絶命した。
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