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悲鳴の行方(2)

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 それぞれの馬に騎乗してカルナスとシルヴァリエは一度森を抜けて、その周辺に沿って走り出した。

 5分ほど馬を走らせると、今度はシルヴァリエの耳にもはっきりと女性の悲鳴らしき声が聞こえてきた。

「急ぐぞ」

 カルナスが馬の脇腹を足で軽く蹴り、さらに歩を速める。シルヴァリエも続く。ほどなくして遠くでカンテラの光のようなものがチラチラと光っているのが見えた。その光が時折見えなくなるのは、どうやらその光の主とカルナスたちの間に巨大な生き物が立ちはだかっているからだ、というのはほどなくしてわかった。

「熊……?」
「似ているが、少し違うな。なにより、足が八……いや、十か、それ以上ある。魔物だな。襲われているようだ。女がひとり」
「へえ、よく見えますね」
「魔物は私のほうへ引き寄せる。お前はこのまま直進し、女を拾って、離脱しろ」

 それだけ言うとカルナスはシルヴァリエの返事も聞かず、口に魔物笛を咥えると手綱を引き、森の中に向かって斜め方向に走り出した。

「直進して拾うって……」

 このまま進めば、助けようとしている女性ともどもシルヴァリエもあの魔物の今宵のディナーになるのは間違いない。

 そうは思いつつも思いつつもカルナスに言われた通りまっすぐに進んでいたところ、魔物が突然森のほうを向き、そちらに向かって、のそ、のそと歩き始めた。

 魔物が向かったほうから蹄の音が聞こえる。カルナスが口にしていた魔物笛は、吹いても人間の耳にはなにも聞こえないが、魔物には聞こえる何種類かの音を出すことができる道具で、魔物が嫌う音を出してその場から追い払ったり、あるいは魔物が好む音を出しておびき出す時などに使う。

 体の大きい魔物は、知能も高いことが多い。あの熊のような魔物が自分が騙されたことに気づく前に、と、シルヴァリエは馬の脚を早め、女性のもとへ駆け寄った。

 襲われていたのは、女性と呼ぶには少し若すぎるくらいの少女だった。実際の年齢はわからないが、少なくともそう見える。時間をかけてセットしたと思われる栗毛色の髪は乱れ、仕立ても材質も上等な異国風のドレスはところどころ破れ、先端にカンテラのぶら下がる棒を突き出したままの姿勢で、呆然としている。

「大丈夫ですか?」
「え……っ、あ……っ」

 少女が、シルヴァリエを見て目を見開いてしばらく惚けたように見つめたかと思うと、急に頬を染め、慌てたように俯いた。

 シルヴァリエにしてみたら、見慣れた反応である。

「ラトゥール王立騎士団のシルヴァリエ・アンドリアーノと申します。今日はたまたまこの近くまで来ていたら悲鳴が聞こえたので。魔物がいつ戻ってくるかわかりませんからすぐに逃げましょう。乗っていただけますか」
「で、でも……」

 少女がためらうような仕草で上目遣いにシルヴァリエを見る。夜中に魔物の出る森で突然出会う相手を疑わないほうが不用心ではある。しかし今はそんなことを言っている場合ではない。シルヴァリエは、意識的に、自分が持っているなかでもっとも甘い声色を使って、少女を誘いかけた。

「怪しいものではありませんよ。大丈夫です、さあ」

 シルヴァリエの声に、少女は再び頬を染めた。
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