25 / 90
本文
高原の狩猟(3)
しおりを挟む
「ラトゥール王立騎士団第三小隊、第五小隊、到着致しました」
モーランの呼びかけに応え、野営のテントから出て来たカルナスと第一小隊隊長ノルダ・ロウの姿を見て、シルヴァリエは、おや、と思った。
ふたりとも、モーランや他の騎士たちのように実戦用の鎧姿ではなく、シルヴァリエのようにマントを羽織っただけの軽装に近い姿だったからだ。
どうやらモーランにとってもそれは意外だったようで、呼吸が一瞬乱れ、しかしすぐ元に戻る。
「思っていたより早かったな、モーラン」
「はっ」
「それでは”予定通り”、このあと第一小隊は夕食調達のため狩猟へ出る。これには私と副団長も同行する」
「…………」
いきなり自分のことを言われてシルヴァリエは驚いた。予定通り、と言っているが、もちろんシルヴァリエは何も聞いていない。モーランがいかにもなにか質問したそうにシルヴァリエの横顔へちらちらと視線を送ってくるのがわかる。
しかしシルヴァリエは、平静を装ったまま無言で敬礼をとった。
権謀術数渦巻く宮廷での作法に慣れた身が勝手にそうしたものだが、ちょうどよかった。虚をつかれて無防備な表情をカルナスに見せるのは癪に触る。
「――問題ないようだな。では出発だ」
「カルナス団長、申し訳ありません、第一小隊の準備がまだ整っておりません」
「む……」
自分より三歩下がったところに立つノルダ・ロウに言われ、カルナスは口を引き結んだ。
「そうだったな……出発は15分後とする。全員狩猟の準備を整え、野営の西側に騎馬の状態で集合」
「承知致しました」
「モーラン、ここまで二隊の指揮ご苦労だった。設営は終えてある。本日は夕食まで休息をとれ。人馬ともにな」
「ありがとうございます」
モーランの返事を聞いたカルナスはひとつ頷いて、踵を返した。
「副団長、こちらへ」
狩猟に出る、と言われたもののなんの準備もなくひとり放置され呆然としていたシルヴァリエに、ノルダ・ロウが声をかけた。
促されるままついていくと、
「狩猟用の投槍か弓矢をお貸しします。お得意なものはありますか?」
と尋ねられたので、シルヴァリエは反射的に、弓、と答え、ノルダ・ロウに訊ね返した。
「狩猟のために鎧を脱いでいたのか」
「ええ、そういうことです」
「騎士団は狩猟に出る際にも鎧姿だった気がするんだが、違ったかな」
「いえ、合っています。副団長がおっしゃっているのは王宮の狩猟祭などでのことだと思いますが、その際の我々の主な目的は狩りではなく護衛ですので。こういった、野営などの際に、本気で獲物を捕まえようとするときにはいつも軽装で行います。限られた区域に人の手で育てた獲物を放す王宮の狩りとは違って、野生の獣は鎧の金属音を聞くだけで警戒して近づく前に逃げてしまい、狩猟になりませんから」
「なるほど……」
「ええ、ですから。そんなにお気になさるようなことではありませんよ、副団長」
「…………?」
シルヴァリエなんとなく尋ねただけだったのだが、応対するノルダ・ロウの言葉も雰囲気もなんだか妙で、気にするなと言われたのが逆に気になった。
モーランの呼びかけに応え、野営のテントから出て来たカルナスと第一小隊隊長ノルダ・ロウの姿を見て、シルヴァリエは、おや、と思った。
ふたりとも、モーランや他の騎士たちのように実戦用の鎧姿ではなく、シルヴァリエのようにマントを羽織っただけの軽装に近い姿だったからだ。
どうやらモーランにとってもそれは意外だったようで、呼吸が一瞬乱れ、しかしすぐ元に戻る。
「思っていたより早かったな、モーラン」
「はっ」
「それでは”予定通り”、このあと第一小隊は夕食調達のため狩猟へ出る。これには私と副団長も同行する」
「…………」
いきなり自分のことを言われてシルヴァリエは驚いた。予定通り、と言っているが、もちろんシルヴァリエは何も聞いていない。モーランがいかにもなにか質問したそうにシルヴァリエの横顔へちらちらと視線を送ってくるのがわかる。
しかしシルヴァリエは、平静を装ったまま無言で敬礼をとった。
権謀術数渦巻く宮廷での作法に慣れた身が勝手にそうしたものだが、ちょうどよかった。虚をつかれて無防備な表情をカルナスに見せるのは癪に触る。
「――問題ないようだな。では出発だ」
「カルナス団長、申し訳ありません、第一小隊の準備がまだ整っておりません」
「む……」
自分より三歩下がったところに立つノルダ・ロウに言われ、カルナスは口を引き結んだ。
「そうだったな……出発は15分後とする。全員狩猟の準備を整え、野営の西側に騎馬の状態で集合」
「承知致しました」
「モーラン、ここまで二隊の指揮ご苦労だった。設営は終えてある。本日は夕食まで休息をとれ。人馬ともにな」
「ありがとうございます」
モーランの返事を聞いたカルナスはひとつ頷いて、踵を返した。
「副団長、こちらへ」
狩猟に出る、と言われたもののなんの準備もなくひとり放置され呆然としていたシルヴァリエに、ノルダ・ロウが声をかけた。
促されるままついていくと、
「狩猟用の投槍か弓矢をお貸しします。お得意なものはありますか?」
と尋ねられたので、シルヴァリエは反射的に、弓、と答え、ノルダ・ロウに訊ね返した。
「狩猟のために鎧を脱いでいたのか」
「ええ、そういうことです」
「騎士団は狩猟に出る際にも鎧姿だった気がするんだが、違ったかな」
「いえ、合っています。副団長がおっしゃっているのは王宮の狩猟祭などでのことだと思いますが、その際の我々の主な目的は狩りではなく護衛ですので。こういった、野営などの際に、本気で獲物を捕まえようとするときにはいつも軽装で行います。限られた区域に人の手で育てた獲物を放す王宮の狩りとは違って、野生の獣は鎧の金属音を聞くだけで警戒して近づく前に逃げてしまい、狩猟になりませんから」
「なるほど……」
「ええ、ですから。そんなにお気になさるようなことではありませんよ、副団長」
「…………?」
シルヴァリエなんとなく尋ねただけだったのだが、応対するノルダ・ロウの言葉も雰囲気もなんだか妙で、気にするなと言われたのが逆に気になった。
0
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説




【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる