23 / 90
本文
高原の狩猟(1)
しおりを挟む
ことを終えたカルナスは手早く衣服を整えると、
「世話になった。礼を言う」
と、およそ肌を交わした直後の会話とは思われないよそよそしい言葉とともに、シルヴァリエを自分の部屋から帰した。
体良く追い払われたとしか思われない状況だったが、そこで食い下がるのはシルヴァリエのプライドが許さなかった。もやもやしたものを抱えながらも自室に戻り一人寝のベッドに入ったシルヴァリエを、翌朝早々叩き起こしたのは、第三小隊の隊長、モーラン・ザハスが部屋扉をノックする音だった。
「おはようございます、シルヴァリエ副団長」
「おはようモーラン。いい朝だね」
半開きのドアの隙間からモーランを出迎えたシルヴァリエは、欠伸をこらえながら挨拶を返した。朝といっても空はまだ白み始めたばかりで、シルヴァリエの感覚としてはまだまだ夜の延長タイムというところである。
「本日、シルヴァリエ副団長は我が第三小隊と同道していただくことになりまして、恐悦至極に存じます。なにとぞご指導ご鞭撻のほどを……」
「同道?」
「はい。本日の野外騎馬訓練の。すでに馬にも鞍をつけ、あとはシルヴァリエ様がいらしていただければいつでも出発できる状態です」
「ああ、そんな話をしていたか、そういえば」
昨日、シルヴァリエ用の騎馬を提供するというモーランの申し出を受けたのは、そうすればカルナスがいる厩舎に近づく口実ができると思ってのことだ。首尾よくことに及んだ今となっては、正直あまりやる気が起きない。まして、事後のカルナスの冷淡さも記憶に新しい今は、宮廷の女たちの無責任だが惜しみない愛と、絹と香水に包まれた柔らかい胸が無性に恋しかった。綿のシャツの奥の筋肉質なカルナスの胸などでは断じてなく。
「そうだな……しかし至らない身で申し訳ないが、昨晩から少し体調がすぐれなくてね……副団長としての務めを果たしたいのはやまやまだが、この体調ではむしろ控えたほうが団のためだと――」
今日は昼まで寝て、そのあとは久しぶりに愛人たちに向けて恋文でも書こうか、それとも奇数隊が不在で監視の目が緩んでいる宿舎を抜け出して宮廷に顔を出そうか――シルヴァリエはそんなことを考えながら、呼吸するよりもなお気楽に適当な言い訳を口にしていると、モーランが目を丸くした。
「体調のこと――団長もご存知だったのですか?」
「え?」
「副団長の体調がすぐれないようなら無理に参加する必要はない、と、ことづかっております」
「カルナス団長から?」
「はい。団長はすでに第一、第七、第九隊を率いて出発しております。第三、第五隊は副団長の指示に従うようにとのことでしたが、無理であれば副団長の代わりに私が二隊を率いて後から合流するように、と」
「ふぅん……」
シルヴァリエの脳裏には、昨晩自分の下で声を噛み殺しながら背をのけぞらせ吐精したカルナスの姿が浮かんでいた。
「……もっと苛めてやればよかったかな」
あまり経験がなさそうだったので翌日に無理が出ないよう優しくしてやったつもりだったが――むしろシルヴァリエのほうが心配されているとは、どうやら杞憂だったようだ。
「え?」
「なんでもない。体調がすぐれないのはたしかだが、話をしていたら少しましになってきた気がする。行くよ。準備をするからもう少し待っててもらえるかな」
「は、はい! もちろん、です、とも」
モーランは複雑な表情で返事をする。
そのもーランに詳しく尋ねてみると騎馬訓練というくらいだから参加する騎士たちはみな実戦用の鎧を身につけているが、おかざり副団長であるシルヴァリエが持っているのは儀礼用の鎧だけだ。
さらに、儀礼用とはいえそこそこの重量がある鎧を身につけて初めて乗る馬を操るのはどうにも不安がある。モーラン曰く、稀に同行する文官などと同様でよいのではないか、ということで、シルヴァリエは結局遠出用のマントに騎士団の紋章が刻印された留め具をつけ、腰に短剣を差しただけの略装で、モーランが用意した馬に騎乗した。
「副団長、いかがですか、その馬の乗り心地は」
「悪くない。力強いがおとなしくて従順。いい馬だ」
「気に入っていただけて光栄です」
「では出発しよう。モーラン、先導はお前にまかせる。僕は皆の後ろをついていくとするよ」
「あ、いえ、シルヴァリエ様……シルヴァリエ副団長は皆の前で。私の横にぜひ」
モーランが慌てたように言った。外でひとりにしておくと危ないから用心棒というところか、子供じゃあるまいし、と、シルヴァリエは内心肩をすくめたが、もちろん表面上はにこやかにモーランの申し出を受け入れた。
「世話になった。礼を言う」
と、およそ肌を交わした直後の会話とは思われないよそよそしい言葉とともに、シルヴァリエを自分の部屋から帰した。
体良く追い払われたとしか思われない状況だったが、そこで食い下がるのはシルヴァリエのプライドが許さなかった。もやもやしたものを抱えながらも自室に戻り一人寝のベッドに入ったシルヴァリエを、翌朝早々叩き起こしたのは、第三小隊の隊長、モーラン・ザハスが部屋扉をノックする音だった。
「おはようございます、シルヴァリエ副団長」
「おはようモーラン。いい朝だね」
半開きのドアの隙間からモーランを出迎えたシルヴァリエは、欠伸をこらえながら挨拶を返した。朝といっても空はまだ白み始めたばかりで、シルヴァリエの感覚としてはまだまだ夜の延長タイムというところである。
「本日、シルヴァリエ副団長は我が第三小隊と同道していただくことになりまして、恐悦至極に存じます。なにとぞご指導ご鞭撻のほどを……」
「同道?」
「はい。本日の野外騎馬訓練の。すでに馬にも鞍をつけ、あとはシルヴァリエ様がいらしていただければいつでも出発できる状態です」
「ああ、そんな話をしていたか、そういえば」
昨日、シルヴァリエ用の騎馬を提供するというモーランの申し出を受けたのは、そうすればカルナスがいる厩舎に近づく口実ができると思ってのことだ。首尾よくことに及んだ今となっては、正直あまりやる気が起きない。まして、事後のカルナスの冷淡さも記憶に新しい今は、宮廷の女たちの無責任だが惜しみない愛と、絹と香水に包まれた柔らかい胸が無性に恋しかった。綿のシャツの奥の筋肉質なカルナスの胸などでは断じてなく。
「そうだな……しかし至らない身で申し訳ないが、昨晩から少し体調がすぐれなくてね……副団長としての務めを果たしたいのはやまやまだが、この体調ではむしろ控えたほうが団のためだと――」
今日は昼まで寝て、そのあとは久しぶりに愛人たちに向けて恋文でも書こうか、それとも奇数隊が不在で監視の目が緩んでいる宿舎を抜け出して宮廷に顔を出そうか――シルヴァリエはそんなことを考えながら、呼吸するよりもなお気楽に適当な言い訳を口にしていると、モーランが目を丸くした。
「体調のこと――団長もご存知だったのですか?」
「え?」
「副団長の体調がすぐれないようなら無理に参加する必要はない、と、ことづかっております」
「カルナス団長から?」
「はい。団長はすでに第一、第七、第九隊を率いて出発しております。第三、第五隊は副団長の指示に従うようにとのことでしたが、無理であれば副団長の代わりに私が二隊を率いて後から合流するように、と」
「ふぅん……」
シルヴァリエの脳裏には、昨晩自分の下で声を噛み殺しながら背をのけぞらせ吐精したカルナスの姿が浮かんでいた。
「……もっと苛めてやればよかったかな」
あまり経験がなさそうだったので翌日に無理が出ないよう優しくしてやったつもりだったが――むしろシルヴァリエのほうが心配されているとは、どうやら杞憂だったようだ。
「え?」
「なんでもない。体調がすぐれないのはたしかだが、話をしていたら少しましになってきた気がする。行くよ。準備をするからもう少し待っててもらえるかな」
「は、はい! もちろん、です、とも」
モーランは複雑な表情で返事をする。
そのもーランに詳しく尋ねてみると騎馬訓練というくらいだから参加する騎士たちはみな実戦用の鎧を身につけているが、おかざり副団長であるシルヴァリエが持っているのは儀礼用の鎧だけだ。
さらに、儀礼用とはいえそこそこの重量がある鎧を身につけて初めて乗る馬を操るのはどうにも不安がある。モーラン曰く、稀に同行する文官などと同様でよいのではないか、ということで、シルヴァリエは結局遠出用のマントに騎士団の紋章が刻印された留め具をつけ、腰に短剣を差しただけの略装で、モーランが用意した馬に騎乗した。
「副団長、いかがですか、その馬の乗り心地は」
「悪くない。力強いがおとなしくて従順。いい馬だ」
「気に入っていただけて光栄です」
「では出発しよう。モーラン、先導はお前にまかせる。僕は皆の後ろをついていくとするよ」
「あ、いえ、シルヴァリエ様……シルヴァリエ副団長は皆の前で。私の横にぜひ」
モーランが慌てたように言った。外でひとりにしておくと危ないから用心棒というところか、子供じゃあるまいし、と、シルヴァリエは内心肩をすくめたが、もちろん表面上はにこやかにモーランの申し出を受け入れた。
0
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】
ちゃっぷす
BL
『清らかになるために司祭様に犯されています』の番外編です。
※きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします※
エロのみで構成されているためストーリー性はありません。
ゆっくり更新となります。
【注意点】
こちらは本編のパラレルワールド短編集となる予定です。
本編と矛盾が生じる場合があります。
※この世界では「ヴァルア以外とセックスしない」という約束が存在していません※
※ナストがヴァルア以外の人と儀式をすることがあります※
番外編は本編がベースになっていますが、本編と番外編は繋がっておりません。
※だからナストが別の人と儀式をしても許してあげてください※
※既出の登場キャラのイメージが壊れる可能性があります※
★ナストが作者のおもちゃにされています★
★きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします★
※基本的に全キャラ倫理観が欠如してます※
※頭おかしいキャラが複数います※
※主人公貞操観念皆無※
【ナストと非日常を過ごすキャラ】(随時更新します)
・リング
・医者
・フラスト、触手系魔物、モブおじ2人(うち一人は比較的若め)
・ヴァルア
【以下登場性癖】(随時更新します)
・【ナストとリング】ショタおに、覗き見オナニー
・【ナストとお医者さん】診察と嘯かれ医者に犯されるナスト
・【ナストとフラスト】触手責め、モブおじと3P、恋人の兄とセックス
・【ナストとフラストとヴァルア】浮気、兄弟×主人公(3P)
・【ナストとヴァルア】公開オナニー
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。
丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです!
エロ特化の短編としてお読み下さい…。
大切な事なのでもう一度。
エロ特化です!
****************************************
『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』
性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。
キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。
珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話
楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。
立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。
奴隷騎士のセックス修業
彩月野生
BL
魔族と手を組んだ闇の軍団に敗北した大国の騎士団。
その大国の騎士団長であるシュテオは、仲間の命を守る為、性奴隷になる事を受け入れる。
軍団の主力人物カールマーと、オークの戦士ドアルと共になぶられるシュテオ。
セックスが下手くそだと叱責され、仲間である副団長コンラウスにセックス指南を受けるようになるが、快楽に溺れていく。
主人公
シュテオ 大国の騎士団長、仲間と国を守るため性奴隷となる。
銀髪に青目。
敵勢力
カールマー 傭兵上がりの騎士。漆黒の髪に黒目、黒の鎧の男。
電撃系の攻撃魔術が使える。強欲で狡猾。
ドアル 横柄なオークの戦士。
シュテオの仲間
副団長コンラウス 金髪碧眼の騎士。女との噂が絶えない。
シュテオにセックスの指南をする。
(誤字脱字報告不要。時間が取れる際に定期的に見直してます。ご報告頂いても基本的に返答致しませんのでご理解ご了承下さいます様お願い致します。申し訳ありません)
騎士達は不思議なドームでメスイキを強制させられる
haaaaaaaaa
BL
アーロンたちは戦の途中で気を失い。気づけば不思議なドームに捕らえられていた。敵国のホロス王国の捕虜になったと思っていたが、ある日ホロス王国の男と知り合う。カリムと名乗った男は、逆に我国の捕虜になったと思っていたようだ。この場所は一体何なのか。豪華な食事に自由な時間。そして、おかしな調教はいったい何の意味があるのか。アーロンは戸惑いながらも故郷に帰ることを夢見る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる