鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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逢瀬の約束(3)

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 シルヴァリエは苦笑した。

「10年以上前の話だ。最近は弓もまともに握ってない」
「またまたご謙遜を。アンドリアーノ公といえば名馬の収集で知られたお方。シルヴァリエ様もさぞや東西の名馬を乗りこなしていらしたのでしょう」
「父はそうさせたいみたいだけど。あいにく僕は、どうせ乗るなら東西の名馬よりも東西の美女のほうに興味があってね」
「ははは! さすがはシルヴァリエ様」

 シルヴァリエの軽口を受けたモーランはことさら大げさに笑った。シルヴァリエも合わせて少し笑う。

「しかし、とはいえご謙遜が過ぎますとも。先日の騎馬による障害物訓練では、そんなブランクなど感じさせない見事な操馬でしたとも」
「あれは馬がよかっただけだ。確か第二小隊隊長のグランビーズの馬を借りたんだったか」
「いえいえ、シルヴァリエ様の実力ですとも。ああ、そういえばご相談なのですが……シルヴァリエ様の持ち馬に乗るという予定でなければ、よろしければ私の隊の馬を引き取っていただけないでしょうか?」
「隊の?」
「なかなかの名馬ゆえ高値で購入したはいいのですが、名馬だけにどうやら人を選ぶようで……しかしシルヴァリエ様ならきっと」
「あぁー……なるほど」

 シルヴァリエは少し皮肉っぽく笑った。その馬というのは、さぞや躾の行き届いた良馬なのだろう。そこそこ優秀で、見目もよく、手入れも完璧で、そしておとなしくて誰にでも従順な性格。そんな動物を「誰にも懐かなかったのに」と言いながら目上の相手に献上するのは、宮廷ではよくある手口だ。聞いたこともないような珍しさや目を見張るほどの美しさがなくとも特別感を出せる。

 古典的な演出だな、と思いながらも、シルヴァリエの目は厩舎のほうへ吸い寄せられた。

「……その馬は、厩舎に?」
「ええ、ちょうど本日届きまして」
「じゃあ、見せてもらおうかな」
「えっ、今からですか?」
「ああ。ダメな理由でも?」
「え、いえいえ! とんでもない、ではご案内致しますね!」

 普段、シルヴァリエは、モーランのこういった露骨な擦り寄りをのらりくらりとかわしている。騎士団の裏事情まで耳に入れてくれるモーランは便利な相手だが、そうと知らせて明確な借りを作るのは避けるべきだ。相手が自分のために行う言動は、あくまでも相手が勝手にやっていること。自分としてはそれを、受け取るでもなく、受け取らないでもなく――それが、シルヴァリエが学んできた大公爵家の跡取りとしての処世術だった。

 今回ももう少し、モーランがどうしても受け取ってくれというまで態度を曖昧にしておくべきだったかもしれない。しかし、この話を受ければ厩舎に行く口実ができる、という誘惑がシルヴァリエを焦らせた。厩舎に消えたカルナスとノルダ・ロウは、モーランの言う野外騎馬訓練についてのなにかの準備をしているのかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。いくらそう思おうとしても、シルヴァリエの脳裏には、ノルダ・ロウとカルナスについての、不埒な妄想がどうしてもちらついてしまう。

 いっそ、ふたりの情事の真っ最中にでも踏み込めんだほうがスッキリするかもしれない。

 それで恥じるカルナスに思い切り嫌味でも言ってやればいい。

 そんな思いを抱きながら、シルヴァリエはモーランの後について厩舎のほうへ歩いて行った。馬鹿らしいとは思いながらも、少しけだるそうな様子を装って。その実、今すぐ駆け出して中を探し回り、ノルダ・ロウとカルナスがどうしているのか確かめたくてしかたがなかったというのに。

 歩きながらモーランがあれこれ話しかけてくるのを上の空で返しながら、シルヴァリエの視線は、厩舎の窓や出入口のあたりを何度もさまよった。もちろん、何度さまよっても、目に映るのは夕日の作る影と格子窓の向こうで揺れる馬影ばかり。シルヴァリエの目が出入り口のあたりを十数回彷徨った矢先、その出入口から人影がひょいと姿を現した。

 シルヴァリエたちが歩くところより歩数にしてわずか十歩先というところである。カルナスか、と一瞬シルヴァリエの背中に緊張が走ったが、そこにいたのは第一小隊隊長のノルダ・ロウひとりだった。
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