鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

文字の大きさ
上 下
13 / 90
本文

逢瀬の約束(2)

しおりを挟む
 そんなシルヴァリエの内面も知らず、モーラスはさらに質問を重ねてきた。

「そういえば延期になっていた奇数隊分の野外騎馬訓練、明日ということに決まりましたね。シルヴァリエさまもご参加を?」
「……野外騎馬訓練?」

 シルヴァリエはその存在自体知らなかった。わずかな屈辱を感じるいっぽうで、今日カルナスが第一小隊の隊長と訓練そっちのけで話し込み、訓練後はふたり連れ立って厩舎のほうへ消えて行った理由は、なるほどそれか、と、さきほどからシルヴァリエの心をざわめかせていたものが静まるのを感じていた。

 シルヴァリエは名目上この騎士団の副団長という立場だが、本当に名目だけで、騎士団のことはほとんどなにもわかっていない。そもそも”副団長”という役職自体が通常は存在しない臨時用の名誉職だと聞いている。シルヴァリエのように、騎士団でそれなりの立場を与えてくれとゴリ押しされた誰かを受け入れるときのための。実質的な副団長にあたるのは、伝統的に第一小隊・第二小隊の隊長だそうだ。

 第一小隊の隊長がノルダ・ロウ・レインズバーグ、第二小隊の隊長はグランビーズ・アウレラ。模擬槍や模擬刀、あるいは素手での乱取り稽古において、カルナスは申し込まれれば誰の相手も拒まないが、カルナスのほうから申し込むのはこの二人だけ。そして実際のところまともに相手を勤められるのもこの二人だけだった。

 ノルダ・ロウは一見無表情で無愛想だが意外に親切なところがあり、グランビーズは愛想が良い代わり少し無責任なきらいがある。だがどちらも隊長としての、さらには実質的な副団長としての実力人格、そして人望すべてが十分。ふたりはシルヴァリエに対してもカルナスのように露骨に無視はせず、シルヴァリエが訓練場に姿を見せればいの一番に飛んで来て世話をやいてくれる。もちろん、シルヴァリエに対するその親切さは騎士団の正団員たちに対するものとはまるで異なる、いわば”お客様”としての扱いではあるが、このふたりの指導がなければ、シルヴァリエの槍の腕前は悲惨なままだっただろう。

 カルナスが団長に就任する前は第一小隊の隊長を勤めていたそうで、ノルダ・ロウはその頃は副隊長だったらしい。つまりはカルナスが騎士団長に就任する前からのつきあいで――カルナスは、グランビーズよりもノルダ・ロウと話しているときのほうが、心なしかリラックスしているように、シルヴァリエには見えていた。

 そんなふたりがひそひそと話し込み、さらには連れ立って厩舎へと――人気のないほうへと消えて行ったものだから、シルヴァリエの心はずっと穏やかではなかった。

 その野外騎馬訓練についてずっと話し込んでいたのだろう、と、自分を納得させるだけの理由ができた今になっても、いや、でも、もしかしたら、それにかこつけて、と、二人の仲を疑う自分の声が耳元で囁いているようだ。

 だから、思春期でもあるまいし、と、シルヴァリエはふたたび大きく頭を振った。

「ったくもう……」
「……ですから、ぜひとも…………え?」

 急なシルヴァリエのひとりごとに、モーランが驚いた。シルヴァリエは軽く手を振って否定する。

「なんでもない。で、なんだっけ?」

 シルヴァリエが自分の話をこれっぽっちも聞いていなかったことを察したモーランは、少し鼻白んだ表情になった。しかしそんな自分を見つめるシルヴァリエの視線に気づくと、とりつくろうように笑って、改めて話しはじめた。

「シルヴァリエ様は以前狩猟祭で王からお褒めに預かったほどの腕前とお聞きしておりまして」
「ああ」

 シルヴァリエは苦笑した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...