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遭遇の経緯(1)
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「大アンドリアーノのご子息殿」
初めて出会ったとき、カルナスはシルヴァリエをそう呼んだ。
お前が副団長という肩書きを得たのはお前の実力ではなく、アンドリアーノ公爵家の力によるもの、ただそれだけだ、と。
その言葉に込められたカルナスの怒りと嫌悪感が、シルヴァリエにははっきりと感じられた。
それに対しシルヴァリエは、いつも通りにこりと微笑んで手を差し出した。
「以前より噂は聞いているよ、カルナス。君とは仲良くしたいな。どうか僕のことはシルヴァリエと」
自分に対し好意を持っている相手に敵意を抱き続けることは難しい。ましてシルヴァリエのような美しい見た目を持つ相手であればなおさら。
シルヴァリエは物心つく前からの宮廷生活でそれをよく知っていたし、なんとも思っていない相手にあたかも好意を抱いているかのように錯覚させるようふるまうことは得意中の得意だった。
いかに堅物騎士団長とはいえ、カルナスとてその例外ではないだろう、とシルヴァリエは考えていた。次に予測していのは、カルナスが戸惑ったような照れたような表情で、握手を返してくることだった。
しかし、実際にシルヴァリエに返されたのは、彼の脛への、訓練用に刃を落とした模擬剣によるしたたかな一撃だった。
「い……っ?!」
シルヴァリエは打たれた足を抱えるようにしてその場にしゃがみこんだ。
これまでに味わったことのないような痛みだった。
貴族の子弟として一通りの教養を身につけるため、剣術など一通りの教育は受けてきている。剣の教師もいたし、打ち合いの練習もやってきた。
しかし思えば、その教師からも誰からも、シルヴァリエは実際に打たれたことなど一度もなかった。
「二度は言わない、一度で覚えろ。階位が上の者が下の相手に話す時には自由。しかし逆の場合は、呼びかける際には必ず役職名をつけること。そして敬語で話すこと。それが我らラトゥール王立騎士団のルールだ」
うずくまるシルヴァリエを睥睨しながらカルナスはそこまでを一息で言い、少し間を置いてからダメ押しのように付け足した。
「理解したか、副団長」
「……はい、カルナス”団長”」
「よろしい。アンドリアーノ公と約束した任期は一年。その間は問題を起こすな。貴様が宮廷で発揮していた”武勇伝”は控えろということだ。なお、騎士団所属の騎士の義務である毎日の訓練および討伐隊への参加についてはその一切を免除する。皆の足手まといになるからな……以上」
カルナスはシルヴァリエの返事を待たずに踵を返し、回廊の中央を体軸を一切揺らすことなく歩き去った。
「――――――ッ!」
後ろ姿を見ながら、シルヴァリエは思わず床を拳で叩いた。
大貴族の嫡子として生まれながらに成功が約束されているシルヴァリエにとって、カルナスから与えられたのは、人生で初めての痛みであり、初めての屈辱だった。
翌日、カルナスが訓練場へ行くと、訓練用にしては派手な衣服を身につけたシルヴァリエの姿があった。
無表情を装ったカルナスの眉がほんのわずかだがぴくりと反応したのを確認し、シルヴァリエはにこりと微笑む。
「僕も騎士団の一員として、もちろん訓練には参加させていただきます。問題ないですよね、カルナス団長」
言われたカルナスは、シルヴァリエの横をすり抜けながら「後悔するなよ」と小声で言った。
初めて出会ったとき、カルナスはシルヴァリエをそう呼んだ。
お前が副団長という肩書きを得たのはお前の実力ではなく、アンドリアーノ公爵家の力によるもの、ただそれだけだ、と。
その言葉に込められたカルナスの怒りと嫌悪感が、シルヴァリエにははっきりと感じられた。
それに対しシルヴァリエは、いつも通りにこりと微笑んで手を差し出した。
「以前より噂は聞いているよ、カルナス。君とは仲良くしたいな。どうか僕のことはシルヴァリエと」
自分に対し好意を持っている相手に敵意を抱き続けることは難しい。ましてシルヴァリエのような美しい見た目を持つ相手であればなおさら。
シルヴァリエは物心つく前からの宮廷生活でそれをよく知っていたし、なんとも思っていない相手にあたかも好意を抱いているかのように錯覚させるようふるまうことは得意中の得意だった。
いかに堅物騎士団長とはいえ、カルナスとてその例外ではないだろう、とシルヴァリエは考えていた。次に予測していのは、カルナスが戸惑ったような照れたような表情で、握手を返してくることだった。
しかし、実際にシルヴァリエに返されたのは、彼の脛への、訓練用に刃を落とした模擬剣によるしたたかな一撃だった。
「い……っ?!」
シルヴァリエは打たれた足を抱えるようにしてその場にしゃがみこんだ。
これまでに味わったことのないような痛みだった。
貴族の子弟として一通りの教養を身につけるため、剣術など一通りの教育は受けてきている。剣の教師もいたし、打ち合いの練習もやってきた。
しかし思えば、その教師からも誰からも、シルヴァリエは実際に打たれたことなど一度もなかった。
「二度は言わない、一度で覚えろ。階位が上の者が下の相手に話す時には自由。しかし逆の場合は、呼びかける際には必ず役職名をつけること。そして敬語で話すこと。それが我らラトゥール王立騎士団のルールだ」
うずくまるシルヴァリエを睥睨しながらカルナスはそこまでを一息で言い、少し間を置いてからダメ押しのように付け足した。
「理解したか、副団長」
「……はい、カルナス”団長”」
「よろしい。アンドリアーノ公と約束した任期は一年。その間は問題を起こすな。貴様が宮廷で発揮していた”武勇伝”は控えろということだ。なお、騎士団所属の騎士の義務である毎日の訓練および討伐隊への参加についてはその一切を免除する。皆の足手まといになるからな……以上」
カルナスはシルヴァリエの返事を待たずに踵を返し、回廊の中央を体軸を一切揺らすことなく歩き去った。
「――――――ッ!」
後ろ姿を見ながら、シルヴァリエは思わず床を拳で叩いた。
大貴族の嫡子として生まれながらに成功が約束されているシルヴァリエにとって、カルナスから与えられたのは、人生で初めての痛みであり、初めての屈辱だった。
翌日、カルナスが訓練場へ行くと、訓練用にしては派手な衣服を身につけたシルヴァリエの姿があった。
無表情を装ったカルナスの眉がほんのわずかだがぴくりと反応したのを確認し、シルヴァリエはにこりと微笑む。
「僕も騎士団の一員として、もちろん訓練には参加させていただきます。問題ないですよね、カルナス団長」
言われたカルナスは、シルヴァリエの横をすり抜けながら「後悔するなよ」と小声で言った。
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