鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

文字の大きさ
1 / 90
本文

夜毎の訪問(1)

しおりを挟む
 ラトゥール王国の名門貴族、アンドリアーノ公爵家の嫡子であるシルヴァリエ・アンドリアーノは、蝋燭を片手に夜の回廊を進んでいた。

 端正な横顔を時折ひきつらせるのは、昼間の過酷な訓練で痛めた左肘が原因だ。

 目指す先は、王立騎士団の騎士団長、カルナス・レオンダルの部屋。

 今のシルヴァリエは、その王立騎士団の副団長という身分である。

 とはいっても、シルヴァリエは馬上槍はおろか短剣すらもまともに扱えない。手玉にとるのが得意なのは宮廷社交界にデビューしたばかりのウブな貴族の娘たちの恋心くらいのものだ。

 そんなシルヴァリエが名目だけとは副団長の肩書きを得ているのは、ひとえに父である現アンドリアーノ公が金と政治力でゴリ押しした結果である。

 そんなシルヴァリエから見てカルナスは一歳ほど年下にあたるが、ふたりの経歴は真逆といってもよい。

 大公爵家の嫡子としてなに不自由なく育てられ、長じてからは名だたる宮廷の美女たちに手を引かれるがまま酒と薔薇の日々に溺れていたシルヴァリエ。

 享楽の申し子の二つ名を持つ、と聞けば生まれに甘えたできそこないの放蕩息子と思われそうだが、その中身はどうあれ、上背のあるすらりとした体型に透けるようなプラチナブロンドとエメラルドのような瞳は物語から抜け出してきた白馬の王子さながらで、王や王妃の覚えもめでたい。白磁のような顔立ちにいつも柔和な表情を浮かべているが、そんなシルヴァリエをよく思わない貴族に絡まれれば時にぴしゃりと言い返し、時にのらりくらりとかわし、いつの間にか自分の味方につけている。

 相手の油断を誘い、結局は誰をも自分の味方にしてそこから利を得る、という如才のなさは、すでに父である現アンドリアーノ公を超えているとすら言われていた。

 いっぽうカルナスはといえば、日に焼けて少し赤茶けた黒髪と浅黒い肌に、深い紺色の瞳。いつも厳しい、怒ったような表情で、相手のことを真正面から睨みつけるように見つめる。彼と向かい合って目をそらさずにいられるものはほとんどいない。

 その性格は見た目以上に頑なで、逆に言えば虚偽不正を嫌う清廉潔白な性格。周囲にも厳しいが誰よりも己に厳しく、騎士団長となってからも、誰に命令されることもなく部下に課す数倍の訓練量をひとり黙々とこなしていた。

 鬼の騎士団長、と呼ばれ一見大柄に見えるが、それは一部の隙もなく鍛え上げられた全身から発せられる迫力によるもので、初めて間近で向かい合ったカルナスが意外に小柄であることにはシルヴァリエも驚いたほどだった。

 弱小貴族の末子として生まれ、少年のころから騎士団に身を置き、大人も音をあげるほどの厳しい訓練の日々を送っていたがためか、若くしてその実力は十分。今どきの騎士にしては珍しいほどの生真面目で高潔すぎる性格ゆえか友人と言えるほど親しい相手もいないようだが、そんなカルナスの不器用さの唯一の理解者が、カルナスと同年代の息子を幼いころに亡くしていた前の騎士団長だった。

 その前騎士団長が半年ほど前に国境の蛮族たちとの戦いで落命した際に、その遺志を継いでラトゥール王国歴代最年少の騎士団長となると、カルナスは騎士団内に慣例的にはびこっていた不正をすべて一掃した。そんなカルナスには恨みを持つ者も多く、一方で彼を慕う者たちからも畏敬の念ゆえに少し距離を置かれているところもあるが、本人はそんな状況をむしろ好都合と思っているようだ。

 そんなふたりが上司部下の関係となれば、もちろん相性などよいわけがない。

 しかも、生真面目で妥協を許さず――わずかとはいえ年若いカルナスのほうが、上司なのである。

 シルヴァリエにとっては、考えうる限り最悪といってよい関係だった。

 もっとも、上司とはいっても、騎士団のなかだけの話だ。一歩外に出れば、大アンドリアーノ公爵家の息子シルヴァリエと、騎士団長を勤めているとはいえ貴族としての身分はせいぜいが中の下といったレオンダル家の、しかも嫡子ですらないカルナスの立場は逆転する。

 しかし、シルヴァリエがカルナスの部屋の扉に慣れた様子で手をかけたのは、それが理由ではなかった。

「カルナス団長。副団長シルヴァリエ・アンドリアーノ、参りました」

 まったく、シルヴァリエが敬語を使う年下の相手など、カルナスくらいのものである。

 もちろん、はじめからそうではなく、カルナスからの手厳しい洗礼に遭ってそうしたものだ。

 しかし、シルヴァリエのせっかくのかしこまった挨拶に、カルナスからの返事はなかった。

「団長、カルナス団長……お返事を待たず、失礼致します」

 シルヴァリエがそう言って開いたカルナスの部屋扉の向こうには、濃密な闇が広がっている。

 一歩中に入り後ろ手に扉を閉めたシルヴァリエが闇に向かって蝋燭をかざすと、部屋の中央に置かれたベッドの天蓋から落ちる薄いカーテンの奥で、なにかがうごめいているのが見えた。

 シルヴァリエは、ベッドのほうへ進みカーテンに手をかけた。

 中からはくちゅくちゅとした規則的な水音が聞こえている。

「……少し遅すぎたか」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

処理中です...