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遊郭
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宗太郎が正気に戻ってからの初めての発情期は、多少の波はありながらも一週間続き、その間は篤がずっと相手を務めた。
発情が収まってから岡田の元を訪ねて検査を受けてみれば、通常より長い発情期間につながったのは、Ω膣を使わずそれでいて肉茎への性的刺激はありすぎて、発情期の周期を狂わせたことが原因ではないかという話であった。
それを聞いた篤は、そんなに性欲を持て余しているのなら相手を用意してあげましょう、と、宗太郎がかつて馴染みにしていた遊郭に、宗太郎の部屋を用意させた。
宗太郎を客として遊ばせるためではない。
宗太郎に、客を取らせるためである。
その遊郭というのが、宗太郎に手玉にとられ自死をはかった花魁を抱えていた、あの遊郭であった。篤は、宗太郎が実はΩであり、αと称してずっと放蕩をしていたので、Ω修行のために客を取らせたい、売り上げはすべてそちらに渡す、という語りで協力を仰いぐ。宗太郎に対する復讐とそろばん勘定の両方を共に満たせる機会がくるとは、遣り手婆にとってはふって湧いた幸いであったろう。もちろん、篤の申し出は、諸手をあげて受け入れられた。
もっとも、宗太郎が誰かのつがいになったり、まして誰かの子を孕むような事態に対しては、誰より篤が警戒している。首にはより複雑な鍵を使った金属製の貞操帯をつけ、下半身には下半身用の貞操帯をつけさせた。陰茎の勃起を抑える器具と、Ω膣に挿入する突起がついた貞操帯である。突起は、太さはあるものの長さは例えるなら篤のそれの半分ほどで、あちこちに丸いイボがついていた。
そんなものをつけてΩ膣も陰茎も封じられた状態でいったいどうやって接客するのかといえば、尻の穴である。
Ω膣を直接刺激するほどの効果はないが、内部からの性的刺激という意味では尻の穴の使用でもそこそこの効果は見込める、というのは、岡田の弁だ。篤と、それに遊郭の遣り手婆や他の遊女たちの手により、客をとるまで半月ほど、宗太郎は尻の穴でもαの肉茎を受け入れられるように慣らされた。
その間、宗太郎はたびたび逆らい、隙をみては遊郭から逃げ出そうとした。そのたびに、遊女を折檻するために使われるΩ膣がむず痒くなる薬を、貞操帯のイボに塗られ半日は苦しむことになったが、それでも懲りないのが宗太郎である。
このまま客を取らせては危険だろうと、宗太郎が客を相手にする際には、両手両足をしばり、見た目から正体がばれないよう顔の上部には狐の面を、声から正体がばれないよう口には猿轡をはめた状態で、さらには遣り手婆の監視をつけた。
そんなに制限があってはよほどの物好きでもなければ近寄りがたそうなものであるが、しかし世には好事家というものがなかなか多いようで、そんな宗太郎に客のつかない日はほとんどなかった。体格のいい男Ωを責め倒せるという趣向は他の店にはなかったからであろうか。さらに、人の口に戸は建てられぬという。内密にしていたはずではあるが、いつしか、あの謎の男Ωは宗太郎である、という噂は、ほぼ事実として遊郭に広がっていった。
そうなると、好事家以外にも宗太郎に思うところのあったαやβ、あるいはΩまでが、これは願っても無い復讐の機会と高い金を払ってやってくる。宗太郎を傷つけることこそ厳しく制限されているものの、拘束された体を刷毛で責め、筆でいじり、尻穴を犯し、あるいは貞操帯に仕込まれたバイブを使って、時には焦らし、時には達した後も休みなく責め立て続けて、陰茎と膣から同時に潮を吹かせる。宗太郎が猿轡の奥からくぐもった悲鳴をあげ、身をよじって抵抗する姿は、かつての宗太郎の享楽と傲慢ぶりを知るものにとって、肉体的なそれ以上に、精神的な面で暗い悦びを与えるものであったようだ。
中でも、宗太郎のかつての放蕩仲間が三人揃ってやってきたときの行為は殊の外ひどいものであった。ひとりが上の口に加えさせ、ふたりが同時に尻の穴にいれようとするに及んで、さすがの遣り手婆も止めたという。
さて、発情期が来たときにはもちろん遊郭で客をとることは免じられるが、その期間中のほうがあるいは宗太郎にとってはつらい期間かもしれなかった。篤が用意したあの家に移送され、上下の貞操帯を外され、Ω膣に一日中篤のものを入れて、出される。そして篤の気まぐれのままに、首を噛まれた。
「跡、少し残るようになってきましたね」
遊郭で客をとらされるようになってから何度目かの発情期の終わり頃。宗太郎を抱えて一緒に風呂に入れていた篤が、宗太郎の首の後ろを指先で撫でながらそう言い、再びそこに歯を立てた。
「やめろ……!」
「あの店に宗太郎さんの面倒を見てもらうのも、そろそろ潮時かな。引き止められないといいのですが。なかなかの売れっ子Ωだそうじゃないですか、宗太郎さん」
宗太郎は湯おけのなかで篤から距離を取りつつも、俯き加減で首を横に振った。
「それとも続けたいですか? 貞操帯の端から漏れた愛液を客になめとってもらうのが最近のお気に入り、と、遣り手婆からは聞いてますよ」
「気に入ってなど……」
「後ろにも器具を咥え込みながらそれをされると、足の指をひっくり返して本気イキするとか」
「しない……」
「本当かな。試してみましょうか」
篤に促されるまま、宗太郎は湯おけのなかで立ち上がった。しゃがんだままの篤の顔が自分の下半身に潜り、体表よりも少し熱いものでそこを舐められる感触がして、尻穴に指が当たる。
「ほら、もう感じてる」
「違……」
「後ろをいじっているだけなのに前までビンビンに勃たせてしまうなんて。あなたという人は本当にいやらしい」
「あ、あ、うぁ……篤、もう、やめて……」
「やめてほしいなら、僕のが欲しいと言いなさい」
「欲しい……」
「足りないですよ。もっと甘い声で言うんです。もっと僕に媚びなさい。僕が欲しいとねだるんです」
「篤……篤、もう……や……あ、あぁっ、あ……」
「旦那さま、あの」
風呂場の外から、篤を呼ぶ声がした。篤は、宗太郎のそこに口を当てたまま、なんだ、と返事をした。
「本宅のほうから、使いがまいりまして」
「本宅から?」
「龍之介様がご危篤とのことです」
「……なるほど、すぐに向かうと伝えてくれ。宗太郎さんもいらっしゃい」
先に出た篤に支えられながら、宗太郎も湯おけから出た。
久しぶりに聞く父の名は、遠い他人のようだった。
発情が収まってから岡田の元を訪ねて検査を受けてみれば、通常より長い発情期間につながったのは、Ω膣を使わずそれでいて肉茎への性的刺激はありすぎて、発情期の周期を狂わせたことが原因ではないかという話であった。
それを聞いた篤は、そんなに性欲を持て余しているのなら相手を用意してあげましょう、と、宗太郎がかつて馴染みにしていた遊郭に、宗太郎の部屋を用意させた。
宗太郎を客として遊ばせるためではない。
宗太郎に、客を取らせるためである。
その遊郭というのが、宗太郎に手玉にとられ自死をはかった花魁を抱えていた、あの遊郭であった。篤は、宗太郎が実はΩであり、αと称してずっと放蕩をしていたので、Ω修行のために客を取らせたい、売り上げはすべてそちらに渡す、という語りで協力を仰いぐ。宗太郎に対する復讐とそろばん勘定の両方を共に満たせる機会がくるとは、遣り手婆にとってはふって湧いた幸いであったろう。もちろん、篤の申し出は、諸手をあげて受け入れられた。
もっとも、宗太郎が誰かのつがいになったり、まして誰かの子を孕むような事態に対しては、誰より篤が警戒している。首にはより複雑な鍵を使った金属製の貞操帯をつけ、下半身には下半身用の貞操帯をつけさせた。陰茎の勃起を抑える器具と、Ω膣に挿入する突起がついた貞操帯である。突起は、太さはあるものの長さは例えるなら篤のそれの半分ほどで、あちこちに丸いイボがついていた。
そんなものをつけてΩ膣も陰茎も封じられた状態でいったいどうやって接客するのかといえば、尻の穴である。
Ω膣を直接刺激するほどの効果はないが、内部からの性的刺激という意味では尻の穴の使用でもそこそこの効果は見込める、というのは、岡田の弁だ。篤と、それに遊郭の遣り手婆や他の遊女たちの手により、客をとるまで半月ほど、宗太郎は尻の穴でもαの肉茎を受け入れられるように慣らされた。
その間、宗太郎はたびたび逆らい、隙をみては遊郭から逃げ出そうとした。そのたびに、遊女を折檻するために使われるΩ膣がむず痒くなる薬を、貞操帯のイボに塗られ半日は苦しむことになったが、それでも懲りないのが宗太郎である。
このまま客を取らせては危険だろうと、宗太郎が客を相手にする際には、両手両足をしばり、見た目から正体がばれないよう顔の上部には狐の面を、声から正体がばれないよう口には猿轡をはめた状態で、さらには遣り手婆の監視をつけた。
そんなに制限があってはよほどの物好きでもなければ近寄りがたそうなものであるが、しかし世には好事家というものがなかなか多いようで、そんな宗太郎に客のつかない日はほとんどなかった。体格のいい男Ωを責め倒せるという趣向は他の店にはなかったからであろうか。さらに、人の口に戸は建てられぬという。内密にしていたはずではあるが、いつしか、あの謎の男Ωは宗太郎である、という噂は、ほぼ事実として遊郭に広がっていった。
そうなると、好事家以外にも宗太郎に思うところのあったαやβ、あるいはΩまでが、これは願っても無い復讐の機会と高い金を払ってやってくる。宗太郎を傷つけることこそ厳しく制限されているものの、拘束された体を刷毛で責め、筆でいじり、尻穴を犯し、あるいは貞操帯に仕込まれたバイブを使って、時には焦らし、時には達した後も休みなく責め立て続けて、陰茎と膣から同時に潮を吹かせる。宗太郎が猿轡の奥からくぐもった悲鳴をあげ、身をよじって抵抗する姿は、かつての宗太郎の享楽と傲慢ぶりを知るものにとって、肉体的なそれ以上に、精神的な面で暗い悦びを与えるものであったようだ。
中でも、宗太郎のかつての放蕩仲間が三人揃ってやってきたときの行為は殊の外ひどいものであった。ひとりが上の口に加えさせ、ふたりが同時に尻の穴にいれようとするに及んで、さすがの遣り手婆も止めたという。
さて、発情期が来たときにはもちろん遊郭で客をとることは免じられるが、その期間中のほうがあるいは宗太郎にとってはつらい期間かもしれなかった。篤が用意したあの家に移送され、上下の貞操帯を外され、Ω膣に一日中篤のものを入れて、出される。そして篤の気まぐれのままに、首を噛まれた。
「跡、少し残るようになってきましたね」
遊郭で客をとらされるようになってから何度目かの発情期の終わり頃。宗太郎を抱えて一緒に風呂に入れていた篤が、宗太郎の首の後ろを指先で撫でながらそう言い、再びそこに歯を立てた。
「やめろ……!」
「あの店に宗太郎さんの面倒を見てもらうのも、そろそろ潮時かな。引き止められないといいのですが。なかなかの売れっ子Ωだそうじゃないですか、宗太郎さん」
宗太郎は湯おけのなかで篤から距離を取りつつも、俯き加減で首を横に振った。
「それとも続けたいですか? 貞操帯の端から漏れた愛液を客になめとってもらうのが最近のお気に入り、と、遣り手婆からは聞いてますよ」
「気に入ってなど……」
「後ろにも器具を咥え込みながらそれをされると、足の指をひっくり返して本気イキするとか」
「しない……」
「本当かな。試してみましょうか」
篤に促されるまま、宗太郎は湯おけのなかで立ち上がった。しゃがんだままの篤の顔が自分の下半身に潜り、体表よりも少し熱いものでそこを舐められる感触がして、尻穴に指が当たる。
「ほら、もう感じてる」
「違……」
「後ろをいじっているだけなのに前までビンビンに勃たせてしまうなんて。あなたという人は本当にいやらしい」
「あ、あ、うぁ……篤、もう、やめて……」
「やめてほしいなら、僕のが欲しいと言いなさい」
「欲しい……」
「足りないですよ。もっと甘い声で言うんです。もっと僕に媚びなさい。僕が欲しいとねだるんです」
「篤……篤、もう……や……あ、あぁっ、あ……」
「旦那さま、あの」
風呂場の外から、篤を呼ぶ声がした。篤は、宗太郎のそこに口を当てたまま、なんだ、と返事をした。
「本宅のほうから、使いがまいりまして」
「本宅から?」
「龍之介様がご危篤とのことです」
「……なるほど、すぐに向かうと伝えてくれ。宗太郎さんもいらっしゃい」
先に出た篤に支えられながら、宗太郎も湯おけから出た。
久しぶりに聞く父の名は、遠い他人のようだった。
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