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退院
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篤との性交の匂いがまだ濃厚に残る病室に呼び戻された岡田の説明によれば、一般にはあまり公表されていない最新の研究結果として、α・β・Ωの間では実のところ遺伝的な差異はほとんどなく、第二次成長期にどの遺伝子が発動するかで決定するのだそうだ。とはいえ、それは概ね遺伝的素養で決定するため生得的と言えなくはないものの、特殊な薬剤を使うなどしてホルモンバランスを調整すれば、αやΩをβをにしたり、その逆もまた可能なのだという。
岡田がそも海外に行った目的はそれではなかったのだが、海外で研究の進むそれに興味を持って日本に持ち帰り、この研究所で密かに実験を進めている。研究はいくつかの大口出資者に支えられていて、大河内はそのうちでも最大のものであるということだった。
これまでにわかっていることとして、βを作るよりもαを作るほうが困難で、それよりもさらに難しいのはΩを作ることだった。それは備えるべき器官の複雑さに由来していて、Ωのなかでも男Ωは女Ωよりもさらに難しい。海外の事例では、男βをΩ化しようとするもその肉体と精神にあまりに大きな負担がかかり、やむなく実験中止の判断をせざるを得ず完全なΩ化までは確認できなかったそうだ。そこで岡田は、もっとも負担が大きいと思われるΩ膣と子宮の初期形成時に麻酔等を使い被験者をほぼ眠らせておくことで、その困難な時期を乗り越えるという方法を考え、実行に移した。
一人目のΩで実験しほぼ成功を確信し、宗太郎が二人目の検体であるという。
「事例がまだあまりに少ないので宗太郎のことも論文に盛り込みたいのだが、なにせ外部には一切秘密にするというのが大河内が出資する条件だというからね」
岡田が心底残念そうに言うと、篤が後を続けた。
「科学の発展のためとはいえ、大河内の妻を興味本位な世間の耳目にさらすわけにはいきませんから。それでもこの記録を今後の研究に生かしていただくのはかまいませんし、発表可能な次の検体を探すことに協力は惜しみませんよ」
「いやもちろん、篤くんの協力にはこの上なく感謝しているよ」
「誰か妻だ……!」
ふたりの話に割り込んで強がってはみたものの、いまの宗太郎の姿ときたら、寝間着を羽織ったはいいが帯を締め直すこともできず、篤の腕に背中を支えてもらっているだけで足りず、べったりと篤の肩によりかかりながら悪態をついているという有様だ。まだ麻酔の影響が残る体でできたばかりのΩ膣を責め立てられ、それでもどうにか体を起こし篤と岡田に噛み付いている宗太郎を支えているのは、己こそが大河内の後継、唯一の後継のαである、という矜持であったが、岡田と篤にとって宗太郎の訴えなどすでにものの数には含まれもしないようであった。
「麻酔を抜くのもうまくいったようですし、早々に迎えを呼んで、本日中には出発したいと思います。次の検査はいつごろになりますか」
「次の発情期……いや、しばらくは週一程度では確認しておいたほうがよいだろう。形成過程であれほど頻繁に発情期が来るとは、Ωというのは不思議な生き物だな」
「わかりました。では次は来週の火曜日に」
「火曜……ん、それはかまわんが」
「検査には僕だけが付き添いますので、こちらの都合により今後多少日取りを変えていただく場合もあるかもしれませんが」
「うむ、そうだろうとも。どうかな、篤くんも忙しい身であることだし、もう少しここに置いていっては。一人では、毎日のΩ膣の慣らしもなかなか大変だろう」
「慣らし……? おい、慣らしとは、どういうことだ」
宗太郎が怯えたように尋ねると、訊かれた篤よりも先に岡田が答えた。
「若いばかりの素人Ωを相手にするより、商売Ωの熟れ切ったそれのほうが具合がいいと、宗太郎、お前自身が常々言っていたじゃないか。そういうことだ。ΩのもっともΩらしい部分であるΩ膣を刺激してやれば、それだけΩ化が安定する。器具を使っても良いが、より効果的なのはΩの対となる性、αの肉棒であろう」
岡田の話の意味しているところを理解した宗太郎は、同時に、学友であったはずの岡田が己に対して投げて来る、ぶしつけな、舐め回すような視線の、正体を知った。悲鳴が口から溢れそうになるのを、宗太郎はかろうじてこらえた。
「岡田さんのご協力には心から感謝していますが、宗太郎さんが僕以外の子を身ごもるようなことになっては困りますので、あとは僕が」
「ん、まあ、篤くんも若いから大丈夫だとは思うが。若いからこそ、あまり無茶はしないようにな。ハッハハハ」
岡田の下卑た笑い声に総毛立つ宗太郎の、その肩にまわされていた篤の手に、心なしか力がこめられた。そのことにほんの少し安堵した己のことを、宗太郎は後に思い出しては何度も恥じた。
岡田がそも海外に行った目的はそれではなかったのだが、海外で研究の進むそれに興味を持って日本に持ち帰り、この研究所で密かに実験を進めている。研究はいくつかの大口出資者に支えられていて、大河内はそのうちでも最大のものであるということだった。
これまでにわかっていることとして、βを作るよりもαを作るほうが困難で、それよりもさらに難しいのはΩを作ることだった。それは備えるべき器官の複雑さに由来していて、Ωのなかでも男Ωは女Ωよりもさらに難しい。海外の事例では、男βをΩ化しようとするもその肉体と精神にあまりに大きな負担がかかり、やむなく実験中止の判断をせざるを得ず完全なΩ化までは確認できなかったそうだ。そこで岡田は、もっとも負担が大きいと思われるΩ膣と子宮の初期形成時に麻酔等を使い被験者をほぼ眠らせておくことで、その困難な時期を乗り越えるという方法を考え、実行に移した。
一人目のΩで実験しほぼ成功を確信し、宗太郎が二人目の検体であるという。
「事例がまだあまりに少ないので宗太郎のことも論文に盛り込みたいのだが、なにせ外部には一切秘密にするというのが大河内が出資する条件だというからね」
岡田が心底残念そうに言うと、篤が後を続けた。
「科学の発展のためとはいえ、大河内の妻を興味本位な世間の耳目にさらすわけにはいきませんから。それでもこの記録を今後の研究に生かしていただくのはかまいませんし、発表可能な次の検体を探すことに協力は惜しみませんよ」
「いやもちろん、篤くんの協力にはこの上なく感謝しているよ」
「誰か妻だ……!」
ふたりの話に割り込んで強がってはみたものの、いまの宗太郎の姿ときたら、寝間着を羽織ったはいいが帯を締め直すこともできず、篤の腕に背中を支えてもらっているだけで足りず、べったりと篤の肩によりかかりながら悪態をついているという有様だ。まだ麻酔の影響が残る体でできたばかりのΩ膣を責め立てられ、それでもどうにか体を起こし篤と岡田に噛み付いている宗太郎を支えているのは、己こそが大河内の後継、唯一の後継のαである、という矜持であったが、岡田と篤にとって宗太郎の訴えなどすでにものの数には含まれもしないようであった。
「麻酔を抜くのもうまくいったようですし、早々に迎えを呼んで、本日中には出発したいと思います。次の検査はいつごろになりますか」
「次の発情期……いや、しばらくは週一程度では確認しておいたほうがよいだろう。形成過程であれほど頻繁に発情期が来るとは、Ωというのは不思議な生き物だな」
「わかりました。では次は来週の火曜日に」
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「検査には僕だけが付き添いますので、こちらの都合により今後多少日取りを変えていただく場合もあるかもしれませんが」
「うむ、そうだろうとも。どうかな、篤くんも忙しい身であることだし、もう少しここに置いていっては。一人では、毎日のΩ膣の慣らしもなかなか大変だろう」
「慣らし……? おい、慣らしとは、どういうことだ」
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「若いばかりの素人Ωを相手にするより、商売Ωの熟れ切ったそれのほうが具合がいいと、宗太郎、お前自身が常々言っていたじゃないか。そういうことだ。ΩのもっともΩらしい部分であるΩ膣を刺激してやれば、それだけΩ化が安定する。器具を使っても良いが、より効果的なのはΩの対となる性、αの肉棒であろう」
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