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変容

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 さて実のところ、最後通牒などどこ吹く風でその晩も散々に酔っ払い堀沿いを綱渡りのように歩いていた宗太郎は、黒服の集団に囲まれた。

 頭は悪いが体格には恵まれ、惣領息子のたしなみとして幼い頃はいやいやながらも武道を学んでいた宗太郎はそれなりの大立ち回りを演じ黒服のひとりやふたりは堀に叩き落としたが、いかにαとはいえ荒淫になまりきった体がそれを生業としている男たちに叶うはずもない。

 何時間も車に乗せられ拉致された先は、ひらけた土地にぽつんと建つ、研究施設を思わせる見知らぬ建物だった。

 左右を男に囲まれて車から降ろされるなり口にマスクのようなものをつけられて、逆らう間も無く昏倒し、ふと目覚めれば四方がなにかの機材に囲まれた白い部屋。なにかおかしな薬剤のようなものを注入されているので点滴の針を引き抜こうとしたが、体は重く意識は朦朧としている。
 誰かがずっとすぐそばにいたような気もするがそれもよくわからない。
 いつの間にかまた眠り、目覚めれば白い壁で、また眠った。夢と現の境をさまよいながら、どれだけそうしていただろうか。

 誰かの話し声に導かれるようにして宗太郎が目をさますとそこに白い壁はなく、金色の唐草文様の壁紙に天蓋つきの豪華なベッド、壁際になにかの機械からつながったモニターやら医療器具のようなものがずらりと並ぶ、病室のような部屋であった。

 少し離れた椅子に腰掛けカルテのようなものを書いていた看護師が、宗太郎が目覚めたのに気づくと部屋から出て行った。医者でも呼びにいったのだろうか。頭がまだぼうとして深くは考えられない。

 しばらくして病室に入って来た相手の顔に、宗太郎は目を剥いた。

「岡田……?」

 岡田というのは、宗太郎がその婚約者のΩを発情期に乗じて手篭めにした、あの岡田であった。さらにその岡田のあとについて病室に入ってきたのは篤である。互いに顔見知りであることに不思議はないふたりだが、この状況は不可解だった。ここはどこだ?

 いぶかしみながらもまだベッドから起き上がれないでいる宗太郎の顔を、岡田が覗き込んだ。

「やあ宗太郎。Ωになった気分はどうだ」
「Ω?」

 宗太郎は、もちろん言っていることが理解できなかった。αはαであり、ΩはΩである。αがΩになるなど、男が女に、人が獣になるほどに、ありえない話だ。

「頭でも狂ったのか、岡田」
「この上なく正気だ。なるほど、やはり記憶は飛んでいるか」
「意識レベルは戻っているのですか?」

 岡田の背後から、篤が尋ねた。

「それは問題ないだろう。僕の顔を判別できているのがいい証拠だ」
「なるほど……岡田さん、それでは、しばらくのあいだここは僕に任せていただけないでしょうか」
「ふむ? ……ふむ、ふん、そうだな、そうしよう」
「ありがとうございます」
「なにかあったら呼んでくれ。じゃあな、宗太郎」

 岡田はニヤニヤしながら去って行った。篤がベッドサイドに椅子を引き寄せて、座った。

「宗太郎さん、本当になにも覚えていないんですか?」
「だから、なんのことだ? ここはどこだ? なんで俺はここにいる? どうして篤、お前と岡田が……」
「順番に行きましょうか」

 篤の口調は丁寧だが、どこか居丈高だった。少しかちんとした表情になる宗太郎を尻目に、篤は壁のモニター横の器具の電源を入れ、リモコンを片手に戻って来た。
 画面いっぱいになにかのリストが表示された。検体0038という文字の横に、日付のような文字が並んでいる。そのリストに表示されている一番最後の日付が今よりも過去なのだとしたら、宗太郎が記憶にある日からすでに三ヶ月以上経過している。

 ベッドサイドの椅子に座り、リモコンでリストをしばらく上下させていた篤が、ある日付のところで決定ボタンを押すと、動画の再生がはじまった。黒い画面に、検体0038、投与開始後一ヶ月、と表示され、画面いっぱいに誰かの下半身が大写しにされた。内臓を思わせるピンク色の穴はおそらく膣。その下には尻の穴、上には陰茎と少し小さめの睾丸が見える。男Ωの性器周辺の映像と思われた。あたりまえだが無修正だ。宗太郎はもともとΩでも女型のほうが好きだったし、膣に自分のペニスを刺し入れるのは好きだがそれを明るいところでまじまじとみたいという願望はなかった。
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