20 / 23
斎藤利尚という男
しおりを挟む
「……失礼致します、帰蝶様」
「……あなたは?」
明智家の2人と別れた後、私に見慣れぬ男が話しかけてきた。
スラリとした細身の男で、年齢は30代くらいか。
そういや、どこかで見たことあるような……
「……そういえば、あなたは記憶を失っていましたな。では、改めて自己紹介致しましょうか」
そう言って男は膝をつき、私に自分の名を明かした。
「私は長井隼人佐道利。この度は若殿……新九郎利尚様と共に、大殿様の使者として大桑に参った次第です」
長井道利……そうだ、今日新九郎兄さんの隣にいた人だ。
確か道三の歳の離れた弟で、中濃、北濃の取り仕切りを任されてるんだっけ。
成る程、顔つきがどことなく道三に似ている理由が分かったよ。
「わざわざご丁寧な挨拶、ありがとうございます。して、長井殿は何故私に……」
「新九郎様がお呼びです。1度、帰蝶様と話がしたいと」
「……新九郎兄上が?」
新九郎利尚、後の斎藤義龍。彼はこの世界での私の兄だけど、未だに1度も話ができていない。
彼は後々自分の父親である道三を殺すことになる人物だ。
ここらで1度、彼がどんな人間なのかを見極めておきたいけれど……
「……身内といえども、旦那様の許可なく話すのは……」
「ご心配には及びません。守護様は、新九郎様は自分の味方だと思っております故」
「……それって……」
「……とはいえ、あまり長い時間を使うこともできません。こちらへどうぞ」
「は、はい……」
……そういや、聞いたことがあるな。斎藤義龍は道三の息子ではなく、土岐家の息子だって。
真偽はよく分からないけど、さっきの言葉の意味は、このことを示しているのか?
「……新九郎様、帰蝶様をお連れ致しました」
「……ご苦労でした、叔父上。……さて、久しぶりだな、帰蝶」
長井さんに連れられた先で待っていたのは、私の兄である新九郎利尚である。
後の斎藤義龍として知られるこの男は、後世に伝わるような六尺五寸(197cm)……は流石に誇張とはいえ、180cmは優に超える長身と、まだ20代前半とは思えない強面を有している。
内面の方は……現状だと、無口な人だってこと以外は何も分かっていない。
数多くいる兄弟達の中でも、今のところ最も人間性が掴めていない人だといえるだろう。
「……はい。お久しぶりです、新九郎兄上。しかし、今日は一体何故……」
「……何だ? 兄が妹に会いに来てはいけないのか?」
「い、いえ! そんなことはありません!」
うう、やっぱり怖いよこの人……
ただ顔が怖いだけならまだしも、将来自分の父親を殺すような人だもん。
しかも無表情で何考えてるか分からないぶん、邪悪さが顔に滲み出ている道三や喜平次よりも不気味さで勝る!
「……………………」
……えーっと……何か喋ってくれませんかね?
そんな無表情でこっち見つめられると、プレッシャーが重くて……
「……記憶を失ったと聞いた時は心配したが、息災のようでなによりだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「……守護様との生活では……何か不自由はないか?」
「大丈夫ですよ、旦那様にはよくしてもらっています」
「……ならばよい。……ただ、もしも困ったことがあるならば、遠慮なく私に相談してくれ」
「は、はい……分かりました。頼りとさせて頂きます」
「……うむ、これだけ話せれば満足だ。では帰蝶よ、近いうちにまた会いにくるぞ」
「……あれっ? もう帰るんですか?」
「……今日はお前の顔を見にきただけだからな。……なんだ、何か言いたいことがあるのか?」
「え、えーっと、それは……」
こ、このままじゃ新九郎兄さんの内面が全然分かんないまま終わってしまう。
取り敢えず、何か言って話を続けないと……
「その……わ、わざわざ来て頂き、ありがとうございました」
なんだこの返しは! 何かっていってもこんな無難な言葉じゃ……
「……礼には及ばん。兄が妹を気にかけるのは当然だ」
……ああ、結局行っちゃったよ。
うーん。一緒にいた長井さん共々、1回の対話じゃどんな人かまだよく分からなかったな。
まあ、新九郎兄さんは口下手なだけで、そこまで悪い人じゃなさそう……に見える。
でも、まだ警戒は必要だな。なんたって父親殺しの汚名を被っている男なんだ。
腹の中にどんなもの抱えているか知れたものじゃない。
斎藤と土岐の争いだけじゃなくて、斎藤家の人間同士の争いにも目を向けなくちゃいけない……はあ、この後の歴史を考えるだけで嫌になる。
家族同士で殺し合うような野蛮な時代はもう大嫌いだ。
「……あなたは?」
明智家の2人と別れた後、私に見慣れぬ男が話しかけてきた。
スラリとした細身の男で、年齢は30代くらいか。
そういや、どこかで見たことあるような……
「……そういえば、あなたは記憶を失っていましたな。では、改めて自己紹介致しましょうか」
そう言って男は膝をつき、私に自分の名を明かした。
「私は長井隼人佐道利。この度は若殿……新九郎利尚様と共に、大殿様の使者として大桑に参った次第です」
長井道利……そうだ、今日新九郎兄さんの隣にいた人だ。
確か道三の歳の離れた弟で、中濃、北濃の取り仕切りを任されてるんだっけ。
成る程、顔つきがどことなく道三に似ている理由が分かったよ。
「わざわざご丁寧な挨拶、ありがとうございます。して、長井殿は何故私に……」
「新九郎様がお呼びです。1度、帰蝶様と話がしたいと」
「……新九郎兄上が?」
新九郎利尚、後の斎藤義龍。彼はこの世界での私の兄だけど、未だに1度も話ができていない。
彼は後々自分の父親である道三を殺すことになる人物だ。
ここらで1度、彼がどんな人間なのかを見極めておきたいけれど……
「……身内といえども、旦那様の許可なく話すのは……」
「ご心配には及びません。守護様は、新九郎様は自分の味方だと思っております故」
「……それって……」
「……とはいえ、あまり長い時間を使うこともできません。こちらへどうぞ」
「は、はい……」
……そういや、聞いたことがあるな。斎藤義龍は道三の息子ではなく、土岐家の息子だって。
真偽はよく分からないけど、さっきの言葉の意味は、このことを示しているのか?
「……新九郎様、帰蝶様をお連れ致しました」
「……ご苦労でした、叔父上。……さて、久しぶりだな、帰蝶」
長井さんに連れられた先で待っていたのは、私の兄である新九郎利尚である。
後の斎藤義龍として知られるこの男は、後世に伝わるような六尺五寸(197cm)……は流石に誇張とはいえ、180cmは優に超える長身と、まだ20代前半とは思えない強面を有している。
内面の方は……現状だと、無口な人だってこと以外は何も分かっていない。
数多くいる兄弟達の中でも、今のところ最も人間性が掴めていない人だといえるだろう。
「……はい。お久しぶりです、新九郎兄上。しかし、今日は一体何故……」
「……何だ? 兄が妹に会いに来てはいけないのか?」
「い、いえ! そんなことはありません!」
うう、やっぱり怖いよこの人……
ただ顔が怖いだけならまだしも、将来自分の父親を殺すような人だもん。
しかも無表情で何考えてるか分からないぶん、邪悪さが顔に滲み出ている道三や喜平次よりも不気味さで勝る!
「……………………」
……えーっと……何か喋ってくれませんかね?
そんな無表情でこっち見つめられると、プレッシャーが重くて……
「……記憶を失ったと聞いた時は心配したが、息災のようでなによりだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「……守護様との生活では……何か不自由はないか?」
「大丈夫ですよ、旦那様にはよくしてもらっています」
「……ならばよい。……ただ、もしも困ったことがあるならば、遠慮なく私に相談してくれ」
「は、はい……分かりました。頼りとさせて頂きます」
「……うむ、これだけ話せれば満足だ。では帰蝶よ、近いうちにまた会いにくるぞ」
「……あれっ? もう帰るんですか?」
「……今日はお前の顔を見にきただけだからな。……なんだ、何か言いたいことがあるのか?」
「え、えーっと、それは……」
こ、このままじゃ新九郎兄さんの内面が全然分かんないまま終わってしまう。
取り敢えず、何か言って話を続けないと……
「その……わ、わざわざ来て頂き、ありがとうございました」
なんだこの返しは! 何かっていってもこんな無難な言葉じゃ……
「……礼には及ばん。兄が妹を気にかけるのは当然だ」
……ああ、結局行っちゃったよ。
うーん。一緒にいた長井さん共々、1回の対話じゃどんな人かまだよく分からなかったな。
まあ、新九郎兄さんは口下手なだけで、そこまで悪い人じゃなさそう……に見える。
でも、まだ警戒は必要だな。なんたって父親殺しの汚名を被っている男なんだ。
腹の中にどんなもの抱えているか知れたものじゃない。
斎藤と土岐の争いだけじゃなくて、斎藤家の人間同士の争いにも目を向けなくちゃいけない……はあ、この後の歴史を考えるだけで嫌になる。
家族同士で殺し合うような野蛮な時代はもう大嫌いだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】
野松 彦秋
歴史・時代
妻木煕子(ツマキヒロコ)は親が決めた許嫁明智十兵衛(後の光秀)と10年ぶりに会い、目を疑う。
子供の時、自分よりかなり年上であった筈の従兄(十兵衛)の容姿は、10年前と同じであった。
見た目は自分と同じぐらいの歳に見えるのである。
過去の思い出を思い出しながら会話をするが、何処か嚙み合わない。
ヒロコの中に一つの疑惑が生まれる。今自分の前にいる男は、自分が知っている十兵衛なのか?
十兵衛に知られない様に、彼の行動を監視し、調べる中で彼女は驚きの真実を知る。
真実を知った上で、彼女が取った行動、決断で二人の人生が動き出す。
若き日の明智光秀とその妻煕子との馴れ初めからはじまり、二人三脚で戦乱の世を駆け巡る。
天下の裏切り者明智光秀と徐福伝説、八百比丘尼の伝説を繋ぐ物語。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる