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斎藤利尚という男
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「……失礼致します、帰蝶様」
「……あなたは?」
明智家の2人と別れた後、私に見慣れぬ男が話しかけてきた。
スラリとした細身の男で、年齢は30代くらいか。
そういや、どこかで見たことあるような……
「……そういえば、あなたは記憶を失っていましたな。では、改めて自己紹介致しましょうか」
そう言って男は膝をつき、私に自分の名を明かした。
「私は長井隼人佐道利。この度は若殿……新九郎利尚様と共に、大殿様の使者として大桑に参った次第です」
長井道利……そうだ、今日新九郎兄さんの隣にいた人だ。
確か道三の歳の離れた弟で、中濃、北濃の取り仕切りを任されてるんだっけ。
成る程、顔つきがどことなく道三に似ている理由が分かったよ。
「わざわざご丁寧な挨拶、ありがとうございます。して、長井殿は何故私に……」
「新九郎様がお呼びです。1度、帰蝶様と話がしたいと」
「……新九郎兄上が?」
新九郎利尚、後の斎藤義龍。彼はこの世界での私の兄だけど、未だに1度も話ができていない。
彼は後々自分の父親である道三を殺すことになる人物だ。
ここらで1度、彼がどんな人間なのかを見極めておきたいけれど……
「……身内といえども、旦那様の許可なく話すのは……」
「ご心配には及びません。守護様は、新九郎様は自分の味方だと思っております故」
「……それって……」
「……とはいえ、あまり長い時間を使うこともできません。こちらへどうぞ」
「は、はい……」
……そういや、聞いたことがあるな。斎藤義龍は道三の息子ではなく、土岐家の息子だって。
真偽はよく分からないけど、さっきの言葉の意味は、このことを示しているのか?
「……新九郎様、帰蝶様をお連れ致しました」
「……ご苦労でした、叔父上。……さて、久しぶりだな、帰蝶」
長井さんに連れられた先で待っていたのは、私の兄である新九郎利尚である。
後の斎藤義龍として知られるこの男は、後世に伝わるような六尺五寸(197cm)……は流石に誇張とはいえ、180cmは優に超える長身と、まだ20代前半とは思えない強面を有している。
内面の方は……現状だと、無口な人だってこと以外は何も分かっていない。
数多くいる兄弟達の中でも、今のところ最も人間性が掴めていない人だといえるだろう。
「……はい。お久しぶりです、新九郎兄上。しかし、今日は一体何故……」
「……何だ? 兄が妹に会いに来てはいけないのか?」
「い、いえ! そんなことはありません!」
うう、やっぱり怖いよこの人……
ただ顔が怖いだけならまだしも、将来自分の父親を殺すような人だもん。
しかも無表情で何考えてるか分からないぶん、邪悪さが顔に滲み出ている道三や喜平次よりも不気味さで勝る!
「……………………」
……えーっと……何か喋ってくれませんかね?
そんな無表情でこっち見つめられると、プレッシャーが重くて……
「……記憶を失ったと聞いた時は心配したが、息災のようでなによりだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「……守護様との生活では……何か不自由はないか?」
「大丈夫ですよ、旦那様にはよくしてもらっています」
「……ならばよい。……ただ、もしも困ったことがあるならば、遠慮なく私に相談してくれ」
「は、はい……分かりました。頼りとさせて頂きます」
「……うむ、これだけ話せれば満足だ。では帰蝶よ、近いうちにまた会いにくるぞ」
「……あれっ? もう帰るんですか?」
「……今日はお前の顔を見にきただけだからな。……なんだ、何か言いたいことがあるのか?」
「え、えーっと、それは……」
こ、このままじゃ新九郎兄さんの内面が全然分かんないまま終わってしまう。
取り敢えず、何か言って話を続けないと……
「その……わ、わざわざ来て頂き、ありがとうございました」
なんだこの返しは! 何かっていってもこんな無難な言葉じゃ……
「……礼には及ばん。兄が妹を気にかけるのは当然だ」
……ああ、結局行っちゃったよ。
うーん。一緒にいた長井さん共々、1回の対話じゃどんな人かまだよく分からなかったな。
まあ、新九郎兄さんは口下手なだけで、そこまで悪い人じゃなさそう……に見える。
でも、まだ警戒は必要だな。なんたって父親殺しの汚名を被っている男なんだ。
腹の中にどんなもの抱えているか知れたものじゃない。
斎藤と土岐の争いだけじゃなくて、斎藤家の人間同士の争いにも目を向けなくちゃいけない……はあ、この後の歴史を考えるだけで嫌になる。
家族同士で殺し合うような野蛮な時代はもう大嫌いだ。
「……あなたは?」
明智家の2人と別れた後、私に見慣れぬ男が話しかけてきた。
スラリとした細身の男で、年齢は30代くらいか。
そういや、どこかで見たことあるような……
「……そういえば、あなたは記憶を失っていましたな。では、改めて自己紹介致しましょうか」
そう言って男は膝をつき、私に自分の名を明かした。
「私は長井隼人佐道利。この度は若殿……新九郎利尚様と共に、大殿様の使者として大桑に参った次第です」
長井道利……そうだ、今日新九郎兄さんの隣にいた人だ。
確か道三の歳の離れた弟で、中濃、北濃の取り仕切りを任されてるんだっけ。
成る程、顔つきがどことなく道三に似ている理由が分かったよ。
「わざわざご丁寧な挨拶、ありがとうございます。して、長井殿は何故私に……」
「新九郎様がお呼びです。1度、帰蝶様と話がしたいと」
「……新九郎兄上が?」
新九郎利尚、後の斎藤義龍。彼はこの世界での私の兄だけど、未だに1度も話ができていない。
彼は後々自分の父親である道三を殺すことになる人物だ。
ここらで1度、彼がどんな人間なのかを見極めておきたいけれど……
「……身内といえども、旦那様の許可なく話すのは……」
「ご心配には及びません。守護様は、新九郎様は自分の味方だと思っております故」
「……それって……」
「……とはいえ、あまり長い時間を使うこともできません。こちらへどうぞ」
「は、はい……」
……そういや、聞いたことがあるな。斎藤義龍は道三の息子ではなく、土岐家の息子だって。
真偽はよく分からないけど、さっきの言葉の意味は、このことを示しているのか?
「……新九郎様、帰蝶様をお連れ致しました」
「……ご苦労でした、叔父上。……さて、久しぶりだな、帰蝶」
長井さんに連れられた先で待っていたのは、私の兄である新九郎利尚である。
後の斎藤義龍として知られるこの男は、後世に伝わるような六尺五寸(197cm)……は流石に誇張とはいえ、180cmは優に超える長身と、まだ20代前半とは思えない強面を有している。
内面の方は……現状だと、無口な人だってこと以外は何も分かっていない。
数多くいる兄弟達の中でも、今のところ最も人間性が掴めていない人だといえるだろう。
「……はい。お久しぶりです、新九郎兄上。しかし、今日は一体何故……」
「……何だ? 兄が妹に会いに来てはいけないのか?」
「い、いえ! そんなことはありません!」
うう、やっぱり怖いよこの人……
ただ顔が怖いだけならまだしも、将来自分の父親を殺すような人だもん。
しかも無表情で何考えてるか分からないぶん、邪悪さが顔に滲み出ている道三や喜平次よりも不気味さで勝る!
「……………………」
……えーっと……何か喋ってくれませんかね?
そんな無表情でこっち見つめられると、プレッシャーが重くて……
「……記憶を失ったと聞いた時は心配したが、息災のようでなによりだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「……守護様との生活では……何か不自由はないか?」
「大丈夫ですよ、旦那様にはよくしてもらっています」
「……ならばよい。……ただ、もしも困ったことがあるならば、遠慮なく私に相談してくれ」
「は、はい……分かりました。頼りとさせて頂きます」
「……うむ、これだけ話せれば満足だ。では帰蝶よ、近いうちにまた会いにくるぞ」
「……あれっ? もう帰るんですか?」
「……今日はお前の顔を見にきただけだからな。……なんだ、何か言いたいことがあるのか?」
「え、えーっと、それは……」
こ、このままじゃ新九郎兄さんの内面が全然分かんないまま終わってしまう。
取り敢えず、何か言って話を続けないと……
「その……わ、わざわざ来て頂き、ありがとうございました」
なんだこの返しは! 何かっていってもこんな無難な言葉じゃ……
「……礼には及ばん。兄が妹を気にかけるのは当然だ」
……ああ、結局行っちゃったよ。
うーん。一緒にいた長井さん共々、1回の対話じゃどんな人かまだよく分からなかったな。
まあ、新九郎兄さんは口下手なだけで、そこまで悪い人じゃなさそう……に見える。
でも、まだ警戒は必要だな。なんたって父親殺しの汚名を被っている男なんだ。
腹の中にどんなもの抱えているか知れたものじゃない。
斎藤と土岐の争いだけじゃなくて、斎藤家の人間同士の争いにも目を向けなくちゃいけない……はあ、この後の歴史を考えるだけで嫌になる。
家族同士で殺し合うような野蛮な時代はもう大嫌いだ。
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