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明智家の人間
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「……と、いうわけでですね。私が利政様の正室となった縁もあり、我が兄光安は東美濃の一国人から、利政様に重用される美濃の有力者の1人となったのです。まぁ、本人は既に亡きもう1人の兄、光綱に遠慮しているような振る舞いが目立っており、あまり有力者といった顔はしていませんが」
小見さんの兄である明智光安さんのもとに向かう途中、彼女は明智家のことを色々教えてくれた。
まだ斎藤道三の地位が高くなかった時から明智家は小見さんが嫁いだ関係上仲良くしており、今でも道三には重用されているという。
今の明智家当主の光安さんも道三には忠誠を誓っているらしく、いつも周りが敵だらけの道三からすれば、自分に絶対の忠誠を誓う身内は貴重な存在なんだろうなと思う。
……でも、嫌われ者に忠誠を誓ってる人って、大抵は周りから疎まれてロクな最期を遂げないイメージが……
「さて。着きましたよ、帰蝶」
……おっと、もう光安さんの待つ部屋に着いてしまった。
まあ、道三を前にした後じゃ、もう誰と会っても緊張しないと思うけど。
私が頷くのを確認した小見さんが襖を開けると、中年の男性と精悍な顔つきをした青年が頭を下げて私達を出迎えた。
「表を上げて下さい、兄上。……いつになっても、兄に頭を下げられるのは慣れませんね」
「お前は儂の妹であると同時に我が殿の奥方様だからな。形だけでも敬う姿勢を見せねば示しがつかんだろうよ」
「やれやれ、難しい関係になってしまったものです」
小見さんと中年男性は顔を合わせて笑い合う。きっとこの人が光安さんなんだろう。
なんか現代日本にもいそうな近所のおじちゃんって感じで、髪型以外戦国武将感は無いなぁ。
「帰蝶様も、お久しぶりにございます。……して、記憶喪失になったというのは……」
「ええ、その通りです。兄上達のことも忘れてしまったようなので、兄上が稲葉山に来たこの期にそれを伝えておこうと思って」
「……なんと、この光安の顔もお忘れに? 幼い頃から顔を合わせてきて、可愛らしい声で伯父上と呼んでくれたのに?」
「……えーっと、ごめんなさい。なんにも覚えていません……」
「……ああ……で、では改めて自己紹介を致しましょう」
光安さんは一瞬魂が抜け落ちたような顔をしたが、すぐに切り替えて私に自己紹介をしてきた。
「私の名は明智弥次郎光安。東美濃の明智城城主にして、現明智家当主。そして帰蝶様の実の伯父にございます。以後お見知りおきを」
光安さんは私に平伏しながら、よく通る声で自己紹介をしてくれた。
道三の時もそうだったけど、この時代の人は皆話し慣れているからか声が聞き取り易い。
普通に話しているだけでも、演説を聞いている気分になったり、道三みたいに不思議な力を感じたりしてくる。
「……ほれ、十兵衛。次はお前の番だ。帰蝶様に自己紹介せい」
「……はっ」
その時、ようやく光安さんの後ろに控えていた青年が口を開いた。
顔の見た目は高校生くらいに見えるが、その鋭い視線はまるで狼のようだ。
道三の眼からは獲物の動きを止める毒が流れていたが、この青年の眼からは……身を焦がさんばかりの、果てしなき野望が見える。
「明智光安が甥、明智十兵衛光秀と言います。帰蝶様の従兄として、この身をあなたのために捧げましょう」
……この人が、明智光秀。本能寺の変を起こして織田信長を殺し、一瞬でもこの天下を掴んだ男。
小見さんの兄である明智光安さんのもとに向かう途中、彼女は明智家のことを色々教えてくれた。
まだ斎藤道三の地位が高くなかった時から明智家は小見さんが嫁いだ関係上仲良くしており、今でも道三には重用されているという。
今の明智家当主の光安さんも道三には忠誠を誓っているらしく、いつも周りが敵だらけの道三からすれば、自分に絶対の忠誠を誓う身内は貴重な存在なんだろうなと思う。
……でも、嫌われ者に忠誠を誓ってる人って、大抵は周りから疎まれてロクな最期を遂げないイメージが……
「さて。着きましたよ、帰蝶」
……おっと、もう光安さんの待つ部屋に着いてしまった。
まあ、道三を前にした後じゃ、もう誰と会っても緊張しないと思うけど。
私が頷くのを確認した小見さんが襖を開けると、中年の男性と精悍な顔つきをした青年が頭を下げて私達を出迎えた。
「表を上げて下さい、兄上。……いつになっても、兄に頭を下げられるのは慣れませんね」
「お前は儂の妹であると同時に我が殿の奥方様だからな。形だけでも敬う姿勢を見せねば示しがつかんだろうよ」
「やれやれ、難しい関係になってしまったものです」
小見さんと中年男性は顔を合わせて笑い合う。きっとこの人が光安さんなんだろう。
なんか現代日本にもいそうな近所のおじちゃんって感じで、髪型以外戦国武将感は無いなぁ。
「帰蝶様も、お久しぶりにございます。……して、記憶喪失になったというのは……」
「ええ、その通りです。兄上達のことも忘れてしまったようなので、兄上が稲葉山に来たこの期にそれを伝えておこうと思って」
「……なんと、この光安の顔もお忘れに? 幼い頃から顔を合わせてきて、可愛らしい声で伯父上と呼んでくれたのに?」
「……えーっと、ごめんなさい。なんにも覚えていません……」
「……ああ……で、では改めて自己紹介を致しましょう」
光安さんは一瞬魂が抜け落ちたような顔をしたが、すぐに切り替えて私に自己紹介をしてきた。
「私の名は明智弥次郎光安。東美濃の明智城城主にして、現明智家当主。そして帰蝶様の実の伯父にございます。以後お見知りおきを」
光安さんは私に平伏しながら、よく通る声で自己紹介をしてくれた。
道三の時もそうだったけど、この時代の人は皆話し慣れているからか声が聞き取り易い。
普通に話しているだけでも、演説を聞いている気分になったり、道三みたいに不思議な力を感じたりしてくる。
「……ほれ、十兵衛。次はお前の番だ。帰蝶様に自己紹介せい」
「……はっ」
その時、ようやく光安さんの後ろに控えていた青年が口を開いた。
顔の見た目は高校生くらいに見えるが、その鋭い視線はまるで狼のようだ。
道三の眼からは獲物の動きを止める毒が流れていたが、この青年の眼からは……身を焦がさんばかりの、果てしなき野望が見える。
「明智光安が甥、明智十兵衛光秀と言います。帰蝶様の従兄として、この身をあなたのために捧げましょう」
……この人が、明智光秀。本能寺の変を起こして織田信長を殺し、一瞬でもこの天下を掴んだ男。
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