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勉強しよう
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新五郎くんと別れた後、私は小見さんに城の中を一通り案内された。
私が今いる城は斎藤家の居城、稲葉山城。
後の岐阜城として、私も名前くらいは聞いたことがある。……ホントに名前だけだけど。
しかしまぁ、分かっちゃいたけどリアルの城はやっぱり古臭いというか……なんか地味なんだよね。
そもそも私達がイメージする城って、大体が安土桃山時代以降に作られた人に見せるための近世城郭であって、この稲葉山城みたいな戦のために作られた山城はそれとは全く違う無骨なもの。
自然の山を削って形を作り、城を守るための防備は堀や土塁がメイン。
そうやって城の殆どを土や木で作り上げるのが、まだ戦国時代前半である現在の主流。
この稲葉山城も、斎藤家の時代はまだそんな中世城郭であり、私達がイメージする岐阜城に近づくのは、今から数10年後に織田信長が入ってからだろう。
そんな感じで、思ったよりあっさりした城の案内は終わろうとしていた。
隅から隅まで回ればもっと時間はかかるんだろうけど、城の大部分を占める戦のための場所なんて私達女が立ち入るような場所じゃない。
普段の生活で立ち入る場所だけを回れば、案内がすぐに終わるのは分かりきっていた。
「さあ、ここが最後の場所……この城の書庫になります」
……書庫か。凄いな、戦国時代にもこんなに書物を蓄えてある場所が存在していたなんて。流石は斎藤家といったところだ。
特にあてもなく書庫の中をフラフラしていると、奥の方で1人の少年を見つけた。
「……姉上。あなたが書庫にいらっしゃるとは珍しい」
この人は……確か私の弟、玄蕃くんだ。
さっきの小見さんとの会話を思い出す限り、新五郎くんとは違って書物が好きなタイプっぽいけど……
「うん、まあね。たまには私も勉強しようかなーって……」
これは別に嘘じゃない。私より年下の妹達の優秀さを見て、私もちょっとは勉強した方がいいんじゃないかと思いはじめたんだ。
時代が全く違うとはいえ、せっかく5年も若返ったんだ。5年後にはあの時よりずっと大人っぽくなった自分になりたい!
「……なるほど。良い心がけです。……そうですね、女性に必要な教養となると……やはり和歌、万葉集からでしょうか」
「おおっ、万葉集は聞いたことあるよ。どこにあるの?」
「そうですね、この辺に……ほら、これが第1巻になりますので、これから読んで下さい」
「へえっ、これがこの時代の本……ゴメン、玄蕃君ちょっといい?」
「……なんですか?」
「読めない。読み方教えて」
「……姉上? あなたは文字が読めないほどうつけでは……」
「あら、そういえばまだ玄蕃には伝えていなかったわね」
その時、突然私の後ろから小見さんが声を出してきた。
「うわっ、ビックリしたぁ! 母上様、いつからそこに……」
「ずっといましたよ。2人の間に割って入る機会が無かっただけで」
「……は、はぁ……」
「……母上、伝えていないこととは一体……」
「ええ、帰蝶についての大事なこと……実はかくかくしかじかで……」
「……記憶を? ……俄には信じがたいですが、母上が嘘を言うとは思えない……姉上、本当にこの本が読めないのですか?」
「うん。読みどころか書きすら出来ないと思うよ」
出来ないものは出来ない。それはもう潔く認めよう。
目の前の玄蕃君に溜め息をつかれた気がするけど、姉としての威厳なんてこの際知ったこっちゃない!
「……分かりました。それでは私が姉上に読み書きを教えましょう」
「ホント? ありがとう、玄蕃君!」
「……ちょ……姉上、抱きつかないで。苦しい……」
「……フフ、それじゃ私はお暇しますね。……そろそろ大殿にも、帰蝶のことを伝える必要がありますし」
小見さんはそう言い残して、静かに書庫から出ていった。
大殿……それって私の父親、斎藤道三のことなのかな?
「……姉上、いい加減離れて下さい……ホラ、早く紙と筆を持って!」
「……その前に、まずはお勉強かぁ……」
私が今いる城は斎藤家の居城、稲葉山城。
後の岐阜城として、私も名前くらいは聞いたことがある。……ホントに名前だけだけど。
しかしまぁ、分かっちゃいたけどリアルの城はやっぱり古臭いというか……なんか地味なんだよね。
そもそも私達がイメージする城って、大体が安土桃山時代以降に作られた人に見せるための近世城郭であって、この稲葉山城みたいな戦のために作られた山城はそれとは全く違う無骨なもの。
自然の山を削って形を作り、城を守るための防備は堀や土塁がメイン。
そうやって城の殆どを土や木で作り上げるのが、まだ戦国時代前半である現在の主流。
この稲葉山城も、斎藤家の時代はまだそんな中世城郭であり、私達がイメージする岐阜城に近づくのは、今から数10年後に織田信長が入ってからだろう。
そんな感じで、思ったよりあっさりした城の案内は終わろうとしていた。
隅から隅まで回ればもっと時間はかかるんだろうけど、城の大部分を占める戦のための場所なんて私達女が立ち入るような場所じゃない。
普段の生活で立ち入る場所だけを回れば、案内がすぐに終わるのは分かりきっていた。
「さあ、ここが最後の場所……この城の書庫になります」
……書庫か。凄いな、戦国時代にもこんなに書物を蓄えてある場所が存在していたなんて。流石は斎藤家といったところだ。
特にあてもなく書庫の中をフラフラしていると、奥の方で1人の少年を見つけた。
「……姉上。あなたが書庫にいらっしゃるとは珍しい」
この人は……確か私の弟、玄蕃くんだ。
さっきの小見さんとの会話を思い出す限り、新五郎くんとは違って書物が好きなタイプっぽいけど……
「うん、まあね。たまには私も勉強しようかなーって……」
これは別に嘘じゃない。私より年下の妹達の優秀さを見て、私もちょっとは勉強した方がいいんじゃないかと思いはじめたんだ。
時代が全く違うとはいえ、せっかく5年も若返ったんだ。5年後にはあの時よりずっと大人っぽくなった自分になりたい!
「……なるほど。良い心がけです。……そうですね、女性に必要な教養となると……やはり和歌、万葉集からでしょうか」
「おおっ、万葉集は聞いたことあるよ。どこにあるの?」
「そうですね、この辺に……ほら、これが第1巻になりますので、これから読んで下さい」
「へえっ、これがこの時代の本……ゴメン、玄蕃君ちょっといい?」
「……なんですか?」
「読めない。読み方教えて」
「……姉上? あなたは文字が読めないほどうつけでは……」
「あら、そういえばまだ玄蕃には伝えていなかったわね」
その時、突然私の後ろから小見さんが声を出してきた。
「うわっ、ビックリしたぁ! 母上様、いつからそこに……」
「ずっといましたよ。2人の間に割って入る機会が無かっただけで」
「……は、はぁ……」
「……母上、伝えていないこととは一体……」
「ええ、帰蝶についての大事なこと……実はかくかくしかじかで……」
「……記憶を? ……俄には信じがたいですが、母上が嘘を言うとは思えない……姉上、本当にこの本が読めないのですか?」
「うん。読みどころか書きすら出来ないと思うよ」
出来ないものは出来ない。それはもう潔く認めよう。
目の前の玄蕃君に溜め息をつかれた気がするけど、姉としての威厳なんてこの際知ったこっちゃない!
「……分かりました。それでは私が姉上に読み書きを教えましょう」
「ホント? ありがとう、玄蕃君!」
「……ちょ……姉上、抱きつかないで。苦しい……」
「……フフ、それじゃ私はお暇しますね。……そろそろ大殿にも、帰蝶のことを伝える必要がありますし」
小見さんはそう言い残して、静かに書庫から出ていった。
大殿……それって私の父親、斎藤道三のことなのかな?
「……姉上、いい加減離れて下さい……ホラ、早く紙と筆を持って!」
「……その前に、まずはお勉強かぁ……」
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