胡蝶の夢 ~帰蝶転生記~

剣太郎

文字の大きさ
上 下
2 / 23

斎藤家の娘達

しおりを挟む
 大変なことになってしまった。
 ちょっと歴史に詳しい(情報源は大体ゲームや漫画、ドラマ)以外は普通の女子高生だった私が、戦国時代とかいうやべー時代にやって来てしまった。

 ……てか、そもそもなんで私はここにいるんだ?
 なんかフワフワした変な空間で、蝶を見たところまでは覚えてるけど……その前が思い出せない。
 もしかして、これはただの夢なんじゃないか?
 さっきいたあの空間も、今思い返してみれば明らかに夢って感じだったし……

「帰蝶、大丈夫ですか? やり方を忘れてしまいましたか?」

「……はっ。いや、大丈夫です」

 いや、これはどう考えても夢じゃない。夢というにはリアルすぎるぞ。

「おねーさま! つぎはおねーさまのばんですぞ!」

「お幸、そう急かさないの。帰蝶は頭を打ったせいで少し記憶が飛んでいるのだから」

 取り敢えず、しばらくの間は無知を記憶喪失として誤魔化すことにした。
 どうやら転生前の帰蝶は木登りしていた時に頭から落っこちたらしく、それまでは眠っていたのではなく気を失っていたらしい。
 『うつけ姫』とか呼ばれている帰蝶のお転婆さには驚いたが、私にとっては好都合なことだ。

「ご、ごめんなさい……うーんと……」

 記憶を失っている体の私は、家族紹介も兼ねて『貝合わせ』なる遊びをやることになった。
 幾つもの並べられた貝殻の中から、ピッタリ合う2つを見つけ出すというこの時代の女性の遊びなのだが……貝殻の数はなんと360個。
 神経衰弱気分で始めてみたら度肝抜かれましたよ、こんなのプレイ時間長すぎだろ。

「……よし、これだ! ……うーん……」

 対になっている貝殻の内側には、同じ絵柄が描かれているのだが……全然違う、失敗だ。

「うう……中々上手くいかない。えっと、次は……」

「私ですね、お姉様……うーん、この出貝の紋様に合うのは……これかしら?」

「正解です。これでお蜜が首位になりましたね」

「さすがにございます、みつおねえさま」

「むうう……まだまけてません! つぎはわたしが……」

「これこれ、次の順番はお幸ではなくお貴ですよ」

 こうして一緒に貝合わせをしているのは、この世界での私の母親と妹達。
 私が長女で、次女がいかにも戦国のお姫様って感じの凛々しい雰囲気なお蜜ちゃん。
 三女が、大人しめな雰囲気のお貴ちゃん。
 それとは逆の、活発で元気な子が四女のお幸ちゃん。
 そして私達姉妹を側で見守っているのが、超美人な私のお母さん。周りの人からは小見の方って呼ばれている。

「つ、つぎはわたしですか……えーっと……」

「……たかおねーさま、おそい」

「急かしてはいけませんよ。お貴はじっくりと考えて正解を導き出す人間なのです。即断即決のお幸と一緒にしてはいけませんよ」

「母上様の言う通りです。貴には貴のやり方があるのですから、幸の都合を押しつけるべきではありません」

「……はーい」

 ……いやあ、皆人間出来てるなぁ。
 昔の人は成人が早いっていうけど、それだけ精神の成長が早いってことなんだよね。
 ……あー、私は一体前世でなにやってきたんだろう。
 お蜜ちゃんは11歳らしいけど、私がその歳の頃なんて……うん。絶対お蜜ちゃんみたいなことは言えないや。

 まあ精神的にはともかく、肉体的には私はこの子達と大差無い年齢になってるんだけどね。
 小見さんによると、今の私は12歳らしい。
 女子高生から5つくらい若返ったわけだ。たかが5つかもしれないが、若いうちの5つはかなり大きい……と思う。

 ……まあ、年齢なんてどうでもいいんだ。とにかく私は、この戦国時代から現代に戻る方法を探さなきゃいけない。
 ……でも、どうやったら現代に戻れるんだろう。
 今のところは、寝て起きたら戻ってたってパターンに期待するしかなさそうだなぁ……

「ほれ、つぎは帰蝶の番ですよ?」

「は、はい。……えーっと……」

 ……まぁ、それについてはのんびり考えよう。
 幸い私はお姫様って身分なわけだから、身の安全は保障されてるだろうし。

「……よしっ、これだ! ……違うや」
しおりを挟む

処理中です...