17 / 25
空気?
しおりを挟む
またまたやってきました、庭師の管理小屋。
今ここでは、素材の集まったゴムのボールとグローブの開発が進められているところであります。
いや~、楽しみだよね。もうすぐボールとグローブが手に入るんだよ。
まずは第一歩、ってところだけどさ。
僕は月面に上陸したような気分だ。
…………まあ、そんな経験は無いんだけどね。
でもでも、わかるでしょう。僕が苦労したわけではないけど、苦節二週間。ついにこの時が!
って、来るのは、まだ先の話かあ。ざんねん……。
さて、そんなおとぼけは置いておくとして、予想通りボールの設計は苦労しているみたいだ。たぶん配合の問題なんだろうけど、こればっかりは僕でもわからない。まあ、何度も実験して最適な割合を探し出すことは必須だから、頑張ってもらいたいと思う。
けれど、グローブに関しては順調だ。要はガープ牛の皮を鞣して、僕の記憶にある姿を再現するだけ。分解図もわかるから、後はハサミで切って縫い合わせれば完成。
タンポポ羊の綿毛は綿のような羊毛だったし、素材としては上物ってだけで、これなら他の素材でも代用できるから問題なし。
この世界に綿はないのかと思ってたけど、普通にあった。たぶんあの検索機能は、最適解を教えてくれるだけなのだろう。
でも、グローブの形状もポジションによって違うから、キャッチャーミットなんかは手が痛くならないように、いい素材で作るべきだよね。
ピッチャーの調子をよく見せるために綿を抜いて捕るなんて話もあるけど、それじゃあ痛いだろうから、お薦めできないかな。
みんなが快適で楽しくをモットーに! を、目指して頑張りたい。
なんて、一人で盛り上がっていると、トムさんから声が掛かった。
「坊っちゃん、少しよろしいですかな?」
「あ、うん。だいじょうぶだよ」
「とりあえず、試作品ができたでな、見てほしいんじゃが」
そう言って彼が差し出した物を受け取ると、それはやや硬いボール。これはこれで有りだと思うけど、試しに鑑定してみた。
【やや硬いゴムのボール】
そうだよね。
う~ん、たぶんゴムの皮が厚いんだと思うけど、中の空気はどうやって入れているんだろう。
ちょっと聞いてみよう。
「トムさん、少し聞きたいんだけど、空気入れって、わかる?」
「ふむ、空気入れ? それは何でございましょう」
ああ、やっぱりか。
もしかしたら空気の概念が無いのかもしれないと思っていたら、その通りだった。
「えっとね、空気っていうのは、僕たちの周りに浮かんでいるものだよ。目には見えないけど……」
「ほう、我々の周りに……ですか。ふむ、ですが目に見えないのでは認識しようがありませんな」
トムさんは周りをキョロキョロ窺いながらそう口にするが、見えるはずもない。
でも、それを感じることは出来るので、僕はあるものの作成を依頼する。
「ちょっと説明したいから、最初に僕が言うものを作ってもらえる。竹筒の節の部分って言ったらわかるかな。白いところに穴をあけて、竹ずつの内径に合うサイズの棒を用意してもらえる?」
僕は簡単な説明と、そのデザインを紙に描き、トムさんに渡した。
この世界は不思議なもので、紙やインクのようなものはあるのに、空気のような知識はないらしい。
ずいぶんと歪な発展を遂げているような気がするけど、歴史を紐解けばそんなものだったような気もする。
確か、紙は六世紀ごろに中国から日本へ伝わったって聞いたけど、酸素を発見した人は十八世紀の自然哲学者だったような……。
でも、うちわや扇子、それに空気を利用した楽器なんかもあるのに、空気がわからないってどういうことだろう。
でもまあ、それはいいや。たぶん、認識の違いだろうし。
「ふむ、やってみましょう。少々、お待ちくだされ」
トムさんはボクの描いた絵を参考に、試作品を作ってくれるようだ。見た目は簡単な水鉄砲って感じだけど、目的は十分果たせるだろう。
本当は蛇腹にして空気を取り込む仕様の方が効果は大きいと思うけど、まずは理解からだからね。うまくすればアコーディオンだって再現できるかもしれないし。
トムさんは奥の部屋に入り、およそ三十分ほどでお願いした物を作ってきた。
「坊ちゃん、これでよろしいかな?」
「うん、希望通りだよ」
じゃあ、さっそく準備に取り掛かろう。
やるべきことは簡単。穴の広い方から棒で押し、空気を圧縮させて細い方から出すだけ。
これでトムさんの肌に風を当てれば、見えない何かがあるってわかる寸法だ。
「じゃあ、いくね。はい、どう?」
「おおっ、これは、風ですな。室内であるにもかかわらず風が起こるとは。もしやこれをゴムのボールの中に吹き込んでやれば、中が膨らんで。となれば、最初はもっと小さくする必要があるか、ブツブツ……」
うん、どうやら成功したみたいだ。あとは任せておけば、勝手に開発してくれるでしょう。
僕は出来上がりを楽しみに、部屋へと戻った。
今ここでは、素材の集まったゴムのボールとグローブの開発が進められているところであります。
いや~、楽しみだよね。もうすぐボールとグローブが手に入るんだよ。
まずは第一歩、ってところだけどさ。
僕は月面に上陸したような気分だ。
…………まあ、そんな経験は無いんだけどね。
でもでも、わかるでしょう。僕が苦労したわけではないけど、苦節二週間。ついにこの時が!
って、来るのは、まだ先の話かあ。ざんねん……。
さて、そんなおとぼけは置いておくとして、予想通りボールの設計は苦労しているみたいだ。たぶん配合の問題なんだろうけど、こればっかりは僕でもわからない。まあ、何度も実験して最適な割合を探し出すことは必須だから、頑張ってもらいたいと思う。
けれど、グローブに関しては順調だ。要はガープ牛の皮を鞣して、僕の記憶にある姿を再現するだけ。分解図もわかるから、後はハサミで切って縫い合わせれば完成。
タンポポ羊の綿毛は綿のような羊毛だったし、素材としては上物ってだけで、これなら他の素材でも代用できるから問題なし。
この世界に綿はないのかと思ってたけど、普通にあった。たぶんあの検索機能は、最適解を教えてくれるだけなのだろう。
でも、グローブの形状もポジションによって違うから、キャッチャーミットなんかは手が痛くならないように、いい素材で作るべきだよね。
ピッチャーの調子をよく見せるために綿を抜いて捕るなんて話もあるけど、それじゃあ痛いだろうから、お薦めできないかな。
みんなが快適で楽しくをモットーに! を、目指して頑張りたい。
なんて、一人で盛り上がっていると、トムさんから声が掛かった。
「坊っちゃん、少しよろしいですかな?」
「あ、うん。だいじょうぶだよ」
「とりあえず、試作品ができたでな、見てほしいんじゃが」
そう言って彼が差し出した物を受け取ると、それはやや硬いボール。これはこれで有りだと思うけど、試しに鑑定してみた。
【やや硬いゴムのボール】
そうだよね。
う~ん、たぶんゴムの皮が厚いんだと思うけど、中の空気はどうやって入れているんだろう。
ちょっと聞いてみよう。
「トムさん、少し聞きたいんだけど、空気入れって、わかる?」
「ふむ、空気入れ? それは何でございましょう」
ああ、やっぱりか。
もしかしたら空気の概念が無いのかもしれないと思っていたら、その通りだった。
「えっとね、空気っていうのは、僕たちの周りに浮かんでいるものだよ。目には見えないけど……」
「ほう、我々の周りに……ですか。ふむ、ですが目に見えないのでは認識しようがありませんな」
トムさんは周りをキョロキョロ窺いながらそう口にするが、見えるはずもない。
でも、それを感じることは出来るので、僕はあるものの作成を依頼する。
「ちょっと説明したいから、最初に僕が言うものを作ってもらえる。竹筒の節の部分って言ったらわかるかな。白いところに穴をあけて、竹ずつの内径に合うサイズの棒を用意してもらえる?」
僕は簡単な説明と、そのデザインを紙に描き、トムさんに渡した。
この世界は不思議なもので、紙やインクのようなものはあるのに、空気のような知識はないらしい。
ずいぶんと歪な発展を遂げているような気がするけど、歴史を紐解けばそんなものだったような気もする。
確か、紙は六世紀ごろに中国から日本へ伝わったって聞いたけど、酸素を発見した人は十八世紀の自然哲学者だったような……。
でも、うちわや扇子、それに空気を利用した楽器なんかもあるのに、空気がわからないってどういうことだろう。
でもまあ、それはいいや。たぶん、認識の違いだろうし。
「ふむ、やってみましょう。少々、お待ちくだされ」
トムさんはボクの描いた絵を参考に、試作品を作ってくれるようだ。見た目は簡単な水鉄砲って感じだけど、目的は十分果たせるだろう。
本当は蛇腹にして空気を取り込む仕様の方が効果は大きいと思うけど、まずは理解からだからね。うまくすればアコーディオンだって再現できるかもしれないし。
トムさんは奥の部屋に入り、およそ三十分ほどでお願いした物を作ってきた。
「坊ちゃん、これでよろしいかな?」
「うん、希望通りだよ」
じゃあ、さっそく準備に取り掛かろう。
やるべきことは簡単。穴の広い方から棒で押し、空気を圧縮させて細い方から出すだけ。
これでトムさんの肌に風を当てれば、見えない何かがあるってわかる寸法だ。
「じゃあ、いくね。はい、どう?」
「おおっ、これは、風ですな。室内であるにもかかわらず風が起こるとは。もしやこれをゴムのボールの中に吹き込んでやれば、中が膨らんで。となれば、最初はもっと小さくする必要があるか、ブツブツ……」
うん、どうやら成功したみたいだ。あとは任せておけば、勝手に開発してくれるでしょう。
僕は出来上がりを楽しみに、部屋へと戻った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~
さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。
衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。
そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。
燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。
果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈
※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。
しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。
確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。
それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。
異父兄妹のリチェルと共に。
彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。
ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。
妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。
だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。
決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。
彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。
リチェルを救い、これからは良い兄となるために。
「たぶん人じゃないヨシッッ!!」
当たれば一撃必殺。
ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。
勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。
毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。
投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~
カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。
「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」
魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる