元高校球児の僕だけど、異世界転生したら称号が球界のプリンスだった

かわなお

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ヒューイの視点②――アロン樹――

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 私は殿下の望みを叶えるため、中隊を率いて狩りに出た。

 ターゲットとなるのはゴムの木とアロンじゅ、それにネンチャクカマキリの三体。
 ゴムの木は小型の魔木で移動もないため、見つけさえすれば倒すのは簡単だ。居場所も特定できているので問題はない。

 けれど、アロン樹は非常に厄介な魔物だった。

 大型の魔木であるため一撃が重く、振り回される枝も広範囲とあって大きな被害が予想できる。
 殿下からは一人の犠牲者も出さないようにと念を押されているが、本音を言えば確証は出来ない。

 それでも、あの御方を悲しませるようなことは絶対にすべきではないと、私の本能が告げていた。

「どうしたらいい?」

 火矢を打ち込んで燃やしてしまえば手っ取り早いが、それだと根まで燃えてしまう可能性もある。だが、だからといって切り倒すなんてことは、不可能だ。

 う~ん、悩ましい。

 いっそ、燃やしてしまって根が残るまで狩り続けるか。それなら被害も少なくて済むが……。

 私は難題であるためか、良い考えが思い浮かばずに悩んでいた。

 そこへ女性騎士であり、小隊長の一人・リティスが手を挙げる。

「副団長殿、私の案を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」

 彼女は五人の小隊長の内、唯一の女性隊長で、私の側近とも呼べる人物だ。
 物怖ものおおじも無くハッキリとものを言うので、信頼を置いている。

「ああ、構わぬ。気が付いたことがあったら言ってくれ」

「はっ、ありがとうございます。私は根を燃やさないためにも、水をかけてしまえばよいと考えます。まず火矢で射掛け、頃合いを見て根に水をかける。これで根は残ると思われます。水はで補給できますし、あらかじめ桶に汲んでおけば後れを取ることもありません」

 私はその的確なアドバイスに感心した。当然水をかければ根が残るなどわかり切ったことだったが、魔石から出る水を溜めておく発想は無かった。

 魔石から出る水の量などたかがしれているし、近くに小川でもあるなら話は別だが、生憎あいにくここは山の中だ。巨体のアロン樹の根を水浸しにするほどの水量を確保するなど、無理だと考えていた。

 なら、魔石の量を多くすればいい。

 と、考える者もいるかもしれないが、魔石とはこの国にとっても貴重な資源であり、そう簡単に手に入るものではないのだ。

「魔石か……」

「はい、私たちは輸送を任されておりますので、至急王都へ使者を送り、青い魔石と桶を大量に運ばせましょう。それを待って戦いに赴けば、必勝は確実かと」

 なかなか、いい案だ。
 この件の依頼主がマルクス殿下であられる以上、陛下から許可も下りるだろう。

「よし、その案で行こう。水の準備はそなたに任せる。我々はまずゴムの木の討伐からだ」

「「「「「 ハッ! 」」」」」

 こうして私はゴムの木とアロン樹のいるバルベラの森へ向かった。




 ☆ ☆ ☆ 




 ここバルベラの森は、多くの魔物が生息する危険地帯だ。
 ゴムの木やアロン樹だけでなく、ホーンベアやグレートボア、フォレストウルフなどの動物型の魔物も数多く生息している。

 ただ、その中でもゴムの木は比較的近場に生息するため問題はない。
 大きさも3メートルから5メートル程度の低木であるため、一気に接近して切り倒せばいいだけだ。
 
 私たちはゴムの木を難なく二十体倒し、その後は回収班にゴムの木の樹脂を任せ、残った三小隊で更に奥へ進んで行く。

 時折襲い来る小型の魔物を薙ぎ払い、アロン樹の潜む領域へと近づいて行った。
 魔木は生息域を住み分けしており、この辺りにアロン樹の住処であるのだ。

 私たちは桶を積んだ輸送部隊が追い付くのを待って、行動を開始する。
 ここまでくればいつ遭遇してもおかしくないため、火矢部隊、そして水部隊とどちらも準備万端だ。

 輸送部隊を待っている間に迎え撃つ広場も確保し、あとは先行している私が敵を見つけるだけなのだが、どうにもあの先が怪しい。獲物の気配がヒシヒシと伝わってくる。

 バルベラの森は高い木々が多く薄暗いため見通しも悪いが、そこは更に暗く靄の掛かっているようにも見えた。

 私は慎重に進み、それがアロン樹であるかと確認すると、やはりいた。

 伝令のため後についてきた騎士の一人に合図を送り、彼はそのまま踵を返し、仲間たちのもとへ駆けて行く。

 残った私がこれから行う役目は火矢で森に被害を出さないため、準備した広場までアロン樹を誘導することだ。

 距離にしておよそ三百メートルほどではあるが、確実に逃げ切れる保証もない。
 今はまだこちらに気づいていないように見えなくもないが、果たして……。

 しかし、残念ながらアロン樹の目が開く。

 一メートルはありそうな太い幹に浮かび上がる、巨大な目と口。
 根が足の代わりであるようで、地面に埋まる根をドゴッと抜き出し立ち上がった。

「十二メートルくらいか。まだいい方だな」

 その大きさを見れば恐怖心が湧く。
 私の六倍もの巨体なのだから、ある意味仕方のないことではあるが……。

「ふう」

 剣を抜き、構えをとる。
 まずは誘導するためにも、一撃を入れなければならない。
 できることなら目を開ける前にしたかったことだが、今更だろう。

 動きを止めてはダメだと自身に言い聞かせ、私は剣を振るう。

 ガキッ

 近づいての幹への一撃。十分に力を込めたはずだが、硬くて跳ね返された。
 その瞬間、振り払われた巨大な木の枝むち

 と同時に、反射的に私の身体は地面を転がっていた。

 速い……。

 咄嗟に避けたものの、紙一重だ。

 だが、目論見通りアロン樹は動き始め、私を標的と定めたらしい。
 あとはこのまま誘導するだけなのだが、出来るのか。

 私は踵を返し、走り出す。直線的な動きでは的を絞られてしまうため、木々の間を抜け、なるべく複雑に。
 
 けれど、そんな私をあざ笑うかのように、アロン樹はものともせず追いついてくる。邪魔な木々は枝の一振りで薙ぎ倒され、巨体もあってか動きは遅そうに見えるが、進みも速い。

 遠い。

 仲間たちのもとまでが、遠すぎる。
 たったの三百メートル、走れば一分もかからない距離なのに遠かった。

 迎え撃つ? ダメだ、剣は通らない。
 じゃあ、どうするんだ。

 そんな時だ。
 前方から数本の矢が射られた。

 見れば、仲間たちが五十メートルほど先から援護の射撃をしていた。
 アロン樹には全く効いていないが、意識を逸らすことには成功したらしい。

「副団長、急いでください!」

「もう少しです!」

「バカ者が……」

 これは帰ったら厳罰ものだな。
 そう思う私もいるが、本音は嬉しかった。

 軍というものはこうあるべきではないが、自身の判断で動くことができてこそ、生存率も上がるというものだ。

「みな、急いで引け!」

「「「「「はい!」」」」」

 嬉しそうに返事をして、駆け出す仲間たち。
 私を助けることができたと、喜んでくれているのだろう。
 まだ微妙な段階ではあるが、広場まで辿り着ければ、火矢部隊が矢をつがえる者と、赤い魔石で火をつける者に分かれて待っているはずだ。
 

 しかし……、背後では『ザザザ、ザザザ』と根を引きずる音が大きくなり、それと同時に鞭のようにしなった枝が振るわれ、『バチィーーン』という大きな音が響き渡る。

 あんなもん喰らえば、一撃で死ぬだろう。
 仲間たちも的を絞らせないように動くことで、どうにか逃れているが、掴まるのは時間の問題だ。

 距離にしてあと三十メートル。それがどんなに長いことか。

 けれど……、我々は辿り着いた。

 火矢の射程に入り、次々と矢が放たれる。
 それは的確に命中し、アロン樹の上の方の細い葉から燃え始めた。

「よしっ!」

 あとはまだまだ火矢を射掛け、ヤツの動きが弱くなったら根に水をぶっかけるだけだ。

「火矢をどんどん射掛けろ!」

「「「「「「「「「「 おおっ! 」」」」」」」」」」

 私の声に合わせ、火矢の数も増える。
 すべてがアロン樹に燃え移るわけではないが、順調だ。

 最後の力を振り絞り、必死で火の点いた枝を振り回すアロン樹の攻撃を避け、弱ってきたあたりでリティスに指示を出す。

「水部隊、前へ」

「「「「「「「「「「 ハッ! 」」」」」」」」」」

 女性の騎士が小隊長を務めるだけあって統率のとれた返事をし、一斉に前に進む騎士たち。それぞれの手には水一杯の桶を持ち、根に掛けたら素早く戻るの繰り返しだ。

 水は準備されているので問題ない。
 時折飛んでくる火の点いた枝を掻い潜り、じゃぶじゃぶと水を掛けていく。

 そうこうしているうちにアロン樹は「ギイャアアァァァアアアアアアア」という断末魔を上げて炭となり、水にぬれた根だけがキレイに残った。

「「「「「「「「「「 終わった 」」」」」」」」」」

「よし、根を切り離せ」

 私の指示で回収班が根を切り離す。そして運んできた大型の荷馬車に積み込み、城へと戻る。

 残った我々はネンチャクカマキリの捜索へ向かうも、結局見つけられず、捜索部隊を残し帰宅の途に就いた。

 これ以上無駄な兵糧を使わないため、そして疲れの残った状態で戦うことを避けるための、懸命な判断であったのだ。



 そして私は、アロン樹の燃えたカスから一粒の魔石を拾っていた。
 小石ほどのサイズで、土色の魔石。 

 そう、魔石は魔物の体内で生成され、倒すと手に入ることもある貴重な石なのである。
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