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お手玉

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 翌日、ヒューイが騎士団を率いて素材を集めに行った。

 昨日の言葉通り、本当に中隊を率いていたことには驚いたが、行ってしまった以上は『みんな無事に帰ってきて』と、願うばかりである。

「殿下、いかがなさいましたかな」

「ごめんなさい。王国の歴史が難しくて」

「そうでございましたか。ですが、歴史というものは歴代の王族による清廉なる統治の賜物で――――――」

 あちゃ~、また始まっちゃった。こうなると長いんだよなぁ。
 いや、わかるよ。わかるけど、僕はまだ五歳だからね。もっとこう興味を引くこととかあるでしょう。例えば身近な……街の様子だとか、どんなことが流行っているだとか。
 そりゃあ大事なことはわかるけどさ。

 僕の王子教育を担当するのは、執事のトマスだ。父上が子供の頃から執事をしていたらしく、筆頭執事を経て、今は僕の教育係に納まっている。
 そのため、何かにつけて父上と比べられ、やりにくいったらありゃしない。
 でも、僕を大切に思ってくれていることは伝わってくるから、文句も言えないし……。

「――――――であります。ですので、殿下もご先祖様の名に恥じぬよう、心がけていただきたいものですな」

「は~い」

「殿下、『は~い』ではなくて、『はい』でございます」

 ありゃ、元気よく返事したら、失敗しちゃった。
 次は、気をつけよう。

 そう思っていたら、どうやら授業は終わりらしい。

「では、今日はここまでと致しましょう」

 ふぅ……、やっと終わった。長い、長いよ。人は集中できる時間が決まっているんだから、せめて四十分くらいにしてよね。でないと、ダラダラしているだけで、何にも身につきゃしない。

 でも、ここからは自由時間だ。今日は何しようかな。

 僕が部屋の中を見渡すと、部屋の隅に控えていたメアリーが、手に何か持っていた。

「メアリー、それって?」

「はい、お手玉でございます」

 おおっ、お手玉はあったのか。
 まあ、布地に小豆を入れて包むだけだから、あっても不思議じゃないけど、流石に食料は貴重だよね。
 とすると、中身は何だろう。

「ねえ、布の中には何が入っているの?」

「中身ですか。確か、草の実だったと思います」

 僕が尋ねると、メアリーがそう教えてくれる。

 でも、草の実って、なんの種類だろう。
 たぶん何かの種ってことだよね。
 よく考えてみたら、この世界で小豆が食料になっているのかも分からないし、ただの草の実扱いになっているかもしれない。

 ちょっと、調べてみるか。

 僕はステータスウィンドウを開いて、テキスト欄に記入。

『お手玉の素材』っと。

 えっと……。

――――――――――――――

 『お手玉』

 袋状に編んだ布の中に、アズキ草の実を入れたもの。

――――――――――――――

 まんまだった……。

 けど、盲点だったな。道具にこだわり過ぎてた。別に投げられたら何でもいいし、打つだけなら木の棒でもよかったよ。
 うん、もっと自由な発想で行こう。せっかく幼児に戻ったんだから、もっと柔軟にいかなきゃね。

 僕は少しばかり反省して、意識をお手玉に移す。
 たぶん、あの大きさなら十分キャッチボールになるだろう。

「ねぇ、メアリー。それ、僕に投げてくれる」

「あ、はい。では、行きますね。エイッ」

 おお、まさかのオーバースローだ。てっきり下から放り投げるかと思っていたのに。
 ……って、そんな悠長なこと言ってる場合じゃない。僕に取れるのか? 
 でも、後ろに逸らしたら大変なことになりそうだし。主に花瓶とか絵画とか……。

『ポシュ』

 よし! セーフ。

 良かったぁ。どうやら感は鈍っていなさそうだ。まだ身体の動きはぎこちないけど、これなら大丈夫そう。
 でも、メアリーにはちょっと注意が必要かな。

「ねえ、メアリー。部屋の中だから、こうやって下からトスするくらいじゃないと、飾ってあるものが壊れちゃうよ」

「あ、すみません。でも、トス? ですか」

 僕はメアリーがトスの意味をよくわかっていないみたいなので、手本を見せるために下から軽く放る。それを無事キャッチした彼女が、戸惑いながらも同じようにトスを返してきた。

「いいね、そんな感じ」

「うふふ、マルクス様。楽しいですね」

 うん、キャッチボールの楽しさを理解してくれたようで嬉しい。何度もお手玉の交換をしているうちに、夢中になってきたみたいだ。

 こんな簡単に楽しめるんだから、やっぱり野球って凄いよね。

 僕は手ごたえを感じ、期待に胸を膨らませるのだった。
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