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中庭の散策
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三十分後、使いに出した近衛騎士が戻ってきて、僕の外出許可はおりた。
けど、思っていたよりも時間が掛かったため尋ねてみると、呆れた理由が判明する。
「陛下が一緒に行くとゴネまして、宥めるのに苦労しました」
「…………」
ちょっと、待って。
父上は王様なんだから、ちゃんと仕事してよ。
まあ、息子にパパ呼びをお願いするような人だから、わからなくもないが……。
僕がうっかりパパって呼んでしまったのが原因なんだけど、それ以来ずっと言って欲しそうにしてくるから困ってるんだ。
でも、お願いする時に便利だから、ついね。
ただ、今回は無事に許可がおりたのだから、良しとしよう。
それよりも、これから僕は初めてお城の外へ出るんだ。すっごく楽しみ。
中庭だけど……。
そんな僕の一喜一憂など関係なく、外出準備は着々と進められる。
どうやら近衛騎士が新たな護衛を連れて来たらしく、メアリーが紹介してくれた。
「マルクス様、こちらは護衛を務めてくださる、ヒューイ様ですよ。王国騎士団の副団長さんですから、ご安心くださいね」
「はい」
「お初にお目にかかります、マルクス殿下。私は王国騎士団副団長を務めるヒューイと申します。此度は中庭をお散歩されるということで、護衛として参りました」
「よろしくね、ん?」
……いまなんか聞き捨てならない言葉があったような。
王国騎士団の副団長?
いや、僕、中庭に出るだけだよね。
お城の外って、そんな物騒なの?
まさか、これも父上の差し金?
「はい、陛下はマルクス殿下をたいそう可愛がっておられますから」
……あれ、この人、いま僕の心を読んだよね。間違いなく読んだよね。
「はい、殿下は表情豊かでいらっしゃいます」
ぐをおおおっ、マジか。
だから昨日もメアリーにはバレバレで……。やべえ、心を鎮めなきゃ。また熱が出ちゃう。
僕の感情が、顔に出てるとは思わなかった。
マジで、恥ずかしいんだけど。
……今度から気をつけよう。
そんなことを考えつつも、僕はメアリーと手を繋いで廊下を歩く。
その後ろをヒューイが付いてくるのだけれど、彼は鎧などを身につけておらず、普段着のような装いだ。
その後ろを歩く近衛騎士がガチガチの鎧で身を固めているのに、変だよね。
でも、今は初の外出が楽しみで仕方がないので、保留。
「ねえ、中庭って、どんなとこ?」
「はい、そうですねえ……。中庭は王宮と王城を繋ぐ通路の役割をしていまして、陛下と王妃様がよくそこで愛を語り合ったとか。とってもきれいで素敵な場所ですよ」
「そうなんだ、父上と母上が……。うん、僕も早く見たいな」
僕はますます楽しみになり、歩く足も早まる。
見つけた階段を急いで降りようとすると、メアリーに止められた。
「マルクス様、危ないのでゆっくりおりましょうね」
「は~い」
そうだった。
僕は昨日ケガをしたばかりだった。
あれほど反省したのにもう忘れるって。
何してんだろうね、僕……。
でも、その階段を二階分降りると、すぐ目の前が中庭だった。
僕の部屋は五階にあるのに、変だよね。
「はい、マルクス様。着きましたよ」
「えっ、でもここ三階だよ」
「はい、中庭は三階にありますから」
「そうなの?」
僕は中庭と聞いていたので、てっきり外を散歩するのかと思っていたら、どうやら違ったらしい。
そこは庭園風の渡り廊下とでも言ったらいいか、知らなければ三階とは気づかないほどの広い庭だった。
「よし、行くぞ」
僕は記念すべき第一歩踏み出し、初めての外出を試みる。
もちろんそこに何か障害があるわけではないけど、転生して初めて王宮の外へ出るんだ。
緊張しないわけがない。
でも……。
「すっごくキレイ」
僕は一瞬でその景色に心を奪われた。
目の前には歩経路を彩る赤や黄色、ピンクの花々。その先にはアーチ状に縁どられた薔薇のトンネルが待ち構えていて、僕の冒険心をくすぐった。
「なんか、ワクワクするね」
「はい、私も素晴らしいと思います」
ここを何度も見たであろうメアリーも僕の気持ちに合わせて、一緒になって感動してくれた。
これだけの仕事をしてくれる庭師なら、期待が持てる。
そう確信を得ていると、僕を両手でヒョイっと持ち上げる人物がいた。
「殿下、ここからならもっとよく見えますよ」
「うん、ありがとう」
僕は抱き上げた人物、ヒューイへお礼を言う。
彼の身長は二メートル弱くらいで、鍛え上げられた肉体と僕を抱っこしての安定感は抜群だ。
更には金髪で爽やかイケメンって、さすがは異世界。
前世チビだった僕にはコンプレックスの対象でしかないが、今世はふわっふわの金髪で、瞳の色も淡い青。まだ体型はプニプニだけど、父上や母上、兄上たちや姉上たちを見ていると、カッコよくなれそうな気がするんだ。
だから、不満はない。
ただ、護衛の騎士が両手を塞ぐって大丈夫なのって思ったけど、目線が高くなってわかった。
何この状況。
僕たちの後ろに控える近衛騎士が五名。他にもメイドが三人いて、執事が二人。そして、お医者さんらしき白衣を着た人もいて、総勢が十四人って、どうなの?
これも父上の仕業とわかっているけど、ここ中庭だよ。
いったい、何が襲ってくるっていうんだ。
「ハァ……」
なんか、ドッと疲れた。
でもまあ、気を取り直して出発だ。
父上が過保護すぎるなんて、今始まったことじゃないからね。
僕は気を取り直して、高くなった視線で中庭を堪能。
庭師たちがいる小屋まで、美しい景色を楽しんだ。
その間に、僕がこっそり鑑定したヒューイのステータスがこれである。
――――――――――――――――――
(名前) ヒューイ・ウェストフォリア (年齢)25歳 (性別)男
(所属) ウェストフォリア公爵家嫡男
王国騎士団副団長
第五殿下の護衛
(能力)
(ちから) 75/90
(スタミナ) 80/90
(知力) 81/90
(走力) 85/90
(遠投力) 52/90
(守備力) 78/90
(長打力) 64/90
(統率力) 90/90
――――――――――――――――――
えっと、ヤバくない?
ヒューイが公爵家ってのもそうだけど、分母が全て90だし、それ以外の数値もマジで高い。
今まで調べた中で、僕を除くと最高。
もしこれが野球ゲームの能力値じゃなきゃもっと楽しめたのに……。
僕はそっと心に蓋をし、改めて管理小屋へと意識を向けた。
すると、入口でメアリーがドアをノックし、僕の訪問を告げる。
「トムさんはおられますか? マルクス様がお会いになりたいそうなので、取次ぎを願います」
すでに先触れは出しているが、対応に出たのは別の人らしい。
トムさんは庭園管理者筆頭らしいから、当然の対応だ。
中からドアが開き、僕たちを招き入れる。といっても、これだけの人数は入れないので、僕とメアリー、それに護衛のヒューイだけだ。
もちろん僕は、彼の抱っこから降ろしてもらっている。
そして建物の奥まで案内され、そこで待っていた五十代後半くらいと思われる人物から紹介を受けた。
「おお、これは坊ちゃん、大きくなられましたな。覚えてないかと思いますが、儂はトム。まだ坊ちゃんがこれっぽっちの時に抱かせて貰いましたのじゃ」
え……って、当たり前か。僕はこの国の王子だからね。
でも、トムさん。僕が小さい時だからって、親指と人差し指の間で表現するのはやめてくれる。
いくらなんでもそれはないからね。僕、人間だよ。
まあ、神様の使徒みたいなことにはなっているけど……。
でも、ようやく目的の人物と会えた。
これで、一歩前進かな。
けど、思っていたよりも時間が掛かったため尋ねてみると、呆れた理由が判明する。
「陛下が一緒に行くとゴネまして、宥めるのに苦労しました」
「…………」
ちょっと、待って。
父上は王様なんだから、ちゃんと仕事してよ。
まあ、息子にパパ呼びをお願いするような人だから、わからなくもないが……。
僕がうっかりパパって呼んでしまったのが原因なんだけど、それ以来ずっと言って欲しそうにしてくるから困ってるんだ。
でも、お願いする時に便利だから、ついね。
ただ、今回は無事に許可がおりたのだから、良しとしよう。
それよりも、これから僕は初めてお城の外へ出るんだ。すっごく楽しみ。
中庭だけど……。
そんな僕の一喜一憂など関係なく、外出準備は着々と進められる。
どうやら近衛騎士が新たな護衛を連れて来たらしく、メアリーが紹介してくれた。
「マルクス様、こちらは護衛を務めてくださる、ヒューイ様ですよ。王国騎士団の副団長さんですから、ご安心くださいね」
「はい」
「お初にお目にかかります、マルクス殿下。私は王国騎士団副団長を務めるヒューイと申します。此度は中庭をお散歩されるということで、護衛として参りました」
「よろしくね、ん?」
……いまなんか聞き捨てならない言葉があったような。
王国騎士団の副団長?
いや、僕、中庭に出るだけだよね。
お城の外って、そんな物騒なの?
まさか、これも父上の差し金?
「はい、陛下はマルクス殿下をたいそう可愛がっておられますから」
……あれ、この人、いま僕の心を読んだよね。間違いなく読んだよね。
「はい、殿下は表情豊かでいらっしゃいます」
ぐをおおおっ、マジか。
だから昨日もメアリーにはバレバレで……。やべえ、心を鎮めなきゃ。また熱が出ちゃう。
僕の感情が、顔に出てるとは思わなかった。
マジで、恥ずかしいんだけど。
……今度から気をつけよう。
そんなことを考えつつも、僕はメアリーと手を繋いで廊下を歩く。
その後ろをヒューイが付いてくるのだけれど、彼は鎧などを身につけておらず、普段着のような装いだ。
その後ろを歩く近衛騎士がガチガチの鎧で身を固めているのに、変だよね。
でも、今は初の外出が楽しみで仕方がないので、保留。
「ねえ、中庭って、どんなとこ?」
「はい、そうですねえ……。中庭は王宮と王城を繋ぐ通路の役割をしていまして、陛下と王妃様がよくそこで愛を語り合ったとか。とってもきれいで素敵な場所ですよ」
「そうなんだ、父上と母上が……。うん、僕も早く見たいな」
僕はますます楽しみになり、歩く足も早まる。
見つけた階段を急いで降りようとすると、メアリーに止められた。
「マルクス様、危ないのでゆっくりおりましょうね」
「は~い」
そうだった。
僕は昨日ケガをしたばかりだった。
あれほど反省したのにもう忘れるって。
何してんだろうね、僕……。
でも、その階段を二階分降りると、すぐ目の前が中庭だった。
僕の部屋は五階にあるのに、変だよね。
「はい、マルクス様。着きましたよ」
「えっ、でもここ三階だよ」
「はい、中庭は三階にありますから」
「そうなの?」
僕は中庭と聞いていたので、てっきり外を散歩するのかと思っていたら、どうやら違ったらしい。
そこは庭園風の渡り廊下とでも言ったらいいか、知らなければ三階とは気づかないほどの広い庭だった。
「よし、行くぞ」
僕は記念すべき第一歩踏み出し、初めての外出を試みる。
もちろんそこに何か障害があるわけではないけど、転生して初めて王宮の外へ出るんだ。
緊張しないわけがない。
でも……。
「すっごくキレイ」
僕は一瞬でその景色に心を奪われた。
目の前には歩経路を彩る赤や黄色、ピンクの花々。その先にはアーチ状に縁どられた薔薇のトンネルが待ち構えていて、僕の冒険心をくすぐった。
「なんか、ワクワクするね」
「はい、私も素晴らしいと思います」
ここを何度も見たであろうメアリーも僕の気持ちに合わせて、一緒になって感動してくれた。
これだけの仕事をしてくれる庭師なら、期待が持てる。
そう確信を得ていると、僕を両手でヒョイっと持ち上げる人物がいた。
「殿下、ここからならもっとよく見えますよ」
「うん、ありがとう」
僕は抱き上げた人物、ヒューイへお礼を言う。
彼の身長は二メートル弱くらいで、鍛え上げられた肉体と僕を抱っこしての安定感は抜群だ。
更には金髪で爽やかイケメンって、さすがは異世界。
前世チビだった僕にはコンプレックスの対象でしかないが、今世はふわっふわの金髪で、瞳の色も淡い青。まだ体型はプニプニだけど、父上や母上、兄上たちや姉上たちを見ていると、カッコよくなれそうな気がするんだ。
だから、不満はない。
ただ、護衛の騎士が両手を塞ぐって大丈夫なのって思ったけど、目線が高くなってわかった。
何この状況。
僕たちの後ろに控える近衛騎士が五名。他にもメイドが三人いて、執事が二人。そして、お医者さんらしき白衣を着た人もいて、総勢が十四人って、どうなの?
これも父上の仕業とわかっているけど、ここ中庭だよ。
いったい、何が襲ってくるっていうんだ。
「ハァ……」
なんか、ドッと疲れた。
でもまあ、気を取り直して出発だ。
父上が過保護すぎるなんて、今始まったことじゃないからね。
僕は気を取り直して、高くなった視線で中庭を堪能。
庭師たちがいる小屋まで、美しい景色を楽しんだ。
その間に、僕がこっそり鑑定したヒューイのステータスがこれである。
――――――――――――――――――
(名前) ヒューイ・ウェストフォリア (年齢)25歳 (性別)男
(所属) ウェストフォリア公爵家嫡男
王国騎士団副団長
第五殿下の護衛
(能力)
(ちから) 75/90
(スタミナ) 80/90
(知力) 81/90
(走力) 85/90
(遠投力) 52/90
(守備力) 78/90
(長打力) 64/90
(統率力) 90/90
――――――――――――――――――
えっと、ヤバくない?
ヒューイが公爵家ってのもそうだけど、分母が全て90だし、それ以外の数値もマジで高い。
今まで調べた中で、僕を除くと最高。
もしこれが野球ゲームの能力値じゃなきゃもっと楽しめたのに……。
僕はそっと心に蓋をし、改めて管理小屋へと意識を向けた。
すると、入口でメアリーがドアをノックし、僕の訪問を告げる。
「トムさんはおられますか? マルクス様がお会いになりたいそうなので、取次ぎを願います」
すでに先触れは出しているが、対応に出たのは別の人らしい。
トムさんは庭園管理者筆頭らしいから、当然の対応だ。
中からドアが開き、僕たちを招き入れる。といっても、これだけの人数は入れないので、僕とメアリー、それに護衛のヒューイだけだ。
もちろん僕は、彼の抱っこから降ろしてもらっている。
そして建物の奥まで案内され、そこで待っていた五十代後半くらいと思われる人物から紹介を受けた。
「おお、これは坊ちゃん、大きくなられましたな。覚えてないかと思いますが、儂はトム。まだ坊ちゃんがこれっぽっちの時に抱かせて貰いましたのじゃ」
え……って、当たり前か。僕はこの国の王子だからね。
でも、トムさん。僕が小さい時だからって、親指と人差し指の間で表現するのはやめてくれる。
いくらなんでもそれはないからね。僕、人間だよ。
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