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2. 宿の案内
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クライスから宿泊部屋の案内を頼まれたので、2階に繋がる階段へ案内する。
「お泊りは何名様ですか?」
「お嬢様と、私に加えてもう一人護衛が付きますので、出来れば2部屋をお願いしたいのですが」
「わかりました。では、部屋の中の扉で繋がっている部屋がありますので、そこをご案内しますね。その方が護衛の方も安心でしょう」
護衛が付くほどのお嬢様らしい。平民扱いをしろとの事だがほんとうにこの宿で大丈夫だろうか。だがお客様である以上断わる事は出来ないし、出来る限り心地よく過ごしてほしい。うちには大部屋がない代わりに、中の扉で行き来出来る部屋が一組あるので、そちらを使用して貰うのが良いだろう。
「助かります。本当はお嬢様の部屋の中と外に護衛を立たせたいのですが、それは他の方の邪魔になるだろうからとお嬢様に却下されてしまいまして」
理由は邪魔とかいうレベルじゃないんだけど止めてくれてありがとうお嬢様!扉の前に常時護衛の人が立っていたら他のお客様が萎縮してしまう。
「こちらになります。中扉は施錠していませんので、ご自由にご覧ください」
部屋の扉を開けて中に案内すると、クライスはまず部屋の中をぐるりと見渡し、ふむ、と頷くと次に扉と窓の鍵を入念にチェックし、それが終わると窓の外を確認した。
(本当に危険がないかどうかの確認なんだ)
てっきりベッドの柔らかさやクローゼットの備品などを確認されると思っていたので拍子抜けした。
「ベッドの位置は動かしても構いませんか?出来れば、扉で繋がっている部屋の方の壁に沿わせたいのですが」
「あ、はい。場所を指定していただければお客様がいらっしゃるまでに動かしておきます」
「いえ、力仕事ですから、許可だけいただければ十分ですよ」
にっこりと微笑んでそう言ったクライスは、次に隣の部屋との間の扉を確認しながら質問を投げかけてきた。
「そういえば、他の従業員の方をお見かけしませんがお一人で運営されているのですか?」
「はい、繁忙期は街でお手伝いを募集して来ていただくこともありますが」
「失礼ですが、ご家族は…?」
「祖母と一緒に住んでおりました。元々この宿屋は祖母のもので、私は手伝いをしていました。2年前に他界しまして、それからは私一人です」
「それは大変でしたね…先程のご老人はお知り合いのようですが、カティアさんの様子を定期的に見てくださっているようでしたね。近くにお住まいなのですか?」
「ミゲルさんは祖母が存命の頃からの知り合いです。…先程見聞きされた事以外は、申し訳ないのですがお客様の個人情報ですので私からはお答えしかねます」
「…なるほど。うん、良い宿ですね」
(あ、もしかして試された?)
「失礼しました。しかし、あなたには安心してお嬢様を預けられるようだ」
やっぱり試してたのね、と少し不服に思いながらも笑みを絶やさずに光栄です、と返すとクライスはふふ、と笑った。
「気に入らない事があるとそれを隠そうと笑みを強くされるのも、好感が持てますよ」
「…!」
この人は一見ものすごく紳士の様だが、本性はものすごく失礼な人なのではないだろうか。お嬢様よりクライスの滞在の方が不安になってきた。
「感情が隠せていないとは大変失礼いたしました。まだまだ若輩者ゆえ、今回はお許しいただけますとありがたく存じます」
最高の作り笑顔で精一杯の嫌味で返す。
「ふふ、はははっ」
たまらず笑い出したクライスは、失礼、と手に口を当てて改め直し、
「先程待たせていただいている間に1階も拝見しましたが、とても居心地の良い宿だと感じました。お嬢様もお気に召すと思います。我々の滞在を受け入れてくださるなら、転移馬車の杭を打たせていただきたいのですが」
と、とんでもない爆弾発言をしたのだった。
「お泊りは何名様ですか?」
「お嬢様と、私に加えてもう一人護衛が付きますので、出来れば2部屋をお願いしたいのですが」
「わかりました。では、部屋の中の扉で繋がっている部屋がありますので、そこをご案内しますね。その方が護衛の方も安心でしょう」
護衛が付くほどのお嬢様らしい。平民扱いをしろとの事だがほんとうにこの宿で大丈夫だろうか。だがお客様である以上断わる事は出来ないし、出来る限り心地よく過ごしてほしい。うちには大部屋がない代わりに、中の扉で行き来出来る部屋が一組あるので、そちらを使用して貰うのが良いだろう。
「助かります。本当はお嬢様の部屋の中と外に護衛を立たせたいのですが、それは他の方の邪魔になるだろうからとお嬢様に却下されてしまいまして」
理由は邪魔とかいうレベルじゃないんだけど止めてくれてありがとうお嬢様!扉の前に常時護衛の人が立っていたら他のお客様が萎縮してしまう。
「こちらになります。中扉は施錠していませんので、ご自由にご覧ください」
部屋の扉を開けて中に案内すると、クライスはまず部屋の中をぐるりと見渡し、ふむ、と頷くと次に扉と窓の鍵を入念にチェックし、それが終わると窓の外を確認した。
(本当に危険がないかどうかの確認なんだ)
てっきりベッドの柔らかさやクローゼットの備品などを確認されると思っていたので拍子抜けした。
「ベッドの位置は動かしても構いませんか?出来れば、扉で繋がっている部屋の方の壁に沿わせたいのですが」
「あ、はい。場所を指定していただければお客様がいらっしゃるまでに動かしておきます」
「いえ、力仕事ですから、許可だけいただければ十分ですよ」
にっこりと微笑んでそう言ったクライスは、次に隣の部屋との間の扉を確認しながら質問を投げかけてきた。
「そういえば、他の従業員の方をお見かけしませんがお一人で運営されているのですか?」
「はい、繁忙期は街でお手伝いを募集して来ていただくこともありますが」
「失礼ですが、ご家族は…?」
「祖母と一緒に住んでおりました。元々この宿屋は祖母のもので、私は手伝いをしていました。2年前に他界しまして、それからは私一人です」
「それは大変でしたね…先程のご老人はお知り合いのようですが、カティアさんの様子を定期的に見てくださっているようでしたね。近くにお住まいなのですか?」
「ミゲルさんは祖母が存命の頃からの知り合いです。…先程見聞きされた事以外は、申し訳ないのですがお客様の個人情報ですので私からはお答えしかねます」
「…なるほど。うん、良い宿ですね」
(あ、もしかして試された?)
「失礼しました。しかし、あなたには安心してお嬢様を預けられるようだ」
やっぱり試してたのね、と少し不服に思いながらも笑みを絶やさずに光栄です、と返すとクライスはふふ、と笑った。
「気に入らない事があるとそれを隠そうと笑みを強くされるのも、好感が持てますよ」
「…!」
この人は一見ものすごく紳士の様だが、本性はものすごく失礼な人なのではないだろうか。お嬢様よりクライスの滞在の方が不安になってきた。
「感情が隠せていないとは大変失礼いたしました。まだまだ若輩者ゆえ、今回はお許しいただけますとありがたく存じます」
最高の作り笑顔で精一杯の嫌味で返す。
「ふふ、はははっ」
たまらず笑い出したクライスは、失礼、と手に口を当てて改め直し、
「先程待たせていただいている間に1階も拝見しましたが、とても居心地の良い宿だと感じました。お嬢様もお気に召すと思います。我々の滞在を受け入れてくださるなら、転移馬車の杭を打たせていただきたいのですが」
と、とんでもない爆弾発言をしたのだった。
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