32 / 35
トウモロコシ編
舞台
しおりを挟む
アルフォニカから南下すること3日。アラメタウルに到着した。ここにはトウモロコシがいる。早速聞き込みを開始した。
「お嬢ちゃん、あの人に用かい?」
「ええ。お届け物があります」
「なら、渡したら直ぐに離れた方が良い」
「なぜですか?」
「あの人は怪物だからだよ」
「怪物?」
「肌の色、性別、一人称がコロコロ変わる。それに視覚効果を使ってくる。それでいてひっそりと暮らしているから、逆に気味が悪い」
「どういうことですか?」
「会えば分かる」
道を聞き、トウモロコシの元へ向かった。
動物の鳴き声と共に、獣独特の匂いが鼻をさした。
――畜産を営んでいるって言ってたけど、結構大きい施設だな。
「あのー、すみませーん」
――返事がない。仕方ない。とりあえず入るか。
「ちょっと」
肩をつかまれた。振り返る。
「靴を消毒してもらわないと困るよ」
褐色銀髪の、細見で背の高い男が立っていた。
「あぁ、ごめんなさい」
――姿は無かった。気配も無かった。だから虚を突かれた。急に現れたとしか思えない。この男何者?
「消毒は終わったね。じゃあ案内するからついておいで」
肥育場に入る。
「ウチでは鶏を育ててるんだ。鶏は良いよ。卵も肉も羽も使える。経済的だ」
「そういう理由なんですね」
「勿論鶏が好きというのもあるから安心してくれ」
「別に攻めたわけでは……」
「分かってるよ。誰かに向けた良いわけさ」
鶏舎は4つあった。
「ウチでは鶏舎は4つ。2つはオス用、残りはメス用。掃除するときの引っ越し先として、2つは空けてあるんだ。これは鶏たちのための舞台なんだよね。それより今から集卵だ。せっかくだから体験してみない?」
「あ、じゃあ、やってみます」
「良い卵、汚れている卵、規格外の3つに分けてね。まずは産卵箱から出た、レーンに乗っている卵を先に回収するよ」
「はい」
男はテキパキと回収していく。他方ナザトは落とさないよう、慎重にパックに入れていく。1周した。
「よし。次は中に入って、レールに乗らなかったものを回収しよう。巣の中は勿論、外も探してね。特に隅っこ。一見ないように見えても砂に埋めてることも多いから、掘り返してね」
「了解」
中を全て見た。最後にレールをもう一度見て、事務所兼居住スペースに引き上げた。
「まずはヒビが入っていないか確認だ。次に重さを図る。サイズで分けてまとめる。そしたら1つ1つ手洗いで汚れを落とす。傷ついたものは破棄。卵を拭いたら出荷準備完了だ。俺は集卵台車の水洗いとかやってくるから、仕訳は頼んだよ」
30分後。仕訳が終わった。まだ男は戻ってこない。
――少し部屋を見るか。
机の引き出しを開ける。そこにはコムギからの手紙が仕舞ってあった。
――手紙。そうか。植物たちが何処にいるのかを示した地図があったのは、直前までやりとりをしていたからか。そしてこの手紙があるということは、ここにトウモロコシさんがいる。性別を変えられると言っていたし、あの男の人がそうなのだろう。
男が戻ってきた。
「お待たせ」
「いえ、私も先ほど仕訳が終わったところです」
「そうか。もうすぐ12時だ。ご飯にしよう」
その日のメニューは親子丼だった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様」
「ところで、私は見学のためにここに来たんじゃないんです」
「えっ! そうなの⁉」
「あなたにお届け物があって来たんです」
セレカレスからの手紙を渡す。
「なるほど。彼女は役目を果たしたということか」
「あなたを回帰するようにも頼まれました。ただその前に、あなたが抱えている問題を解決するのに、協力したいと私は思っています」
「ふーん。悪いけどお断りするよ。君に僕の願いを叶える力はないし、回帰もごめんこうむる」
「そうはいきません。私にも目的があります。そのために、皆さんを回帰させることは必至なんです」
「大体君ね、死んでくれって言われて死のうとする奴なんていると思うの?」
「それは……」
「そう。いないんだよ。今まで君がどうやって回帰させてきたか知らないけど、死にたがるように誘導したんじゃないの?」
今までを思い返す。コメはセレカレスが直接説得した。コムギは即座に飲み込んだ。ダイズはニコナンの土地を思い、土地のためにと自己犠牲の精神を持っていた。トウガラシは、やれるものならやってみろというスタンスだった。タマネギは元から死にたがっていた。サトウキビは、植物としてのサトウキビが残ればそれで妥協するという感じで、確かに乗り気ではなかった。チューリップはテンビーの為に動いていたが、夢かなわぬと知り、死を願った。トマトは何やら泣いていた。多分手紙を見て、イヤイヤながらも納得したのだろう。
「私は誘導などしていません。1人を除き、皆納得して回帰してくれました」
「それは運が良かったね。でも私は死にたくないの」
そう言いながらトウモロコシは性別と肌の色を変えた。
「最低限、私と同じことが出来ないと同じ舞台に立てない」
「なら、ヒントをください。必ず出来るようになってみせます」
「ヒントと言われてもねー。私は生まれた時から出来たから、君とは舞台が違うんだよ」
「それは卑怯じゃないですか」
「何とでも言うといい。舞台の違えば、理解も共感も救済も出来ない。ということだ。帰りな。お嬢ちゃん」
言い返せなかった。養鶏所を後にした。
――彼女は手ごわい。そもそもあの能力は何なんだ。生まれた時から出来たというなら、植物由来のものなのか。分からない。だが理解しなければ。待っていろ。必ず回帰させて見せる。トウモロコシ。
「お嬢ちゃん、あの人に用かい?」
「ええ。お届け物があります」
「なら、渡したら直ぐに離れた方が良い」
「なぜですか?」
「あの人は怪物だからだよ」
「怪物?」
「肌の色、性別、一人称がコロコロ変わる。それに視覚効果を使ってくる。それでいてひっそりと暮らしているから、逆に気味が悪い」
「どういうことですか?」
「会えば分かる」
道を聞き、トウモロコシの元へ向かった。
動物の鳴き声と共に、獣独特の匂いが鼻をさした。
――畜産を営んでいるって言ってたけど、結構大きい施設だな。
「あのー、すみませーん」
――返事がない。仕方ない。とりあえず入るか。
「ちょっと」
肩をつかまれた。振り返る。
「靴を消毒してもらわないと困るよ」
褐色銀髪の、細見で背の高い男が立っていた。
「あぁ、ごめんなさい」
――姿は無かった。気配も無かった。だから虚を突かれた。急に現れたとしか思えない。この男何者?
「消毒は終わったね。じゃあ案内するからついておいで」
肥育場に入る。
「ウチでは鶏を育ててるんだ。鶏は良いよ。卵も肉も羽も使える。経済的だ」
「そういう理由なんですね」
「勿論鶏が好きというのもあるから安心してくれ」
「別に攻めたわけでは……」
「分かってるよ。誰かに向けた良いわけさ」
鶏舎は4つあった。
「ウチでは鶏舎は4つ。2つはオス用、残りはメス用。掃除するときの引っ越し先として、2つは空けてあるんだ。これは鶏たちのための舞台なんだよね。それより今から集卵だ。せっかくだから体験してみない?」
「あ、じゃあ、やってみます」
「良い卵、汚れている卵、規格外の3つに分けてね。まずは産卵箱から出た、レーンに乗っている卵を先に回収するよ」
「はい」
男はテキパキと回収していく。他方ナザトは落とさないよう、慎重にパックに入れていく。1周した。
「よし。次は中に入って、レールに乗らなかったものを回収しよう。巣の中は勿論、外も探してね。特に隅っこ。一見ないように見えても砂に埋めてることも多いから、掘り返してね」
「了解」
中を全て見た。最後にレールをもう一度見て、事務所兼居住スペースに引き上げた。
「まずはヒビが入っていないか確認だ。次に重さを図る。サイズで分けてまとめる。そしたら1つ1つ手洗いで汚れを落とす。傷ついたものは破棄。卵を拭いたら出荷準備完了だ。俺は集卵台車の水洗いとかやってくるから、仕訳は頼んだよ」
30分後。仕訳が終わった。まだ男は戻ってこない。
――少し部屋を見るか。
机の引き出しを開ける。そこにはコムギからの手紙が仕舞ってあった。
――手紙。そうか。植物たちが何処にいるのかを示した地図があったのは、直前までやりとりをしていたからか。そしてこの手紙があるということは、ここにトウモロコシさんがいる。性別を変えられると言っていたし、あの男の人がそうなのだろう。
男が戻ってきた。
「お待たせ」
「いえ、私も先ほど仕訳が終わったところです」
「そうか。もうすぐ12時だ。ご飯にしよう」
その日のメニューは親子丼だった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様」
「ところで、私は見学のためにここに来たんじゃないんです」
「えっ! そうなの⁉」
「あなたにお届け物があって来たんです」
セレカレスからの手紙を渡す。
「なるほど。彼女は役目を果たしたということか」
「あなたを回帰するようにも頼まれました。ただその前に、あなたが抱えている問題を解決するのに、協力したいと私は思っています」
「ふーん。悪いけどお断りするよ。君に僕の願いを叶える力はないし、回帰もごめんこうむる」
「そうはいきません。私にも目的があります。そのために、皆さんを回帰させることは必至なんです」
「大体君ね、死んでくれって言われて死のうとする奴なんていると思うの?」
「それは……」
「そう。いないんだよ。今まで君がどうやって回帰させてきたか知らないけど、死にたがるように誘導したんじゃないの?」
今までを思い返す。コメはセレカレスが直接説得した。コムギは即座に飲み込んだ。ダイズはニコナンの土地を思い、土地のためにと自己犠牲の精神を持っていた。トウガラシは、やれるものならやってみろというスタンスだった。タマネギは元から死にたがっていた。サトウキビは、植物としてのサトウキビが残ればそれで妥協するという感じで、確かに乗り気ではなかった。チューリップはテンビーの為に動いていたが、夢かなわぬと知り、死を願った。トマトは何やら泣いていた。多分手紙を見て、イヤイヤながらも納得したのだろう。
「私は誘導などしていません。1人を除き、皆納得して回帰してくれました」
「それは運が良かったね。でも私は死にたくないの」
そう言いながらトウモロコシは性別と肌の色を変えた。
「最低限、私と同じことが出来ないと同じ舞台に立てない」
「なら、ヒントをください。必ず出来るようになってみせます」
「ヒントと言われてもねー。私は生まれた時から出来たから、君とは舞台が違うんだよ」
「それは卑怯じゃないですか」
「何とでも言うといい。舞台の違えば、理解も共感も救済も出来ない。ということだ。帰りな。お嬢ちゃん」
言い返せなかった。養鶏所を後にした。
――彼女は手ごわい。そもそもあの能力は何なんだ。生まれた時から出来たというなら、植物由来のものなのか。分からない。だが理解しなければ。待っていろ。必ず回帰させて見せる。トウモロコシ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる