真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

文字の大きさ
上 下
30 / 35
トマト編

食事会

しおりを挟む
「続きまして、栄えある1位の発表です。本コンテストの優勝者は、エントリーナンバー10番ジェームズ。アニフォルカロールです」
 歓声と拍手が沸き起こる。
 優勝トロフィーと賞金100万ゼニーが授与される。
「ありがとうございます。僕の優勝は師匠のご指導あってのものです。彼に感謝を」

 コンテスト終了後、入賞者はマークの作った料理を食べ、運営委員会の者と歓談出来る。
「皆お疲れ様。良い料理だったよ」
 3人は「ありがとうございます」と答える。
「今回は3軍の中から入賞者が出るとは思わなかったよ。トマトさんだっけ? 噂は耳にしていたけど、あれ違ったみたいだね。事前に材料はチェックしたけど毒は無かった。材料は自分で調達しているのかい?」
「はい。あれは私が自分で育てています」
「そうかそうか。君がよければ、その材料の研究に協力してくれないかな?」
「え?」
「使い道は他にも色々ありそうな気がするんだ。どうだろう」
「あ、えっと、その」
「まあ直ぐに返事をするのは難しいだろうから、ゆっくり考えてね。待ってるから」
「あっ、はい」
 歓談会が終わった。

 トマトは自分の家へ戻る。
「お帰りなさい」
 ナザトが出迎える。
「ただいまです」
 トマトはマークから、研究に誘われたことを伝えた。
「いいじゃないですか。優勝こそ逃しましたが、上位者とのコネを手にすることが出来ます。これなら食事会が開けますよ」
「分かりました。じゃあ、ナザトさんも来てください」
「私が行っても手伝えることはないと思いますけど?」
「うまく喋れる自信が無いので」
「あぁ、そうですか。なら仕方ありませんね」

 翌日。2人はマークのところへ向かった。
「もう来てくれるとは思わなかったよ。上がってくれ。お茶でも飲んで話をしよう」
 家政婦がお茶を持って来る。
「改めて昨日はお疲れ様。いい料理だったよ」
「あっ、ありがとうございます」
「あの大会は味は勿論、新規性も重視しているから、それが効いたね」
「あれは前から考えていて、やってみたいと思っていたんです」
「そうだったのか。3軍も馬鹿にできないね」
「はは。どうも」

「マークさん。ちょっといいですか?」
 ナザトが口火を切る。
「君は?」
「ナザトと申します。トマトさんの受託者で、2週間ほど前から彼女と知り合い、彼女の願いを叶えるためにサポートをしています」
「自己紹介感謝するよ。私はマーク。この町1番の料理人と呼ばれている」
「この町はそんなにカーストが大事なのですか?」
「人は意識的であれ、無意識であれ優位に立ちたがるんだよ。この町は元々小さなグループ、民族が集まって出来た歴史がある。自分たちの特権や優位性、アイデンティティを守るためには勝ち続けなくてはならない。だから今更カーストを無くそうとか思っても無駄だよ」
「無くしたいなんて思ってませんよ。ただ、垣根を超えて仲良くすることは出来ないものかと」
「それを実現したければまずは自分が上位者になることだ。改革には様々な力が必要だからね」
「そんなこと、知ってますよ」
 アリエダム諸島で農作業を労働として認めさせることを経験した彼女にとっては、釈迦に説法である。
「だから私たちは貴方とコンタクトを取ったんです」
「へぇ。何を企んでるの?」
「ただ、皆と一緒に食事がしたいだけですよ」
「なるほどね。確かに君たちの立場では叶えられない願いだ」
「お礼として研究に協力する。これでどうでしょうか」
「いいよ。乗った」
「ありがとうございます」

 5日後。
 トマトの家で食事会が開かれた。コンテストでは出せなかったピザや、新規に考案したメニューなどを次々と作った。
「お姉さん」
「っ……」
 そこには、かつて彼女が助けられず、引き篭もってしまった少年の姿があった。
「お姉さんが食事会するって手紙が届いたから、来ちゃった」
「ダニア君」
 彼女はダニアを抱きしめる。
「助けられなくてごめん」
「ううん。あの時手当てしてくれたから、僕にも味方がいるって思えた。だから引き篭もった後も家業の手伝いは出来た。お姉さんのお陰だよ。ありがとう」
 嗚咽を漏らして泣いた。

 夜。
「やっと片付けも終わりましたね」
「はい。色んな人が来てくれた証です」
「満足できましたか?」
「はい。もう思い残すことはありません」
「それでは――」
 トマトを回帰させようとした時だった。戸が鳴った。
「誰でしょう?」
「回帰は対応してからでいいですか?」
「どうぞ」
「はーい。今出ます」
 戸を開けると男が立っていた。
「トマトさんですね?」
「ええ。そうですけど」
「裁判の証人として同行願います」
「裁判?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...