真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

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チューリップ編

勝利

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 翌日、2人はサルケスから紹介を受けて他の金持ちのところへ行った。
「初めまして。ウーヌスさん」
「やあ、サルケスから聞いてるよ。麻を潰したいんだってね」
「正確には「競合製品を潰したい」ですけどね」
「何だっていいさ。あの人生破壊草を無くせるなら協力は惜しまないよ」
「感謝します」
「それで、俺は何をすればいいのかな?」
「ウーヌスさんには、大麻が原因で死んだ人を見たという噂を流していただきます」
「それだけか?」
「その後は、デモにも参加していただきたいと考えております」
「それは任せてくれ。というか、デモなら俺も考えていてな、人を集めていたんだよ」
「おぉ、それはありがたいです」
「他に何か要望はあるかな?」
「デモに参加する方の中から、麻の輸出規制を提案する方を選出していただきたいです」
「それも俺が引き受けよう」
「よろしいのですか?」
「むしろデモをするなら、そういう所まで求めてこそだろ」
「ありがとうございます」

「準備はこれで終了ですわね」
「ええ。3日後、大麻の噂を流しデモを決行。輸出規制を敷いたところで、チューリップの噂を流布。商売を本格的に始めます」
「売れてきたら、大麻を売っている会社を買収してチューリップの流通を確保ですわ。お値段は球根一口4万ゼニー、種一口4百。売れるだけ売りますわよ」

 3日後。噂は瞬く間に流れ出した。
「聞いたか? 大麻中毒で死んだ奴が出たってよ」
「あー。吸った後意識失う奴の延長かー。あり得るなー」
「そんなの自分の許容量を見極められない初心者の自己責任だ。俺たちには関係ねーな」
「いや俺、今でもたまにバッドトリップするんだけど」
「かー。情けねーな」
「おー、何話してんの?」
「あっ、アニキ。聞いてくださいよ」

 1週間経つ頃には、噂は完全に町中に広まった。そしてデモが始まった。
「大麻生産を止めろ!」
「止めろ!」
「一時の快楽に身を委ねるな!」
「委ねるな!」
「輸出入を禁止しろ!」
「禁止しろ!」

「古典的で簡単なデモですわね」
「まぁ、お金持ちのデモ。つまり、参政権を持っている人の主張ですから、手の込んだ事はしなくていいんですよ。事前告知みたいなものです」
「詳細は議会で。ということですわね」
「その討論中に、チューリップが1億で売れたことが広まるように、そろそろこっちの噂も広め始めますよ」
 その日、ナザトたちは証券取引所の片隅でチューリップを売っていた。
 多くの人が通り過ぎていく。
「ナザトさん。全然人が来ませんわよ」
 チューリップは不安そうにする。
「慌てないでください。1人止まれば勝ちですから」
 対してナザトは冷静だ。

 1時間、2時間、2時間半。午前の販売を終えようとした時だった。
「君たち、売り場所間違えてんじゃない? ここは証券取引の場だ。そんなもの売れないよ」
 ――野次馬。これから客になるとも知らずに話しかけてきたか。嬉しいよ。
「そんなことありませんよ。実はこの間、縞模様のチューリップが1億で売れたんです」
「冗談も休み休み言えよ。そんなものが1億で売れるわけがないだろう」
「本当ですよ」
「じゃあ誰が買ったのか言ってみろよ」
「サルケスさんです」
「言ったな? 嘘だったら、ここの球根売りは嘘つきだって言いふらすからな」
「かまいませんよ。逆に、本当だったら買ってくださいね。球根」
「10口でも100口でも買ってやるよ」

「なあ、チューリップが1億で売れたって知ってる?」
「1億ぅ⁉ 花にそんな価値ねーだろ」
「いや、俺もそう思ったんだがよー、配達のノルカが裏取ったんだよ」
「マジかよ。どこのモノ好きが買ったんだ?」
「サルケスって奴だってよ」
「あの仙人みてーな奴が? あいつにも物欲があったのか?」
「どーもきな臭ぇな。何か裏がありそうだぜ」

 大麻生産および流通の議論が白熱する中、チューリップの噂が町中に広まった。世論は大麻からチューリップへと変わりつつあった。
 結果大麻派は負け、生産は縮小し、関連会社はチューリップを扱うようになった。
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